見出し画像

ボイスドラマまぼろし

創作サークル「Sevastia」さんのボイスドラマ主題歌を担当させて頂きました。ありがとうございます。
サムネは猫道さんです。本作品のイラストを使わせて頂いてます。

『裸の太陽(BL版)-渇望と虚像の果て-』


1.依頼

2023年の最大の目標である小室進行祭り(10/21開催)に向けてQuantum Quartzを手掛けてました。10/13に作曲依頼のDMを頂きました。

最初は意図がよく分かりませんでした。
なぜならばSynNightは決して世間ウケする曲を書いてるつもりはない。そこに一般ウケが要求される主題歌を依頼?大変チャレンジングだなと思いました。
しかし、この話を頂いた直後は8割方お断りしようかなと思いました。


2.難色を示した2つの理由

第1に作曲依頼のミスマッチです。
過去に曲募集みたいなのやったことあるんですけど、イメージと違うとかどうとか。ノリの良い、盛り上がる曲を求められることが多かった。
リファレンス曲提示されても歌詞の譜割りが全然違うやんみたいな。(今思えばメロはどうでもよくて、オケがぽければ良かったんだろうか。)

そもそもそういう曲書いてないし、自分が良いと思ってないものに時間掛けるのもね。
ボカロPがいなくて困ってるならできる範囲で協力できればという気持ちでしたが、別に求められてないならいいですというとこですね。

第2に納期です。11/12オフボ提出です。フルトラック無理です。
10/21 小室進行祭り (進捗95%)
10/31 ボカコレ冬曲  デモ提出 (進捗0%)
11/8  1枚絵投稿祭  デモ提出 (進捗0%)

3.依頼を受けた理由

とはいえ、とりあえず内容だけでも見てみましょうか。
SynNightは読み物が苦手なので理解があれですが、何やらシリアスで深刻で大変なことになってそうな印象でした。デスゲームとはハードな。カイジの鉄骨渡りで生き残っての憔悴しきったシーンが浮かびました。

ダークで闇な世界観だなと。そして歌詞が大人っぽい。ハイエナさんの歌詞に似てる印象でした。
ふむ、この内容ならSynNightに依頼するのも分かる気はする。いつも通りのあれで良いなら可能性はあるか。

指定はしっとり曲でした。ピアノストリングスのバラードなら4トラックくらいでいけるか?この内容なら賑やかなのもうるさそうだし、むしろ淡々としたやつの方が良いかも。

とりあえず、メロと尺だけ決まれば不完全でもレコーディングはできるはず。レコーディング中に仕上げれば良いか。それなら2週間あればなんとか。納期は楽ではないが無理ではないレベルか。
ボカコレと1枚絵の納期は目安であって絶対じゃないし。最悪1枚絵はキャンセルでも問題はない。
結果的に10月末が鬼忙しくなりました。

そもそも主題歌の案件なんて人生で1度あるかどうかだなと。SynNightはリアル志向なのでボカロイベントよりも、こういう案件のが憧れは強いです。協力させて頂けるのなら光栄な気持ちはありました。

今回は募集でなく依頼なのでミスマッチはある程度なんとかなるか?SynNightの曲をご存知で依頼してもらってるんだろうと推測しました。どの曲を聴いて頂いたかは知りませんが。

4.デモ作曲

決定的にはデモ提出して判断してもらうしかないですね。それで気に入ってもらえなければお断りした方がお互いのためです。 

とりあえず指定の歌詞で仕事中にぶつくさ歌ってみました。歌詞の語感、語呂からサビ頭とフレーズ終わりはできました。シリアスな緊張感あり、なかなか良さ気な感じではある。あとは途中をつなげればフレーズにはなるかな。

目処が立ったので今夜中にデモ提出の約束にしました。断るならすぐに断らないと他の作曲者探すわけですから。現段階で納期に余裕があるわけでもない。

5.テーマイントロ

地味曲とはいえ主題歌だけに一定のキャッチーさは必要になる。そこが難しいところでした。
帰宅してサビ頭とサビ終わりをつなげる作業をします。時間がないので何も考えず小室進行です。そもそも仕事中に作曲してたのがきっと小室進行だろう。

ドラマということでテーマ的なサウンドがある方が使いやすいかなと思いました。これが流れたら秒でまぼろしと分かるような。
例えば販促でウェブで流すとか、作中にスポット的に使うとか、今後シリーズあるならそれに展開するとか幅が広がるかなと。 

まぁどんな使い方でも、それこそ使われなくても構わないんですけど、少なくともドラマ聴いた後にテーマだけでも頭の中で流して余韻に浸れるはあるかな。
そうしてできたのが、あのイントロです。

