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どんな夏も終わるから、よかった

 毎年のこと。夏の始まりはいつも「そろそろ調子がよくなるといいな」と感じるのだけれど、夏の終わるころにもなると「恢復がもう少し遅かったら本当に危なかった」と肝を冷やしている。今年もそうだった。顎の骨が飛び出して、全身に菌が回る危篤症状なんて。終わってしまえば笑い話になる出来事なんかもあったけれど(たくさんのご迷惑本当に申し訳ございませんでした)、それはそれとして笑う気になんて到底なれない話もたくさんあって。「人生の最後を笑って終えたい」そんなかっこいい台詞はそうそう吐けないものだな、なんて。いつも夏が過ぎると「ひとつ歳をとったな」と感じる。それはとても悲しいけれど、やはりとてもよかったんだと思う。

 言葉を仕事にするようになって、それはもうひたすらに語り続けるということなのだけれど、これまでもこれからもずっと文章を書き続けるのだろうけれど、その確信はずっと揺らがないのだけれど。それでもなお。やはり一番大事なものは、語られなかった言葉なのだと思ったりもするのだけれど。けれども。いや、本当に大切なのはまだ語られていない言葉かもしれない。然るべき時が来て語られるべき言葉を、焦りに任せて吐き出してはならない。それは避けがたく間違ったことになってしまう。夏が大好きだ。でも、終わらない夏なんて人生に一つだってなくていい。

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