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【004】「届かないものが届く可能性について」2022年6月の日記➁

・今月の僕は一味違う。その証拠に日記を二回も更新している。これは偉業である。この偉業は世界史にも刻まれることだろう。受験生が覚える事柄を増やしてしまった。申し訳ないけれど、事実なので仕方がない。

・近所にたらこの自動販売機が爆誕していた。これも事実である。いや、もしかすると前からあったかもしれない。この曖昧さも事実である。

謎の自動販売機

・「たらこ食堂」という名前らしい。たらこ食堂はふくやグループのヤマトバイオレッツが展開しているブランドで、この自販機自体も福岡には前から存在しているようだ。

・80gで1,000円。たらこの相場として高いのか安いのかは分からない。しかし面白い試みである。

・特にこの「会員制 明太子(甘口) 1,500円(税込み)」が気になる。自動販売機で会員制って何事だ。

・興味を惹かれたので買ってみようかと思ったけど、決済方法が現金オンリーだった。新しいのに新しくない。財布を取り出すほどの気分ではなかったので結局諦めてしまった。

・福岡に来てまず思ったのだけど、自動販売機で電子マネーを使える場所が少なすぎる。どの自販機を見ても現金現金現金である。これが普通なのか? 東京にいたから常識が捻じ曲がってしまったのか? たらこ食堂の隣の自販機も現金専用だし。

・しかし常識というものは怖い。正確には「常識だと思う」と過信することが怖い。使い古された格言にもあるように「あり得ない」はあり得ないのだ。

・例えばAmazonの配達。僕はこれまで百回くらいはAmazonを利用してきたけど、一度も誤配送にぶち当たったことがなかった。スマホからぽっちとすれば数日後には商品が届くフローに疑いを持たなかった。そこに人的な対応が絡むことを想像できないほどには、妄信していた。配達なのだから人が物を運ぶ。そこには配達ミスがあって当然だ。

・Amazonでは配達が完了したら通知が届くようになっている。数日前の僕はその配達完了メールを受け取って、意気揚々と家に帰った。物が届くというのは、それがなんであれ気分が高揚するものである。たとえそれが仕事で使う部材であっても。メールの記載によると商品はポストに投函されているらしい。

・しかしポストを開けても、そこには商品など入っていなかった。オートロックに締め出された時のためのスペアキーしか存在しなかった。最初は理解できなかったが、すぐに誤配送だと気づいた。

・対応方法が分からなかったのでAmazonのQ&Aを読んでみたけど、注文者のミスを疑う文言ばかりで、有益な情報が何もなかった。例えば「住所の記載間違いしてない?」とか、「もしかして配偶者がすでに受け取ってない?」とか。パソコン修理のコールセンターかよ。「電源コードが抜けてませんか?」みたいな。

・Q&Aの末尾によると、どうやら電話で問い合わせをしないといけないらしい。そうなると途端にヤル気が出てこない。そこまでしないといけないなら、いっそのこと再注文するよ。そんなに高い買い物じゃなかったし。

・と、思って一日明けてみると、ポストに品物が届いていた。パックの表面には紙が貼られている。誤配送に気づいた配達員が謝罪文と一緒に再投函してくれたのか?と思ったが、一読すると違うことが分かった。なんと、誤配送先の人がわざわざ届けてくれたのだ。

・こんなにも丁寧なメッセージを添えて。

・本当ならネットにこんなものをアップすべきじゃないけど、あまりにも感動したので上げてしまった。文字も文面も素敵すぎる……。果たして俺が同じ目にあったとき、こんな大人な対応ができるか? 惚れてしまう。お礼をさせてほしい。

・そして、自分がこの出来事に深く感動していることにもビックリした。いわゆる「いい話」に該当すると思うけど、自分はこういうエピソードを鼻で笑う側の人間だと思ってたから。こういう類の善意が届かない人間だと思っていたから。当事者になると意識が変わるものなのかもしれない。

・もしまた同じようなことが起きた時に、商品が届く可能性はどれほどだろうか。届くべきものが届く可能性は100%ではない。そして届くべきものが届いてほしいと思われる可能性も100%ではない。と思う。

・でも、それが100%だって信じてもいいかもしれない、と感じたことに、僕は感動したのかもしれない。嬉しいね。本当に。


・ゲームセンターで見つけた「99.99999999%GETできちゃう台」。最初からアームに景品が吊られている。アームが開けば落ちるって仕組みだ。つぶらな瞳でぬいぐるみが虚空を見つめている。一体いつからお前はそこにいるんだ。もしかすると、ずいぶん前からそこに居続けているのかもしれない。

・あなたを欲しいと思う人が現れてくれることを願っている。

・届くべき人に届いてほしい、ってことだ。

・それを心の底から100%で思えているかと言われれば、やはりまだ怪しい。

(おわり)

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