デスゲームということでリファレンスはイカゲームのだるまさんがころんだです。これ単純なメロだけに怖いんですよね。
シンプルさがもたらす原始的なおどろおどろしさをイメージしました。これをサビ終わりに被せると印象的ないい感じではないですか。

とりあえず、サビワンフレーズとだるまさんがころんだを主催者のえりなさんに送って刺さってもらえるかどうか。


6.セクション分け作業

えりなさんにOK頂けたので本格的に作曲します。主題歌作曲としてSynNight登録して頂きました。その時にハイエナさんもこの作品に出演されることを知ります。
こういう形で共演させて頂き光栄でもあると同時になかなかのプレッシャーです。出来が悪くて、なんか今回のちょっと違うよねみたいになったらどうしようね。

まずは歌詞のセクションを分けるところ。Aメロ、Bメロ前半、Bメロ後半、サビ前、サビ、これはCメロか?
サビ前どこから取るかに1番苦労しました。ここで切るとサビ前の音符足りない。かと言ってここで切るとBメロ前半が足りないとか。

ちなみにこの時点でドラマの内容はあんまり分かってないです。
質問すりゃいいかもしれないですけど、小室進行、ピアノストリングスは決まってて、歌詞先だけにやれることは限定的です。詳細な内容を知ろうが知るまいが成果物は変わらんだろうなと思いました。

7.サビ

Ⅵm7-ⅣM7-Ⅴ7-Ⅰsus4-Ⅰ
Ⅵm7-ⅣM7-Ⅶm7♭5-Ⅲ7
Ⅵm7-ⅣM7-Ⅴ7-Ⅰsus4-Ⅰ
Ⅵm7-ⅣM7-Ⅱm-Ⅴ-Ⅵ

小室からのマイナー、メジャー交互のツーファイブです。
緊張感持たせるためにm7から始めました。エモさでsus4使いました。最後はバシッとツーファイブで締めました。
普段はm7始まりはしません。サビ入りのガッツリ感が減るので。今回はテーマ的にガッツリしてなくていいかなと。むしろ緊張感大事なため使いました。
締めのツーファイブもこんなハッキリさせません。一般の方に分かりやすくという趣旨です。米津さんとかすごくはっきりとツーファイブするイメージあり参考にしました。

8.Bメロ

Ⅳ-Ⅴ-Ⅵ
Ⅶm7♭5-Ⅶm7♭5onⅥ-Ⅲ7onⅤ-#Ⅱ7

前半は使いやすい456で無難に。
後半はマイナーのツーファイブします。
最後は-1転調先のドミナントであるⅡ#7です。
ベースは経過でほぼ順次下降してます。

1拍だけⅦ/Ⅵの謎な形にはなりますが、みんなやってるからええやろ。フォロワーさんから勉強させて頂いて助かっています。

Ⅲ7から普通にⅥmに行くと見せかけて、半音下の#Ⅱ7に行くインパクトを狙いました。
この時期は下転調にハマってまして。やはり下転調の哀愁は最強だと思います。
当初はサビ前ボーカルもマイナースケールにしましたがクセが強すぎて止めました。

9.Aメロ

Ⅵm7-Ⅴ-Ⅳadd9-Ⅶm7♭5-Ⅲ7
Ⅵm7-Ⅴ-Ⅳadd9-Ⅴ7-Ⅰ

マイナーカノンというのでしょうか。ⅣとⅢの間にⅦを差した形です。オケはピアノだけなので響き重視でadd9入れました。

10.Cメロ

Ⅳadd9-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵm7
Ⅳadd9-Ⅴ-Ⅲm-Ⅰ-Ⅰ7
Ⅳ-Ⅴ-Ⅴ#dim-Ⅵm
Ⅶm7♭5-Ⅲ7

トニック違いの王道進行で、ディミニッシュからのツーファイブです。
1番,2番とのサビ入りの違いは転調先のドミナント#Ⅱ7がないです。脈絡なく突然-1転調します。
絶望に落とされる感じをイメージしました。
Cメロの前半が明るめなのは振り幅を意識しました。

書くのは簡単だけど実際歌うとなるとどうなんだろと思いました。ボーカルのカイネさんにバッチリ決めてもらいました。さすがですね。
落ちサビ直前の強ピアノのリファレンスはショパンの革命です。なんとなく情熱的な感じを取り入れました。


