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オーバーホールってなんだろう

とある名器と言われるドラムマシンに関する画像を見つけてちょっともにょったので書く。

これじゃない

RolandのTR-909である。言うまでもなくドラムマシンの名機・・・・ではあるがここ3年で値段が数倍に跳ね上がって転売ヤーの手で転がされてる雰囲気すらある一品である。
ちなみにわたし個人としては縁あってTR-909のメンテをしたことがある。
シンセ修理しているときは多かれ少なかれTwitterで経過報告というなの糞ツイートをしているのだがそれをオーナーであるB.Toriyamaさんがまとめてくれたのでそれを紹介させて頂く。

私のアイコンが表示されていないが、アイコンはエロゲアイコンである。
そんなことはどうでもいいことだが、ひとまず上記を読んで私が何をしたのかを見てもらいたい。さいしょ、Toriyamaさんから話があったときはボタンの接触不良とかそんなレベルじゃないか、という話だったのだが、中を見てみるといろいろと味わい深い世界が広がっていたのである。
味わい深い世界とはなにか。それは寿命が来てるパーツ類である。
TR-909はトランジスタの直流増幅値(hFE)を頼りに皮物のアナログ音色を合成している。つまり各オシレータからの音をミックスするVCAのミックス配分がトランジスタのhFE値に左右されているのである。
最初は回路図をそれほど読み込んでいなかったというかわたしがアホだったこともあり回路図に記されているヒントを掴めていなかった。
回路図は略するが、ミックスに使用するトランジスタに丸がついているのである。
この丸が何を意味するのかは最初はわからなかった。
しかし、預かっている実機の音色をRolandCloudの仮想マシンと比べたりしているとタムの音がおかしいことに気づいた。ダンとなるところがすっぽこな音がするのである。ここから回路を逆追い指定ってたどり着いたのが先の丸がついたトランジスタ群であった。
ここからない脳みそを振り絞り回路図を読んだ結果、ここでオシレータの波形を合成していることがわかった。そしてその合成のコントローラはない。つまりトランジスタに全て委ねられているのである。
ぞくにいう「マッチングトランジスタ」が必要だったのだ。
トランジスタのhFE値と言うのは温度など外的要因で容易に変わってしまうものである。このため、外的要因から受ける変化が同じようなものを揃える、これがマッチングトランジスタである。話はそれるがAB級アンプのプッシュプルトランジスタみたいなもんだ。
で、このトランジスタが問題だった。何が問題というと壊れる。それはもうカタログ中のグレードが同じでも値のばらつきが半端ない上、出荷時にマッチングされてたはずなのに値がめちゃくちゃになっているのである。要するに「デジタル回路とかなら問題ないカタログ値の範囲ではあるけど、あたいが経年劣化でクソになる」状態だった。
デジタル回路ならトランジスタなんてものはほぼほぼスイッチなんでもんだいないけど、ここはVCAの合成だ。値が変わったら大惨事である。その第三時から生まれたのがすっぽこすっぽこと覇気のない音を奏でるタムであったのだ。
とりあえず、同じ型番のトランジスタをマッチング指定も含めて計測してみると、それはそれはもう散々たる結果であった。カタログ的には仕様範囲内ではあるのだが場所が悪すぎたのだ。
デジタル回路なら問題無しとして過ごすのだが場所が場所、出音が出音なだけに私個人的にはこのトランジスタは経年劣化で値が大幅にばらつきが出てしまうという仕様内ではあるが問題のあるトランジスタと判断した。だって音がすっぽこなんだもん。
ようするにトランジスタが経年で大幅に特性が変わってしまうというクセがある代物だった。
そこで私がどうしたかというと、ヤフオクで該当トランジスタを販売しているバイヤーさんがいたので相談して出品数を大幅に超える100個とか発注してみた。
そして届いたものすべてを温度が安定した状態でhFEを測定してみた。
すると新古品であるにhFE値に倍以上の開きを生じるものがあった。
そして測定を進めるうちにとあるロットのものが8割方良好な数値を出すものを見つけたのである。そんでもって販売元さんに問い合わせて、ふつうならどう考えてもNGだろ、というロット指定で注文できないかと相談してみたのである。そしたら予想に反して快くOKしてもらえて該当ロットのトランジスタを必要数の3倍位入手できたのであった。
で、いくら良値を出すトランジスタといってもマッチングじゃなければ設計上の音色にはならないわけで、しかも他の音色と音量バランスの差が出ないようにタムはタムで本来3つマッチングしていればいいところをすべてのタムでマッチングできるようなトランジスタを選抜して組み込んで設計上の理想的な音色、音量バランスになるように調整したのである。
その他、もう一個ぶっ壊れるトランジスタがあってスナッピー回路からのノイズがラインに乗ってしまう問題があって、預かったTR-909では前のオーナー、もしくはその「ちょっとでんしかいろにくわしいおともだち」が音色出力抵抗値を上げてノイズの足切りをしようとしていた痕跡を見つけたのであった。この点、色々調べるうちに海外フォーラムにオリジナル設計者と言うなの神が降臨していたのでそのアドバイスで対応したところノイズは綺麗サッパリ消えたのであった。

