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モデルをみる力、そしてモデルに描かれていないものをみる力


2010年くらいまではスタディは極力模型でやるようにしていましたが、大連理工大学の客員教授を勤め、日本と中国の両方で仕事をするようになったことがきっかけで、さすがに日中両方で模型をつくるほどのマンパワーもないので、SketchUpやRhinoを使ってのスタディの比重が上がってきました。

ただし、スナップショットを送ってもらって判断するのではなく、3Dモデルを送ってもらって自分でモデルのなかを「ぶらぶらする」ようにしています。模型に比べれば情報量は落ちるけど、このぶらぶら作戦でずいぶん手応えがちが違うように思います。

モデルの中をぶらぶら。モデルを見る力

大切なのは

「A:模型の情報量」X「B:模型を観る能力」X「C:模型を観る時間」

の値を最大化することような気がしています。Aのどのような模型をつくるか(CGで済ますか)はもちろん大事だけど、Bの見る目がなければしょうがない。経験や問題意識がない人がいくら模型を眺めてもなにもフィードバックはない。あと、つくってもあんまり模型を観ない場合もある。Cのじっくり観る、というのも大事。

自分の場合はAの情報量が劣る部分を、BとCを増やすことで、スタディの効果を上げようと言う作戦。経験の浅い所員が、アルバイトつかって模型をじゃんじゃんつくるとか、あんまり意味がないと考えています(例外的な天才もたくさんいますが)。

槇総合計画事務所勤務時代に、一人で風の丘葬祭場を担当されていた先輩が、ひとりでアルバイトも使わずに一日中、図面を引いたり、詳細模型をつくっていたのを隣の席で間近でみていましたが、これはAもBもCもMaxな状態で、凄まじかった。

コロナ禍のスタディ

このようにCADモデルでのスタディも普通に行い、オンラインでのコミュニケーションツールも多用するリモートワークシフトなビルディングランドスケープですが、COVID-19パンデミック以降はそれが加速しています。デザイン検討に物理模型は重要ですが、自宅にいるスタッフが模型作っても見れないし。

いまはスタッフがそれぞれ得意なRhinoやSketchUpでモデリングしたデータを、時には写真のようにTwinmotionに取り込んでよりフォトリアリスティックな状態で検討したり。SketchUpモデルをTwinmotionに取り込んだだけでもそれなりに雰囲気が出ますが、おもだった素材だけでもテクスチャを定義しなおせば、かなり雰囲気が出ます。その作業は1時間もかかりません。自分らが作るレベルのモデルなら。

モデルに描かれていないものを見る力

とはいえ、フォトリアルなレンダリングは、プレゼンテーションには効果的ですが、デザイン検討にはそこまで必要ないかもしれません。3D CADのパースが一般的になって以来、模型でスタディするか、3D CADで良いかは繰り返し議論されます。山代は両方作る、が一番良いと思っていますが、時間とマンパワーのバランスは常にタイト。

いまは「モデルに描かれているものをみる力」「モデルに描かれていないものをみる力」があるかないかが問題であって、それがない人が見ても、物理模型も3D CADのパースも意味がないと思っています。

そこに描かれているものの関係を読み取り、そこに描かれていないものを想像しながら可能性や問題点をあぶり出す。躯体だけが出来上がった建築現場を歩きながら、仕上げられた完成形を想像する楽しみに似ています。

最近は、お出かけができない鬱憤を晴らすために?VRヘッドセットを使った実験に取り組んでいます。これまでOculus Go、Oculus Rift s、HTC VIVE PRO、Oculus Questと試してみました。

現在はビデオ会議のスタジオのようになっている事務所にほぼ一人で通勤、勤務していますが、朝1時間ほど早く行き、ヘッドセットをして、スタッフから送られてきたモデルの中を歩き回ったり、Google Earthで敷地や周辺を歩き回ったりしています。時にはスタッフとzoomで繋ぎ、画面共有でSketchUp VRの画面を一緒に見ながら、修正点を議論したりしています。5〜6万円くらいのヘッドセットでも面白いことが体験できるので、騙されたと思って導入してみてはいかがでしょうか。

時間をかけてモデルを体感すること。そうしながら考える力を養うこと

2020年春に突如としてオンラインでの設計製図に教員、学生ともに放り込まれ、教える方も学ぶ方も悪戦苦闘の毎日です。いろいろ試した中でGoogle Classroomによる情報共有とmiroによる図面やスケッチの共有をしながらのZoom遠隔授業が軌道に乗り、指導側にも少し余裕が出てきました。

芝浦工業大学では2年生前期までは手書きでの製図を義務付けていますが、後期からはCAD、BIMの使用も認めています。大きな模型を作ることも、見せてもらうことも困難な状況もありますし、学生が新しいツールを身につけることも一概には否定できないので、仕方のないことかなとも思います。

学生に伝えておきたいことは、学びにおいては「作業時間の短縮」は学びの時間の短縮、すなわち、学びのチャンスの減少にしかならないケースが多いということ。

手描きで何時間も製図にかかるものをCADでは数分で描画することができるケースがあります。その「製図」の効率性は「設計」というスキルを身につけた後に仕事の効率を上げてくれる有効なものですが、まだ十分に設計のスキルを身に付けていないうちに短時間で「成果物っぽいもの」が製図できて出来上がってしまうと、時間をかけて製図している間に頭の中に浮かんで来るはずの様々なアイデアや疑問を自ら発見するチャンスを奪ってしまうことになります。

半分の時間で「製図」作業が終わってしまったとすれば、「設計」における学びや気付きも半分になってしまっている可能性があります。

スポーツや音楽の演奏のように、複合的なスキルを学ぶ際に学ぶ時間を短縮することが難しいのと同じように、建築設計という変数も多く複雑なスキルを習得する際に、「効率性」を求めることは、自らが到達できるレベルを大きく引き下げる、危険な面があると思います。

効率よく建築設計を学ぶメソッドを考えるのが教育者の仕事だ、という指摘ももっともだと思いますが、到達レベルを低く設定すればイメージできますが、将来クリエイターとしてこれまでの世代と対等以上に設計し議論できる若者を育てたいわけで、容易にレベルを下げる気にもなれないのです。

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