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『広告ビジネス 次の10年 データを制するものがビジネスを制す』(横山隆治、榮枝洋文・著、翔泳社)

 現状の広告とデータのグローバルな情勢について手っ取り早く便覧するには最適な業界事情本である。なぜか今日現在amazonでは17,140位に低迷しているけど、ある意味で、この本を手に取るべき人が取っておらず、読んでいないので問題が把握されていないのでは、とまで思える。

http://books.rakuten.co.jp/rb/12777701/
http://www.amazon.co.jp/dp/479813659X

 帯には『広告マンの8割はいらない!』としているが、実際のところ、実証的で実際的な本書であるにもかかわらず、そもそもその8割の根拠がさっぱり分からないが勿体無いところだ。読み手が広告業界に勤める人たち向けにフォーカスしすぎているのではないか。

 さて、本の内容は極めて明快で優れている。急いでいる人は、とりあえず2章と7章を読めば大体のことは分かる。逆に言えば、ここを読んで分からない人はデータに向き合ってビジネスをしていないか、本書を読んで理解するための基本的な知識・経験の土台を欠いている人である。

 もちろん、本書には批判も多い。読んでると、まあそうなんだけどさ、と言いたいことも幾つか出てくる。せっかく実践的な業界事情本であるのに、肝心のデータ周りはあまり掲載されておらず、むしろ概念や抽象的な話に多く論述が割かれており、KPIの考え方や、データマネジメントとして何を重視するべきなのかといったところはあまり踏み込まれていない。むしろ、DMPの問題はかなり立体的に捉える議論のタネが連打されている、というのが本書の特徴だろうか。なぜかリクルートが持ち上げられていて不思議だが…。

 本書では、かなりはっきりと広告主の「プロ化」がテーマとして取り上げられ、マス広告の相対的な効果低下をきっかけに広告効果の見える化と、全般的なデジタル分野での広告単価の下落or質的欲求の増大が進んだ。そして、動画広告や実際の購買に繋がるお客様に対してどのように適切な広告メニューを組む余地があるのかを広告主側が判断できるようになったために、既存の古き良き「広告マン」はその体育会的なビジネス態度のままでは生き残れないと説く。仰るとおりですね。

 本書で個人的にそれはどうなのかなと思うのは、電通博報堂とそれ以外を分けて、電通博報堂がグローバル化に成功したという前提でお話されている点。そして、そもそも「広告マン」というのは読み手視点では本書を読む取っ掛かりになるだろうが、実際にはもう広告マンや広告代理店という概念が乏しくなって、本書の指摘どおりデータの指南役に変貌していかざるを得ないというところとわずかに矛盾するんじゃないのという点だ。敢えて言えば、日本の媒体を文字通り支えてきた広告業界への淡い期待を寄せているのかもしれないし、クライアントへのアピールなのかもしれない。

 そのあたりを踏まえて、行動ターゲティング広告その他、新しいデジタル分野での広告業界の技術革新のベースを知るにはとても役立つだろう。

 というわけで、本書は個人的にはある程度知識の基板があるのであれば良書の部類に充分に入ると思います。

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