【要約その②】アクティブ・ラーニングとは何か 渡部淳


アクティブ・ラーニングのイメージを描く

学習者の能動的、主体的、自主的活動を取り入れた授業の代表的な例は以下のようなものである。

・参加型学習
・グループ学習
・調べ学習
・学び方学習
・プロジェクト学習
・協同学習
・共同学習
・協調学習
・獲得型学習

このように、さまざまな用語で表現される活動がすでに行われている。

ところで、先に見たような日本の学び方改革で登場したアクティブ・ラーニングという用語は、広く改革の方向性を指し示す言葉(「主体的・対話的で深い学び」)である。
また、溝上慎一はアクティブ・ラーニングを「一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」と幅広く定義する。

山地弘起は、四象限モデルでこのような様々な活動が想定されるアクティブ・ラーニングを整理している。それは次の図のようなものである。

スクリーンショット 2020-03-06 13.50.18

これを見ると、実に幅広い学習活動がアクティブ・ラーニングの範囲に含まれることがわかる。
このことから、何か特定の学習技法(アクティビティ)だけを用いるのではなく、様々な種類の学習技法を使いこなすことが今後期待されていることがわかるだろう。

とはいえ、このようなアクティビティを用いるためのトレーニングを受けていない教師にとっては決して容易なことではない。
また、先に見たように、これまでの日本に定着してきたのは知識注入型のスタイルであった。時間をかけて注入型のスキルを洗練させてきたのがこれまでの日本の教育スタイルの歴史であったとも言える。
つまり、このような多種多様なアクティビティを教育に取り入れることは想定外のことだといっていい。

教育方法の被規定性

教育方法の改革と言っても、方法だけが単独で機能しているわけではない。
「目標ー内容ー方法ー評価」という四つの要素が切り離し難く関連しているというポイントをおさえておこう。

これらの四つの要素が関係雨していくプロセスを見ていこう。
通常はまず、教育目標を設定し、その目標の達成のために内容と方法を組み合わせた授業をデザイン・運用し、授業が一区切りを迎えた段階でその成果を評価する、という流れが想定される。

しかし、必ずしもこの時系列でプロセスが進行していくわけではない。
例えば、「評価」を見てみよう。「評価」と一言で言っても、大きく分けて以下のような3つの段階がある。

①学習指導に先立って行われる「診断的評価」
②実際の指導の過程で行われる「形成的評価」
③指導の区切りで行われる「総括的評価」

これを見ていくと、「評価」は必ずしも学習の最終段階に行われるものではなく、学習のあらゆる段階で行われる(べき)ものであることがわかる。
そして、このその時々の「評価」が「内容」や「方法」に影響を与えることも十分に考えられる。

つまり、これら四つの要素は密接な関係にあり、何か一つの要素が変化すれば、他の要素もその影響を受けるということを意味する。
アクティブ・ラーニングの文脈では、主に授業スタイルという「方法」の改革に注目が集まっている。しかし、この関係を見ればわかるように、「方法」が変われば、他の要素も影響を受ける。
いや、むしろ「方法」を変えるためには、他の三つの要素が変化していくことが必要なのである。
したがって、アクティブ・ラーニングを導入しようとするならば、学習技法(アクティヴィティ)単体を考えるのではなく、他の三つの要素の改革も同時も考える必要がある。

アクティヴィティの定着

アクティブ・ラーニングの定義とは、「プレゼンテーションやディスカッションのようなさまざまなアクティヴィティ(学習技法)を介して、学習者が能動的に学びに取り組んでいくこと」であった。
この定義に従うならば、アクティヴィティの活用なしに、アクティブ・ラーニングを実践することは不可能である。
では、このアクティブ・ラーンングの移行に向けて、現在はどのような学習技法が使われているのだろうか。

立教大学経営学部中原淳研究室らが行った、高校におけるアクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業のアンケート調査を見てみよう。

その結果、取り組みの頻度が高いのは以下の三つの型であった。

探究型活動:テーマについて調べる活動。
意見発表:ディスカッションやプレゼン、ブレインストーミングなど。
理解深化型:学習を客観的に振り返り、まとめる活動。レポートやデータの整理・分析など。

