プロジェクトデザイン:設計や工事がカラオケ化する時代に仕事をつくる
日本は人口の減少期に入り、多く地域では経済の縮退が顕著になり、自分自身の仕事が減ってきた、あるいは仕事の内容が変化してきていると感じている人も多いだろう。
コンピュータやとインターネットの普及、そしてそれに後押しされた流通や加工技術の革命は、多くの仕事をアマチュアに解放したが、建築やインテリアのデザインや工事といったものも例外ではない。CADなどのデザインツールが無料で提供されていること。DIYの方法、建材、部品などに関する情報が公開されていて興味さえあればすぐにでも手に入ることなどに加えて、巨大ホームセンターの増加や、ネットでの建材などの販売、セレクトショップ的な建材や専門工事の発注形態の登場、IKEAなどの商品が豊富でデザイン性が高く非常に安価な家具や雑貨など一般化といった多くの状況がそれを後押ししている。
一般の人々にとって、デザインとそれを支える優れた工事は、専門家に依頼し、ありがたく鑑賞するものから、自らすることで楽しむ「カラオケ」のようなものに変化している(あるいはもともとそうだった)。裾野が広がることで、優れたデザインや工事へのマーケットが育つ一方、その仕事はこれまでの「専門性」によって守られた安泰なものではない。
専門家が提供するデザインの価値を理解してくれる「いい施主」ほど、ちょっとしたサービスの後押しさえあれば、自分で「ほどほどのいい感じのデザイン」をできる時代がすぐそこにやってきている。いや、とっくに始まっている。
CitySwitch出雲をはじめとしてこれまで70近い学生向けや市民向けのワークショップを企画実施してきたが、ワークショップそのもののデザイン、つまり長期間に渡る議論のプロセスのデザイン、ファシリテーションの技法、アイデアを共有化するための可視化の技法、プロトタイピングの技法などを開発し、実践してきた。そのワークショップのデザインそのものが「商品」に育ってきた。そしてその延長に建築やインテリアの設計が始まる、ということも増えてきている。
現在ではそのようなノウハウをまちづくりのワークショップだけでなく、建材などの素材開発や企業広報のコンサルティング、大学との共同研究などもにも活かしている。それぞれの専門分野の情報やアイデアを受け取り、それを一つの建物や都市のイメージに組み立て、模型やパース、冊子などのかたちにまとめビジョンとして共有しやすくする仕事も行っている。
ひとりで歌う「カラオケ」には相手はいらないが、多数で行う演奏にはスコアが必要だし、指揮者が必要だ。合奏、合唱する楽しみはひとりカラオケでは味わえないものだ。
建築という訳語を与えられているアーキテクチャーという言葉は、本来的に複雑なものに構造を与える技術という意味があるはずだ。それは限りある資材を空間的に配置する技術であると同時に、限りある資金、人的資源、何より時間をどのように都市空間に配置するかということでもある。
もっとも効果的な場所に、ひとびとが集う形とそこでの時間の過ごし方を考え、どのように維持管理できるかをチームで考える。そんな建築の与条件から考えることが必要だし、そこにはまだ建築の専門家の力が必要だ。そんな仕事にプロジェクトデザインという言葉を与え、そのような素養を、もった建築家の卵を育てたいと考えている。
*本テキストは「まち建築」のテキストをもとに追記修正し「第6回 JIA東海住宅建築賞2018」のコラムとして執筆したものです。
山代悟(やましろ・さとる)
1969年 島根県生まれ
1993年 東京大学工学部建築学科卒業
1995年 東京大学大学院修士課程修了
1995-2002年 槇総合計画事務所
2002年 ビルディングランドスケープ設立共同主宰
2002年-2007年 東京大学大学院建築学専攻 助手
2007年-2009年 東京大学大学院建築学専攻 助教
2010年- 大連理工大学 建築与芸術学院 海天学者、客員教授
2017年-2018年 芝浦工業大学建築学部建築学科 特任教授
2018年- 芝浦工業大学建築学部建築学科 教授
現在,ビルディングランドスケープ共同主宰、芝浦工業 教授、大連理工大学 客員教授、博士(工学)
主な作品
・「やまだ屋おおのファクトリー早瀬庵 お茶室」2018年
・「熊本県甲佐町住まいの復興拠点施設」2019年
・「みやむら動物病院」2015年
主な論文・著作
・「まち建築 まちを生かす36のモノづくりコトづくり」2014年、彰国社、日本建築学会編著、共著
・「建築家は住宅で何を考えているのか」2008年、PHP研究所、共著 難波和彦、千葉学
・「僕たちは何を設計するのか」2004年、彰国社、共著 千葉学、藤本壮介、安田光男
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