初めて指導対局に行った話

2023年7月29日、初めて指導対局を受けたので備忘録として残しておく。

7月9日、嫁Pさんのツイートで伊藤真吾六段の大盤解説&指導対局が地元で行われると知り、地方在住者にとってプロに教えてもらえる機会なんて滅多にないので思い切って申し込んだ。

私の棋力は、将棋ウォーズ4級の60~80%の中飛車+美濃囲い党。3手詰めハンドブック1はほぼひと目解けるが、5手詰めハンドブックは初見ではほぼ解けない。リアル対局は年に一度の町内会の将棋大会だけ。そんなレベル。

駒落ちを学んでみた

指導対局はTwitterではよく見かけるが、自分が受けるのは初めてなので調べてみると「駒落ち」で指すらしい。しかし自分が何枚落ちで教わればいいのか分からない。何しろ初めてなのだから。ネットで調べてもはっきりしないので申し込み時に主催者に確認したところ6枚落ちがいいのではないか、と回答をいただいた。

せっかくプロの先生に教わるのだから出来るだけの準備をしていこうと駒落ちの勉強をすることにした。実力テストは実力で受けるものとうそぶいてノー勉強で望んでいた学生の頃の私とは違う。

7月20日。とりあえず「ぴよ将棋」の最強レベルぴよ帝と6枚落ちで指してみることにした。いくらなんでも6枚落ちに負けるはずがない、どうやったら負けるのかと思っていた。何しろ相手に飛車角桂香がないのだから。

実際、私は序盤からぴよ帝の歩を蹂躙し、逃げ回る金銀を追いかけ回した。王様を捕まえるのも時間の問題に思えた。誤解を恐れずに言えば気持ちがよかった。あんなに私を負かしたぴよがなすすべなくこの私に…くくっ。

しかし。気がつけば歩で桂馬を取られ、その桂馬で金銀が剥がされ、その銀に退路は塞がれその金を腹に打たれて負けた。

不思議と悔しさよりも面白さが勝ったのを覚えている。飛車も角もなくても手を尽くせば、知っていれば勝てる。小駒を相手に渡さないことで決め手を与えない。駒落ち定跡は中飛車党の私には直接的にはあまり生かせないが、本質的には将棋が強くなるエッセンスが詰まっていると感じた。

その日から駒落ちの棋書、YouTube動画を見て駒落ち定跡を学んだ。戸辺先生も中村太一先生も所司先生も古田さんも石川さんも定跡定跡と言いながらみんな指す手が違うことに最初は戸惑った。しかし言ってることは同じで、9筋(または1筋)を突破して龍を作り、成駒で確実に攻める。六枚落ちはこれに尽きる…ぽい(自信はない)。

指導対局の前日。自分の駒を使ってもらうことは出来ないだろうか、ふとそんな考えが浮かんだ。Twitterでどなたかがそんなことを呟いてた記憶がある。自分の駒をプロ棋士の先生が使う―考えただけで胸が高鳴る。そうと決まればつやふきんでしっかり磨いて鞄に忍ばせた。綺麗な駒ですね。そうなんです!自分で磨いたんです!そんなやり取りを期待せずにはいられなかった。ちなみに前日時点でのぴよ帝との戦績は2勝4敗。最終戦で1筋から攻めて気持ちよく勝てたので本番も1筋から攻めようと決めた。

指導対局当日

会場に向かう車中、私はイトシンTVをほとんど視聴したことがないことに気がついた。まずい。イェイイェイのやり方が分からない。挨拶の前なのか後なのか。ダブルピースだったか、親指立てだったか。慌てて2本ほど過去動画を視聴した。どちらもイェイイェイはやってなかった。

時間ちょうどに受付を済まし部屋に入ると目の前に伊藤先生がいらっしゃって目を疑った。普通に最初から…満を持して「伊藤真吾六段です!どうぞ!」とかじゃなく…だと?戸惑いながらも自由席だったのでなるべく前の席に座りスタートを待った。

最初は大盤解説。参加者は30人くらい。子供も6人くらいいたように思う。6枚落ちの定跡講座(タイムリー!)と伊藤先生の叡王戦の自戦解説(長岡六段戦)だった。6枚落ち講座では9筋を攻めるパターンと1筋を攻めるパターンを教えていただいた。自戦解説では長岡先生が関西に移籍して羽生先生と今は研究会をしていないという裏話が個人的にショックだった。

続いて指導対局。6面指しだったが自分の番が来るまで時間があったので5手詰めハンドブックを解きながら待った。余談だが鞄の中には「先手中飛車の最新テーマ21」(伊藤真吾著)を忍ばせておいた。世の中何があるか分からない。ふとした拍子に私の鞄からまろびでた自著を伊藤先生が拾う世界線がないとは限らない。

ちなみに私はこの時初めて下手が玉将を使うという至極当然なことに気づいた。あやうく上手に玉将を持たせてプロを冒涜するところだった。

私は今回アプリで棋譜を取らせてもらおうと考えていた。対局の再現など私には無理なので、後で振り返って勉強するのに必須だと思ったからだ。先生は一手ずつ指して回るのだからそのくらいの余裕はあると思っていた。ところが他の方の指導対局が始まって愕然とした。何手も指してる…これは無理だ。2手も3手も前のことなど覚えていられない。ここは指導対局に集中する方が得策と切り替え、棋譜を取ることは諦め最後に終局図を写真に撮ろうと決めた。

いよいよ私の番がきた。係の方に自分の駒を使いたいと伝え了承をいただいた。竹風作源兵衛清安の彫り駒。中古だが自分で磨いたお気に入りの駒だ。用意されていたプラスチックの駒を片付け自分の駒を並べて待った。おもむろにマイ駒を並べだした私を皆が見ていると思って少し恥ずかしかった。もちろん誰も見ていない。自意識過剰だ。

伊藤真吾六段との対局に使用した駒

挨拶を交わし、厳かに初手が指された。私は先生が指した手を覚えていない。2二銀とかそんな普通の手だったとは思う。そんなことより並べられた木の宝石を前に先生はまったくのノーリアクションだった。完全に研究を外された。こんなことは先生にとっては日常茶飯事で特に変わったことではないと今となっては分かるが、その時の私はひどく動揺した。磨きが足りなかった、と。

指導対局は緊張してうまく駒を置けなかったり、タダのところに成駒を指してやり直しさせていただいたりしたがなんとか上手を詰ますところまで指させていただいた。対局中は考えたいところでは自然に次の方に移動してゆっくり考えさせてくださるあたり流石プロだと感動した。

感想戦では簡単な詰みがあったことを指摘されたり、どこが急所だったのか明確に教えていただいた。とても充実した時間で参加して本当に良かった。また指導対局を受けたいと思いながら、ひとつずつ駒を片付けて席をたった。終局図を写真に撮るのは忘れた。

終局図 5三角成まで(局後記憶を頼りに再現)

最後に

指導対局をきっかけに駒落ちを勉強したが、これがとても良い出会いだった。平手の実戦に良い影響が出るかどうかはまだ分からないし当分指導対局の予定もないが、駒落ちの勉強はこれからも続けていきたいと思う。


最後にやり忘れたこと

・投了図を写真に撮りたかった。
・棋力認定してもらいたかった。
・今の棋力で何を最優先に伸ばすべきか聞きたかった


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