相当長くなったが、何を言いたいかというと、「オーバーホール」といおう単語を手掛けた機材に付ける場合、どこまでの対応を言うのかが人によって天と地ほどの差があることがわかったのである。

わたしは「オーバーホール」と言われれば未来を見据えて「まだ壊れていない」箇所も全て予防対処を行い、機材を長く使ってもらえるように対応することが「オーバーホール」というものだと思っていた。

だが本ポストの一枚目の画像を見ていただきたい。ケツが危ない。

2枚めの画像を見てほしい。これは数十年前からあるシンセサイザー界では老舗中の老舗のお店に顧客が「オーバーホール」を頼んでそこで施された内容である。
はっきり行って何だこれ、なめてんのかてめぇである。

考え方の違いはあるだろうが、私はオーバーホールを依頼されたら持病などを調べたり、現在出ている故障から他にも故障の可能性が高い箇所の洗い出しをしてそれをオーナーに伝えて了承をえて手を入れる対応をオーバーホールだと思っていた。
つまりは現状を踏まえて対応後の未来を重視した対応を行うことがオーバーホールという作業だと思っている。

だがどうであろう。
上記画像の内容はわたしの思うオーバーホールとはあまりにも解離している。今ある不具合を対応しただけである。これでは車の車検と同じで、現在ある問題のみを対応してOKとする、という対応のみである。
わたしからいえばただの修理である。
必ず壊れる部品があるのに見過ごしている。
コンデンサなども35年経ってれば遅かれ早かれイカれるのが常識的なものである。
しかし何もしていない。
これが老舗の楽器屋のやることなのかとそれはもう驚き呆れた。
先のことを何も考えていない。この対応で現状の状態で「太鼓判」をおす状態だそうだ。
これで太鼓判なら私は何を押せばいいんだろうか。金印でも押さなければならないだろうか。

とにかく、楽器は個人に修理を依頼するのではなく信頼のおける楽器屋に依頼しろ、というのが昔から言われていることであった。
だが現実はどうだろうか。鈑金してボタンのいち替えしてガリ取って終わり。
なめとんのか

どんな機種にも多かれ少なかれ持病は存在する。これはデジタル機器、アナログ機器関わらずだ。考えても見てほしい。シンセサイザーなんて横行な名前付いているが家電製品である。あなたの周りに30年以上大したトラブルなく動いてるものがあるだろうか。あったとして故障箇所を対処しただけで今後何年も使うようなことができるといえるだろうか。

たしかに私の対処を行ったとしても今後10年動くという保証は一切ない。
何が壊れるかわからないのだ。それが電子回路なのか物理的なプラの劣化などの破損など壊れる要因はいくらでもある。だってもう30年以上経過してる気化員団から。保証はできない、でも出来得る限りの対処を行いすこしでも長く使ってもらうことを目指すのが「オーバーホール」ではないだろうか。

少なくとも私はそういう考えてあれもこれもと対応した上で初めて販売商品に「オーバーホール済み」という単語をつける。

みなさんにとって「オーバーホール」といった場合はどういうものを期待しているだろうか。
個人差はあるだろう。とくにわたしは病的なまでに負の可能性を潰しにかかる工数を無視した対応を行うことが多々ある。

人の考えは色々あるだろうが、上記の自称「オーバーホール」の対応内容はとうてい老舗シンセ店がやるような仕事ではないと思っている。ましてや対応担当が太鼓判を押すなどとはありえない。このようなことを老舗楽器店が行っているのであれば自分の首を締めることになるような気もするのだが、経年劣化のこともあるのでうまいこと言いくるめるのであろうか。すくなくともわたしゃそう言うことはしたくない。

追伸
先日行われたToriyamaさんのプレイを聞かせていただいたがまさに理想的な「TR-909」が大暴れしている大変気持のいいものであった。環境の事情でコンプを通していない分、素の音が聞けてわたしの対応から3年経過した現状の音を聞けたわけだが、元気が有り余ってるようですこぶる安心できたことを追伸として記載しておく。

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