11.2番Aメロ,Bメロ

2番AメロとBメロについてです。メロは1番と全く同じ構成のため、同じピアノの使いまわしで和声的には成立します。時間も限られてるのでそれでいいかと思いましたが、やはり納得いかない。
1番と2番ではトラック構成が違います。1番はピアノのみ。2番ではドラムもアコギもある。ましてやリスナーは山場の1サビを聴いた後の状態にある。
メロが同じとはいえ、これだけ環境が違うのに最適解が同じなわけないだろう。2Aに相応しいピアノを入れるべきということで少し手を加えました。
対してサビは同じです。すでに音埋まってるので手を加えるとうるさくなるし、あえて同じにすることで反復効果もあるかと。


12.全体まとめ

個人的には歌詞が多めな印象でした。
歌詞の多い少ないは作曲スタイルによると思いますので一般的にどうだか知らないですけど。そもそもSynNight自体は歌詞多めな人とは思ってます。とはいえ歌詞がスカスカよりは全然やりやすいです。
歌詞で8分音符かなり埋まるので作曲というよりはどこで間を取るかを考える感じでした。
今風に早口Bメロとかも考えましたけど、それやったらSynNightに依頼した意味がなくなってしまう。
いつも通りにやるからこそ依頼案件かなと。チャレンジングなやつはアルバム曲とかでやるもんですね。

13.キー

SynNightはスケールを完璧にはマスターしてないです。だいたいは把握してますけど。
間違えないようにCで書いて移調します。理想的には本来のキーで書くべきとは思ってますけど。
CでSynNightは歌えるんですけど、どうだろう。歌えると言ってもボソボソ呟いてるだけで張った声は出していないです。実質、歌ってない。
普段はボカロもしくは女の子の歌い手さんを相手にしており男声キーがよく分からない。

ボーカルさんに聞けばいいんですけど、この時点でボーカル決まってないので。とりあえずCで送りました。
歌入れされたの返ってきましたけどすげー低い。こんなん完全に不良納品で青ざめる。

キーに関してはやはりボーカルが最も魅力的な声を出せるところにするべきと小室先生も言っていました。My Revolutionの強引な転調はそのためとのことですけど。

えりなさん的には男声キーの構想とのことです。しかしながらキー上げると女声的になってしまう。
というわけで、全キー(追加11キー)を送付して納得するとこ決めてもらいました。
結果的に+5でEになりました。単純にオケも+5したので部分的にキンキンするんですよね。ボイシングを修正します。テーマのイントロもオク下に変更です。

余談ですけどキーに関しては、作曲者的にやはりこの曲はこのキーというのはありますね。でも歌ものはボーカルが伴うので理想通りにはいかないなと思ってます。
普段のボカロだって理想のキーで歌わせてる訳ではないです。本当はあのキーでというのあります。みんなもそうなんでしょうけど。

14.ミックス

最終的なミックスになかなか難航しました。
シンプルだけに誤魔化しが効かない。
ピアノのベロシティがバラついてるとかストリングスが大きかったり、小さかったり。DAW上で気づかないところも書き出してスマホで聴くと違ったりで何回も書き出しました。
1Aのストリングスのアウフタクトの入りが上からが気に入らなくて下からに変更しました。和声的には問題なく完全に趣味の話です。自分以外はどうでもいいと思うんだろうけど聴くたびイラッとしてしかたない。音符1個のために録音し直しました。

15.納品

結局、納期の12/24当日の早朝になってしまいました。もう少し余裕持ちたかったけど妥協できなかったです。多分12/20くらいのバージョンで一般的なOKラインはあったかもしれない。

16.作品

完成品を頂きました。こういう話だったのかとこの時に知るわけです。とはいえ、ほぼほぼイメージ通りだったので問題はないはず。

声優さんの臨場感の溢れる演技に驚きます。普通にアニメのようです。ドラマがハイクオリティーだけに主題歌が浮かないか心配になる。そして流れ切らないかどうか。
怖くてドキドキしてて内容が入ってこない。内容は2周目で追います。

結果的にエモく決まってたと思います。理想的な使い方をして頂きました。ドラマのお陰で曲を印象的にさせてもらってますね。 

ボカロPやってると作曲者が目立ちがちですが本来はボーカルが前にでるものと思ってます。楽曲に作曲者のイメージ乗るのがあんまり好きじゃないです。自分の垢で投稿するからどうしてもそうなるのですが。

今回は声優さんメインでそれをサポートできる立ち位置が良かったですね。制作自体も楽しませてもらいましたし、貴重な経験をさせて頂きました。

まぼろしはゼロからでは絶対に生まれなかった楽曲です。歌詞はもちろん世界観も多く取り入れて成り立っています。依頼とはいえ大切な作品です。

この曲がドラマ映えの少しでも足しになれたのでしたら嬉しいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?