【書評】香山リカ「劣化する日本人」 う~ん、ちょっと本書き過ぎではないでしょうか。「知的な居酒屋談義本」になっております。


私は香山リカさんの現実主義的な考え方というのは案外好きでして、彼女が過去にカツマー批判をした時などは、「もっとやれ! 理想主義言うヤツはボコボコにしろ!」なんて思ったワケであります。基本、私は香山さんの考えは同意することが多いです。

そんなわけで、私は6月に『ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか (朝日新書) 』を読み、概ね同意し(いずれ書くかもしれないぞ)、その余勢をかって『劣化する日本人 自分のことしか考えられない人たち(ベスト新書)』を読んでみたのですが、なんだか既視感があるわけですよ。すぐに分かったのですが、エピソードの使いまわしが一部見えたのですね。

この瞬間、オレは思ったよ。

「香山さん、ちょっと本書き過ぎ!」と。

いや、むちゃくちゃなペースだぞ! 以下、今年に入って刊行されたもの+8月に出る2冊だ。

※先程KADOKAWAの方から連絡いただき、下記KADOKAWAの本はあくまでも電子版とのことです。新たに書いたわけではない、ということです失礼しました。ただ、発売されたことは事実ですので、残しておきますね。

「障がい者」なんて、ひどくない? (香山リカ監修・こころの教育4大テーマ) タナカ ヒロシ、香山 リカ、 山中 桃子 (2014/1)

■ハムタと命の木 (香山リカ監修・こころの教育4大テーマ) タナカ ヒロシ、香山 リカ、 山本 祐司 (2014/2)

■悲しいときは、思いっきり泣けばいい 香山 リカ (2014/3/19)

■香山リカ監修・こころの教育4大テーマ 全4巻 (2014/4)

■しがみつかない死に方 ――孤独死時代を豊かに生きるヒント (角川oneテーマ21) 香山 リカ (2014/4/21)

■いじめるな! ――弱い者いじめ社会ニッポン (角川oneテーマ21) 香山 リカ、 辛 淑玉 (2014/4/21)

■傷ついたまま生きてみる (PHP文庫) 香山 リカ (2014/6/4)

■いのち問答 ――最後の頼みは医療か、宗教か? (角川oneテーマ21) 香山 リカ、 対本 宗訓 (2014/6/10)

■ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか (朝日新書) 香山リカ (2014/6/13)

■比べずにはいられない症候群 香山 リカ (2014/7/1)

■弱者はもう救われないのか 香山リカ (2014/7/3)

■劣化する日本人 (ベスト新書) 香山 リカ (2014/7/9)

■知らずに他人を傷つける人たち 香山 リカ (2014/8/21)

■怒り始めた娘たち: 「母娘ストレス」の処方箋 香山 リカ (2014/8/29)

実に14冊であるっ!

さて、肝心の内容なのだが、アマゾンのレビューでいきなり「星1つ」が2個ついたところからも分かるように、ちょっとやっつけ感がハンパないのである。章立てを見てみよう。

プロローグ――二〇一四年はこれまでと違う時代の始まり
第1章 STAP細胞問題――綺麗な“リケジョ"の強すぎた自己愛
第2章 偽ベートーベン問題――“感動したい、もっと売りたい、目立ちたい"
第3章 パソコン遠隔操作事件――社会への恨みと自己愛の狭間で
第4章 止まらないヘイト・スピーチ――公道で「死ね! 」「殺せ! 」と叫ぶ人たち
第5章 劣化する政治家たち――その発言、公人としてアウトでしょ!
第6章 SNSが日本を滅ぼす!?――性犯罪・いじめ・自殺と“つながる"ネット社会
第7章 知性の劣化と言論の危機――反知性主義と市場の徹底化はパラレルに進む

要するに、今年のちょっと怪しい人物や疑惑の人物を紹介し、「なんでこんなモラルのないヤツがいるのだ……」と嘆き、そういった社会になった背景を予想してみせる。もしも、発売が来月だったら、「号泣県議」こと野々村竜太郎氏を扱う章もあったことだろう。

そして、佐村河内守氏については「演技性パーソナリティ障害」などと、精神科医の専門性発揮してるぞ、オラ! 的に随処に精神科の世界の専門用語をちりばめ、納得させようとしているのだ。

しかしながら、実際に小保方氏や佐村河内守氏と会って話したわけでもないだけに、「騒動の解説」と「その人物に対する感想」に終始せざるを得ない。オレ自身はこういった話題の人物が出たらネットでの評判などを見るのが仕事なだけに、週刊誌ネタも含めてかなり知っているのですよ。だから、事実の部分については、「知ってた」という感想のみ。

そして、肝心の分析部分だが、あくまでも推測の域を出ていないのである。

”「こっちのほうがわかりやすくなるな」と思ってしまったのかもしれない。”

”先ほどの自己愛的なSNSユーザーとほとんど変わらない動機がそこにはあるのではないだろうか”

”小保方氏がまだ30代になったばかりの若くて魅力的な女性だから、だけではないはずだ”

”このギャップが、私たちの興味をこれほどまでにひきつけたのではないか、と思うのだ”

ここで紹介したこの「推測論法」ともいえるものは、わずか2ページの間に登場したものである。もっとすごいのが次の段落だ。

”おそらく小保方氏は、この「自己効力感」、つまり「私は絶対に万能細胞で世界中の人を救うことができるはず」という確信は、人よりかなり強かったのだろう。先ほどの自己愛と並んでこの「自己効力感」の強さがすべての問題を見えなくしてしまい、「できたらいいな」を「絶対にできた」に変えた、と言ってよいかもしれない”

幸福の科学の「守護霊インタビュー」ほどぶっ飛んではいないが、報道から見える点を元に推論を重ねるのはまさに「知的な居酒屋談義」でしかないのではないかと恐らくは思えてしまうのだろうが、そう思うのは私だけだろうか、いや、そんなことはないと言っても良いかもしれないが、多分私は正しいはずだ。(中川淳一郎)


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