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父の背中。

今日、父が私の施術を受けに来た。
先日太ももを打撲した数日後から、膝の内側あたりから足先までの広い範囲に渡って内出血して、歩きづらいという。

打撲とこの内出血が直接関係するかどうかは私にはわからない。
「さほど強く打ったつもりはない」と父は言うが、83歳ともなれば元気とは言っても若干感覚が鈍っているのか、それとも実際に大したことがなかったのか。
いずれにしても、父のからだは83年の歴史を重ねている。

今日、父がその脚の状態を見せてくれた。
数日前に「病院に行って検査はいろいろしたけれど、大した処方はないらしい。どうしたらいいかな?」との連絡がきて、「私が見ようか?」と言ったのがきっかけだ。

『お前の手は、いつも温かいな。』
しごとの時に限って、人のからだと会話しようとしたときに限って、私の手はこうなる。
実際に自分の手を自分で触ってみて、自分の手がそれほど温かいかというとさほど感じないのだけれど、触れられた人はとても温かく感じるそうだ。

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私の施術のしごとは、いわゆる『二代目』。
先代は父だ。

父は、私とは全く違うやり方だった。
それこそ父は父なりの技術をつくり、合わせて、電気治療器をたくさん置いて使っていた。
その治療器は当時の最新機が多かった。
もともとちちが新しいもの好きなのは確かにあるが、各メーカーが新製品を売り出す際に、父に「この治療器をどう使えばいいか、僕たちではできない発想での使い方を考えてみてほしい」と頼みに来て、置いて帰ったものだったりした。
(余談になるけれど、20年ほど前に私と父が当たり前に施術現場で使っていた機種が、未だ各治療院などに’最新機’とうたっておかれているのを目にしたことがあるのは確か。)

そんな風にしてやってきた父なりのやり方を、私は、父の引退とともに大幅に変えた。
院内の什器も、テーマも、そのテーマカラーも、ロゴも変えた。
たくさんあった電気治療器をすべて、フロアから下げた。
クライアントさんは、父を頼りに来ていたから、多くの人が来なくなった。
「お父さんがやめて、急に雰囲気を変えてしまうなんて、寂しいわね」とも言った人もいた。

私はそれでもよかった。
『父よりも上を行く。』それが最低限、後を継ぐと決めたときに自分に課したことだったし、そのために私は自分で技術をつくり、雰囲気をガラリと変え、電気治療器をフロアから下げることを決めた。

父は引退してから一度も、現場に立ち入ることもなかったし、口を挟まなかった。
唯一父が、私に待ったをかけた案件が、私が電気治療器を全部フロアから下げたことだ。

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父が電気治療器を多く置いていた理由はいくつかある。
一つは、メーカーから使い方を相談され、黙っていても最新機が入ってきたから。
もう一つは、パフォーマンスとして。
そしてもう一つが、自分の技術ではどうにもならない症状を、どうにか少しでも解決したかったから。

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父は私に、「いつか、お前も治療器が必要になる時がくる。置いておけ。」「いつか自分の技術に行き詰まるときがくる。その時に助けになるのが治療器だ。」と話してくれた。

NO!と言いたかったが、半分譲って、「じゃあ、今から1年の間で一度も’電気治療器が必要だ’と思わなければ、処分する」と言った。
だけど実際には、一度も必要なときは来なかったし、実は父が引退した後割と早い段階で処分した(おとん、ごめん)。

そんな風にして、私のやり方に父が「待った」をかけたのは、その時だけだ。

今年の4月を境に、私は、生き方を変えた。
たくさんの稼ぎは要らない。私がほしいものは他にある。
そして今回、個人事業主から正社員になった。
それによって、父から継いだ施術院は、継続はするけれども、必然的に位置づけが変わることになる。
だけど、それにも父は、一切口を挟まなかった。

「お前の思うようにやってみたらいい。」が、大事なときに必ずと言っていいほど父がかけてくれる言葉だ。  
今回もそうだった。

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今日見せてくれた父の脚は、とても細かった。
こんなにも細いのか・・・ちょっとびっくりした。


そっか、83歳だもんな。そりゃそうだよね。
からだも前より細くなったし、元気ではあるけれど病気も持ってる。

でも、父の背中はやっぱり、いつ見たって父の背中だと思った。
それに、こうやって父のあとを継いで、人のからだに触れることをしごとにしてきたおかげで、そんな父の背中に堂々と触れることができるし、父がからだのことで困ったときに役に立てる。


父さん、ありがとね。
元気でいてくれて。
私をいつも自由にさせてくれて。
見守って、応援してくれて。 

私が今、息子や娘に「やりたいならやってみたらいいじゃんっ♬」って結構ラフな感じで言えちゃうのは、間違いなく父さんの、そしてそこに一緒にいて見守ってくれた母さんの存在があるからだね。

12日は、母さんとの結婚記念日だね。
今年は一人だね。
やっぱり、寂しかったりするの?

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連動した音声配信
『 父の背中。』
https://stand.fm/episodes/63911ec224577b425ce80274





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