東武東上線 各駅停車 10

 東武東上線の「特に気になる」九つの駅について書いてきた。
 今回は、「やや気になる」いくつかに触れてこの稿を終えようと思う。

中板橋

 東上線が初めに開業した1914年、東京都内(当時は東京府)にあったのは、池袋、下板橋、成増の三駅、一か月ほど遅れて上板橋が開設された。次いで1927年に設置されたのがこの駅である。かつての川越街道上板橋宿に近接しているものの、上と下の両板橋の間にある、という程度の意味で中板橋と名付けられたのだろう。
 東上線が開通すると、石神井川鉄橋から川へ飛び込む遊びが近所の子どもたちに流行り、非常に危険であるとのことから、石神井川の水を利用した「遊泉園」というプールが新たに建設され、その利用客のための夏季のみの臨時駅としてスタートしたのがこの駅だった。

東武練馬

 東上線の線路と旧川越街道とが、もっとも近接して並行するのが東武練馬付近であろう。この辺りには下練馬宿が設けられ、今でもどことなく旧街道を感じさせる商店街が続く。駅舎の住所が板橋区でも街と駅名に宿場の賑わいのDNAが受け継がれているのである。
 そしてこの駅の上り線ホームの中央部は、ホームに居るとわからないのだが、崖の上に張り出されているような場所に設けられている。前谷津川(暗渠)の大きな支流の谷頭に位置しているため空中に架設されているような構造なのである。上りホームの東口の階段を降りると高低差が実感される。宙に浮く駅なのである。

ふじみ野

 1990年当時、東上線の沿線の市町にはおのおの駅が設けられていた(新座市には志木駅が、志木市には柳瀬川駅があった)が、唯一大井町だけが駅を有していなかった。だから、鶴瀬~上福岡間に新駅ができると聞いたとき、てっきり大井町内なのだろうと、思った。実際、おぼろではあるが「(仮称)苗間駅建設工事」という大きな看板を見たような気もする(記憶違いであろうか)。苗間とは、東上線が通過する大井町の大字名であった。
 それでも、大井町は上福岡市、富士見市、三芳町と合併協議を続けており、二市二町で「ふじみ野市」形成をめざしていたのだから、実際には富士見市内にふじみ野駅がつくられても矛盾はない筈であった。ところが2004年の住民投票の結果、四市町の合併は頓挫し、2005年に改めて上福岡市と大井町とが合併、ふじみ野市が誕生したのである。そのため1993年にすでに開業していたふじみ野駅だけが富士見市内に取り残されることになってしまった。

若葉

 若葉駅の建設工事が始まったころ、「(仮称)坂鶴駅建設工事」との看板が掲げられていた。確かに国分寺と立川の間に作られた駅が国立なのだから、「坂鶴」もありかもしれないが、あまりに工夫がないなと感じた記憶がある。実際には、旧陸軍坂戸飛行場跡地に造成された「公団若葉台団地」に因んだ駅名となった。
 若葉駅のプラットホーム工事は、上り線の進行方向左側で行われた。開通時は、そのさらに左側に上り線が敷設された。従来の上り線路に下り線が接続され、つまり駅のところだけ湾曲したレールが敷かれているのである。それは現在でもホームの場所だけ、上り線の延長上に下り線が設置されているのを観察できる。

高坂

 関東の駅百選に選定された軽快なデザインの駅舎が好もしい。もっとも、改築以前の古めかしかった駅舎も懐かしいのだが。ここは大東文化大、東京電機大、山村短期大の最寄り駅であり、学生の乗降のとても多い所である。オーストラリア由来の動物が充実する「埼玉県立こども動物自然公園」や坂東三十三観音札所の岩殿山正法寺の最寄り駅でもある。それら比企丘陵にむかう西口からの駅前通りには、彫刻家高田博厚の作品がいくつも設置されていて文化薫る風景を醸し出す。2015年にニュートリノ研究によってノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章博士の出身地でもあり駅前にはモニュメントも設置されている。反対側の東口からやや離れてはいるが、「ピオニウォーク」を中心とする一大商業施設が形成され近年おおいに人の流れが盛んになっている。

みなみ寄居

 とても新しい駅である。「ホンダ寄居前」の副名の通り本田技研の要望により2020年に設置されたホーム一面のささやかな駅である。おそらくホンダの事業所に用務のない人はあまり利用しない駅であろう。筆者はこの駅を降りて「男衾自然公園」を訪ねてみた。地元の有志の熱意により管理されるとても美しい山である。四季折々の眺望がすばらしい。

鉢形

 隣の男衾と同様に、敷地がとても広い。かつては貨物輸送など盛んに行われていたのではないかと想像される。ここは「埼玉県立川の博物館」、BBQの聖地「かわせみ河原」最寄りの駅である。
 鉢形というと、後北条氏の名城「鉢形城」が名高かろう。寄居駅からの方が近いのではあるが、鉢形城の構えには見応えがある。難攻不落の縄張りを見せつけられる。小田原攻めの豊臣勢が攻めあぐねたであろう堂々の戦国の砦である。「鉢形城歴史館」では北条五代の治世を学ぶことができる。

玉淀

 荒川鉄橋からは玉淀渓谷の美しい風景が見下ろせる。そして下り列車が鉄橋を渡り終えると玉淀駅、みなみ寄居同様、単線にホーム一面のかわいらしい駅である。
 駅から荒川沿いに歩くとやがて、雀宮公園に到着する。ここは七代目松本幸四郎の別邸「武州寄居町雀亭」の跡地を整備した庭園である。今の季節は紅葉が実に見事である。

寄居

 東上本線の終点。荒川の渓口集落、寄居の町については以前にも紹介した。寄居の駅であるが、東武鉄道、JR東日本、秩父鉄道が乗り入れる県北の一大ターミナルではある。駅の管理運営は秩父鉄道が担っており、秩父観光の玄関口となっている。
 以前は秩父線ホームに立ち食い「秩父そば」の店があり、長い待ち時間など重宝したものであった。だんだんと失われていく鉄道文化ではある。秩父鉄道で硬券切符が現役なうちに乗りに行きたいものである。

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