アフリカン4DXとは
「飛行機乗るとなんかワクワクするよね!」
同じ研究室の友達にこんなことを言われたことがある。呑気なものだ。毎回死ぬ覚悟で私は搭乗しているのに。
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2018年11月、ジンバブエでの滞在を終えてマラウイに移動しようとしていた。
ジンバブエからマラウイに行くにあたり陸路移動ではなく空路で行くと決めた。ずっと陸路移動を繰り返してきた私からすると、なぜか敗北感がある選択だった。もちろん旅の方法に負けなどない。
しかし、「私はバックパッカーである」と声を大にして言ってきた自分が飛行機という高級な、そして簡単な手段を選ぶことに抵抗があった。
「バックパッカーたるもの陸路移動が基本だ」と思っていた。いや今も思っている。
しかし、色々語るには長すぎる理由によりジンバブエからマラウイは飛行機に乗ることにした。ただ一つ言えることはジンバブエという国の経済は終わっているということだ。失望してもしきれない。
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駐機場に佇んでいるその飛行機は今まで乗ったこともないくらい小さかった。100人は乗れないくらいのサイズだ。
もちろん空港からスロープを使って搭乗するということもないので飛行機の入り口まで駐機場を歩いていく。
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その飛行機は、ジンバブエの首都ハラレからザンビアの首都ルサカ経由でマラウイの首都リロングウェに向かう。同じ機体であるがルサカで一度人を下ろしてマラウイに向かうということだ。
覚えておいてほしい。ルサカに経由するが機体は変わらないのでルサカでは降りずに待機してマラウイに向かうということだ。離着陸をそれぞれ2回繰り返す。
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まず、経由地であるルサカに向けてハラレを離陸。
離陸直後や着陸直前はそうでない時間に比べて揺れる可能性が高い。それは経験的にわかっている。
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雲一つない紺碧の空に向けてふわっと浮いたかと思うとどんどん上昇していく。にっくきハラレの街中を見下ろしながら機体は一路西へ。
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離陸は成功したかに思われた。
「スゥン」
あの嫌な突然の下降現象である。体重が一瞬なくなってふわっとする感覚。気分が悪くなる。
続けて細かい横揺れ。
不安になってきた。
「スゥン」
今度は先ほどより落ちた感覚。気分がまた悪くなる。
少し上昇した後、「スゥン」
手汗でひじ掛けがべちょべちょになる。
「スゥーン、スゥン」
二発まともに食らった。もう左手は自分の座席、右手は前の座席をしっかり握ってないといられなくなる。
細かい横揺れがまた現れる。
家族と友達に対する遺言を考えはじめる。しかし、両腕は両座席にしっかり固定された状態なのでメモなど残せないと悟る。冷静に考えてあの手汗の具合だと、紙があってもべちょべちょになるだけだ。
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わかるだろうか。離着陸の度に揺れは大きくなる。そして今まで書き記していることは経由地ルサカに向かう離陸時のことだ。
結論から言うと、ほぼ同じような状態に4度なった。
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無事ルサカに着陸した飛行機は、乗客を降ろして再度離陸体制に入る。
プロペラの爆音が鳴り出し加速。数秒後に離陸。
先ほどまでのことがあったため完全に私は取り乱していた。もう揺れどうこうではなく、手汗と足汗が尋常じゃないレベルにあった。
細かい横揺れと「スゥン」がつづく。
「ぽとっ」
何かが頭に当たった。
「ぽとっ」
頭上を見上げた瞬間、また何かが降ってきて肩に落ちた。
よく見ると左頭上の壁にある窓との隙間からヒョウが落ちてきていたのである。
最初、凍った粒が落ちてきている現実に、全く理解が追い付かなかった。
仮にもこれは国際線である。そして、マラウイアン航空という仮にも一国を代表する航空会社の機内である。どうゆうことだ。
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私はあまり映画館によく行く人間ではない。従って、4DXというジャンルの映画を体験したことがない。しかし、今目の前で起きていることは奇しくも4DXと同じなのではないか。聞く話によると4DXは座席が動き、雨が降るという。座席は極端な上下運動と細かな横揺れを繰り返している。そして、雨ではないがこの機内にはヒョウが降る。
なんということだ。海外旅行は常に新しい経験をさせてくれる。まさかアフリカで4DXを楽しむことができるとは。いや楽しむことはできなかった。
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2020年1月6日、南スーダン難民支援プロジェクトでウガンダに来ていた私の目の前に30人乗りくらいの小型飛行機が出発を待っていた。
ヒュウが降るという前代未聞の経験をしたからこそアフリカの航空会社の飛行機に乗るのが心底不安だった。
今でも信じられない。なぜ氷の粒が降ってくるのか。
しかし、今目の前にある飛行機はその時のものに比べても一回り小さいもので、もっと揺れることが想像される。
どれだけ力を入れても口角を上げることはできなかったが、難民の子どもたちのため仕方なく乗り込んだ。また新たな旅がスタートする。
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