あるジャガーを巡る考察


 セキュリティーがしっかりしていて屋根も付いていて、おまけに立地が良いちょっとお高めな駐車場が良かった。執着に高い金を払う理由になるから、彼が乗っていたジャガーが好きだった。値段の高さは大切さの理由に出来るじゃないか。ピラミッドを建てる趣味はないけれど、見るからに高級車であるそれなら、この大切さだって承認してもらえるはずなのだ。
 とはいえ、祝部を阻んだのはもっと物理的で差し迫った問題だった。ちゃんとした月極駐車場では、車検証などの提出が必要とされたのである。つまり、所有者であることの証明が必要だったのだ。
 当然ながら、件のジャガーは正式な手続きを踏んで譲って貰ったものじゃないので、祝部にそんなものが用意出来るはずもなかった。
「盗難車であると疑われてしまうかもしれませんので」
 駐車場の管理人には丁重にそう言われた。現にそう疑われているのは見え見えだった。実際に盗難車であるので、祝部は何も言えない。そもそも祝部が奪ったのは車だけではなく所有者の人生そのものだった。疑われて然るべきだし、裁かれて然るべきなのだ。
 けれど、これはただの盗難車ではない。もし祝部がまだ織賀善一の後輩であるのなら、この車はただ先輩から預かっているだけのものになる。もし織賀善一がまだ祝部を死体埋め部だとみなしてくれているのなら、この車は死体埋め部の共有備品になる。もし織賀善一が、あの暗闇の底から──。
 そこまで考えて、祝部は一連の仮定が全て彼の生存に罹ったものであることに気づき、全部放り投げた。これはただのジャガーだ。祝部はこれを維持しなければならない。結局、ジャガーの行き着くところは高級車であることも盗難車であることも厭わないコインパーキングだけだった。その平面駐車場には屋根すら無いのに、結果的に一番高くつくのが皮肉だった。

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