この結果を見るに、「ディベート」の取組みはあまり行われていないことがわかる。
しかし、ここで著者は「ディベート」を積極的に取り上げ、その分析からアクティビティが定着しにくい理由を述べる。

まず著者は、学習技法が学校現場に定着した状態がどのようなものかをイメージするために、ロサンゼルスで行われた授業を取り上げ、そこから定着させせるためのポイントを3つ提示する。

①教師側からの情報提供(知識注入の部分)と、生徒主体の活動(獲得型の部分)の時間比率が1:2になっている。また、複数のアクティビティを組み合わせている。
②リサーチワークやスピーチの仕方など、「学び方」の部分をガイダンスの際に説明している。
③討論ゲームの楽しさを存分に引き出す工夫が行われている。

まとめれば、あくまで生徒主体の活動をメインに起きつつも、ガイダンスや知識を教える段階を丁寧に行い、そしてその活動自体を楽しめる工夫を施すことが必要であると言えるだろう。

取り入れることの意義と困難

とはいえ、日本とロサンゼルスでは環境や前提となっている部分が異なる。そこで、
・そもそも日本の教育現場にアクティブ・ラーニングを取り入れる意義があるのかどうか
・どんな困難がアクティビティの定着を難しくしてきたのか
を整理していこう。

ディベートの導入を考えた時、日本の学校現場で特に重要な意義を持つのは次の四点である。

①リサーチ能力の育成
②論理的思考力の育成
③言葉による表現能力の育成
④演劇的能力の育成

様々なアクティビティがある中で、ディベートを取り入れるメリットは、これらの一連の能力の獲得を、ゲームのかたちで総合的に追求できる点にあるという。

では、定着にどのような困難が付きまとっていたのだろうか。それは、

・そもそも事柄に即して議論することに慣れていない
・対立点を明確にして議論すること自体を忌避する風潮がある

というような、日本的な討論文化に大きく影響されている面である。

日本人の討論文化の中には、「意見」と「意見を発する人の人格」を分けて考える、といいう発想を持ちにくい傾向がある。
だから、「話す内容」よりも「誰がその意見を言ったか」ということの方が意識がのぼりがちになる。

また、議論に負けたりすると「人格そのものを否定された」と感じてしまう人が多いことから、対立点を明確にすること自体を恐れてしまう。
そして、教師は「勝つこと」については教えるものの、「負けたあとどのように振る舞うか」については触れない傾向がある。
しかし、負け方を知り、事実を受け入れること、それはあらゆるゲームの作法であり、要諦の一つである。
ディベートはあくまでゲームであるため、このような姿勢や態度を学ぶにもふさわしいと言える。

このように、アクティヴィティの定着の問題は、日本的な行動様式や言語文化、さらに市民社会のあり方の問題にまでつながってることがわかる。

アクティヴィティ研究の今

ディベートを題材に、アクティビティの定着についての意義や課題についてみてきた。
では、現在はこのアクティヴィティの研究はどこまで進んでいるのだろうか。そしてその成果は現場でどのように共有されているのだろうか。

現在のアクティヴィティ研究は、技法研究、歴史研究、目標研究、活用法研究、環境条件の研究にまたがるものになっている。

技法研究についていえば、リサーチワーク、プレゼンテーション、ディスカッション/ディベート、ドラマワーク、ウォーミングアップと言った5つの範疇を軸に、様々な研究と実践が展開されている。
その中でも、2000年代になって特に注目を集めるようになったのが「演劇的活動(ドラマワーク、ドラマ活動)」である。

ドラマワークというのは、学習者がある役柄に「なって」考えたり演じたりすることを通して、実感と身体性をともなって学ぶ活動のことである。
そのほか、ワークショップの研究なども進められている。

まとめ

これまでみてきたように、日本においてアクティブ・ラーニングを導入していくことがスムーズに進むとは言い難い。
しかしながら、移行に向けた試みもまだ続けられているのも事実である。

本書ではその具体的な事例が挙げられているが、それは割愛する。
次に、実際にどんなアクティヴィティが用いられているのか、そのアクティビティについてどのようにアクセスすることができるのかを見ていこう。

続く

おそれいります、がんばります。