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オールドクラリネットへのいざないVol2 AugustBuffet

オールドクラリネットへのいざない、第二弾はAugustBuffetです。オーガストブヘー!ヨーロッパの優雅な伝統に育まれたとかなんとか。

昭和30年頃にコッス楽器販売という楽器商社が扱っていたものらしいです。執筆現在2023年なので70年前の管ということになります。
当時の日本ではまだクラリネットを自社で製造するというよりも海外のものを商社が輸入するのが普通な時代だったのかと思います。(Nikkanの製品歴史を見ても当時はまだ国内で製造技術を獲得できていなかったのかなと)
現在Vandorenの代理店でみんなお世話になっている野中貿易さんも昭和30年台当時はMartin Freres 1740を代理店として扱っていたような時代です。

さて、AugustBuffetです。AugustBuffetといえばベーム式の始祖というかいろんな御大がいましてその関係かーーー!?と思われるかも知れませんが、この「AugustBuffet」というブランド名を冠するメーカーは海外ニキの調べでは4社ほど有るらしいです。とりあえずこのコッス楽器販売さんが輸入してたやつというか実際のAugustBuffetさんが関わってるやつはほぼないみたいです。ないない。

でもいいんですよ、そんな些細な事は。些細じゃない気もするけど。
まず、私が所持しているものと売りに出しているこのAugustBuffetはBuffet一家とは関係ないものだと思います。というかほぼ確実に関係ないかと。
で、なんで2本持ってるの?というところですが、まず一本は販売用です。そしてもう一本は私の愛機です。私の愛機です。大事なことなので二回でもさん回でもいいますよ。

私がAugustBuffetを愛してやまないのはその音色。非常にヌケがよく、芯が通った音色、そしてヌケが良いだけではなくボディ音域もしっかり響くその許容力の広さ。
クラリネット修理で様々なオールドクラリネットを修理して吹いてきていますが、このAugustBuffetの音色(おんしょく)に惚れ込んでしまいました。
私自身はもともと独学でピアノを弾き、基本的にはキーボードを弾くキーボーディストなんですが、シンセで言うところの「ヌケが良くて太いリード」、そういった音色がまさにこのAugustBuffetなんです。(個人の感想です)


2本とも斜めったりしてるものの柾目で密度の濃い管の木目、そしてキーシステムはなんの癖もないごく普通なキー。そう、普通なんです。普通。

BuffetCramponというかEVETTE SCHAEFFERも使用していて「ああ、これはたしかにグローバルスタンダードな音だ」っていう感じがありますが、AugustBuffetは一味違います。ちょっと音声光学的な話になりますけど、クラリネットなどの円筒管で閉管のばあい、出てくる音はオシレーター(マウスピース、リード)の奇数次倍音の音が出ます。逆フーリエ変換で奇数次倍音を合成していくと矩形波になります。つまりクラリネットの独特な音色はエアリードの開口管のフルートや、同じシングルリードでも円錐管を採用し倍音構成がくっそ複雑になるサクソフォンと違って理論上はわりかし理想の閉管円筒管反射の音が出るんです。それでも個性が出る。まぁ、当たり前ですよね。円筒管と言っても中には色々ありますから。現代のYAMAHAやBuffetCramponが研究しているように単純円筒とならない空気柱の構築による多彩な音色変化を狙っているように単純な話じゃないです。
でもオールドクラリネットは割りと単純です。基本下管のベルに向かうところが円錐になってる以外はバリクソ円筒管です。そっから何が違うかとなると共鳴する管そのものの材や加工方法、そしてホールの加工、ホールのアンダーカットなどいろいろあります。現代こそそういう特にアンダーカットの重要性については流体物理的にYAMAHAさんなんかが研究している分野ですけど、当時は職人さんの勘で作られていたわけです。当時の量産品なんて今で言ったら手作業って言われるようなもんでしょうからね。

はなしがすごいそれましたが、数あるオールドクラリネットの中で私が手掛けてきた中でずば抜けて音ヌケが良くてそれでいてピアニッシモになると温かい音色が出る、しかもそれが私のようなクッソ初心者でもわかるレベルで「何このクラリネット!?」って思うほどコントローラブルな管なんです、AugustBuffetは。

実際問題、わたしは貧乏なんでR13とかRCとか吹いたことないですけど、YAMAHAの651とかとは全く別の楽器じゃないかというくらい明るくもあり、御しやすい音色を出してくれる。それがAugustBuffetです。

なまえがAugustBuffet御大の名前を取ったり、コッス楽器販売さんの当時の売り文句がちょっとアレだったりしますけど、私はこのAugustBuffetはいつまでも手元に残し続けるでしょう。それほど特異な特性を持った音色を持った一品です。

まさに時代に埋もれた名機(当社比)、それがAugustBuffetなんです!

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