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電験二種 理論 令和2年 問2 時間的に磁気抵抗が変化するときの自己インダクタンスとコイルのエネルギー(電源無し)


 難易度「普通もしくは簡単」と称される本問ですが、何回か解いていて苦手だったので何故難しく思うのか調べてみました。

1.電源がない
 5回ほど解いてやっと気づいたのですが、こやつ電源が無いですよね? 電圧源も電流源もない。でも電流は流れている。
 電2初心者の俺様は、「どうやってこの状態にもっていったのか」を無駄に考えてしまいます。電源を最初につないでおいて、あるタイミングでそれを抜き去り、0秒で短絡させたのでしょう。そうして無限ループする回路が出来上がった、こう想定するのが初心者には理解の助けになりそうです。
 とにかく、電源が無いことに気付くことで問題の難易度はぐっと下がります。

2.回路方程式を立ててみる
 電源も抵抗もないので、コイルの起電力についてのみ考えればいいので、単純に
$${\LARGE L\frac{di}{dt}=0 }$$
 
となります。
 なんで第二項が0かというと、電流が変化してないからですな。実は起電力が起こりようがない。
 なぜ電流の変化で自己誘導起電力が起きるか忘れてしまった人はこれを見てみよう。

 ともかく$${\LARGE L\frac{di}{dt}=0 }$$が、この回路を表すもっとも簡単な式なわけです。

3.鎖交磁束数Φについて考える
 鎖交磁束数は単純に、電流に対して鎖交する磁束の総数ですから、式で表すとこうなります。
$${\LARGE Φ=φ N }$$
コイルがN回巻きだったら、φをN倍してやれば鎖交磁束数が出るというだけの話です。
 更に問題では自己リアクタンスと鎖交磁束数について問われているので、まずLとΦを表す公式を思い出してみると
 $${\LARGE L= \frac{Φ}{I}}$$
∴$${\LARGE Φ= LI}$$
となります。
 問題文では、鉄心を抜こうが抜くまいが鎖交磁束数は一定だよ、と言っています。この理屈は、先ほどの式
 $${\LARGE L\frac{di}{dt}=0 }$$
 から建てられます。
 まず、tが邪魔なので両辺をtで積分してみます。
 $${\LARGE \int L\frac{di}{dt} dt = \int 0 dt}$$
∴$${\LARGE LI=C }$$
 ここでCは積分定数なので、常に一定です。
 そんでもって、LとΦの関係を表す式を代入すると結局、
 $${\LARGE Φ = LI = C}$$
 ということで、鎖交磁束数も結局一定になります。これはびっくり。
 納得できない、という人はこの動画も見てみてください。

4.鉄心を抜き差しすると何が起こるのか考えてみる。
 問題では鉄心をシコシコ抜き差しするので、これを考えるちょうどいい動画を発見しました。

 要するに鉄心を入れるとコイルの磁力がつおくなります。抜くと弱くなります。なんでこんなことが起きるのかというと
 https://officemiyajima.com/index.php?QBlog-20140206-1

 こちら。つまり空気は磁気抵抗が強いので、コイルの中心に鉄心を入れる時より磁力が弱いのです。逆に鉄心は磁力線をよく通す(磁気抵抗が低い)ので磁力が強まります。
 なぜ磁気抵抗が低いと、磁力が増すのでしょうか。公式で単純に考えます。磁気回路においてΦは、
 $${\LARGE Φ= \frac{NI}{R}}$$でした。
 そして磁気の強さHは
 $${\LARGE H= \frac{B}{μ} = \frac{Φ}{Sμ}}$$ ですので、

 $${\LARGE H= \frac{NI}{RSμ}}$$と書くことが出来ます。
 要するに磁力の強さは、磁気回路の抵抗の大きさに反比例します。
 なので、鉄心を入れた方が磁力がつおくなるのです。

5.ちょっとまとめる
・回路初期状態では電流の変化が無く、起電力も起こりません。
・磁束鎖交数は鉄心を抜き差ししても変わりません。
・鉄心がぎっしり入っていた方が、磁力は強いです。

 では鉄心をちょっとだけ抜いてみたら、実際何が起こるでしょうか。
 鎖交磁束数が変化しないのですが、自己リアクタンスと電流が変化することが問題文には示されています。
 自己リアクタンスが変化することは容易に想像できるというか、式的にも明らかです。
 $${\LARGE L= \frac{N^2}{R}}$$
 なので、鉄心のかぶり部分が少なくなる→磁気抵抗が増す事で、リアクタンスLは小さくなります。
 電流はどうなるかと考えると、鎖交磁束数が一定であることから、これも鎖交磁束数とリアクタンスの式から考えて、
 $${\LARGE I= \frac{Φ}{L}}$$
 リアクタンスが小さくなれば電流が大きくなることが分かります。すなわち、鉄心をちょっと抜くと電流が大きくなるのです。
 逆に言えば、鎖交磁束数は変わらないので、
 Φ(0)=Φ(x)
∴$${\LARGE L(0)I= L(x)i}$$
ということになり、リアクタンスの変化を電流の変化で補填しているような等価式が成り立ちます。
 エネルギーについて考えてみると、
 エネルギーWは
 $${\LARGE W= \frac{1}{2}LI^2}$$ なので、

 $${\LARGE W_1= \frac{1}{2}L_{(0)}I^2}$$

 $${\LARGE W_2= \frac{1}{2}L_{(x)}I^2 = \frac{1}{2}・\frac{L_{(0)}^2}{L_{x}}I^2 }$$
 
 と表すことができ、
 $${\LARGE L_{(0)} > L_{(x)}}$$ であることを考えると、W2の方が大きく、鉄心をちょっと抜いたらエネルギーが増えたことが分かりました。
 エネルギーが増えた理由は「鉄心を抜いたから」であり、単純に「コイルを抜く力F」がW2-W1と等価であると言えます。

 まとめると、
 ・鉄心を抜いたことにより磁気抵抗が増した
 ・磁気抵抗値が上がると、磁気が弱くなる
 ・コイルは慣性のように磁気の変化を嫌い、維持しようと電流を増やす
 ・結果的にエネルギーが増える
 ・このエネルギーは鉄心を動かす力と等価と考えることができる

 ということでした。
 いや難しいよね??? やっぱり。


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