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ずっと昔の、短い夏について

 これはもうだいぶ昔のことなんだけど、友達と何人かで暮らしていたことがあって、何人かというのは不特定多数の人間が入れ替わり立ち代わり暮らす部屋で日々を送っていたということだから、とにかく色んなものを呑んだ。僕の生まれはちょっとだけ都会と言えなくもないけれど、やはり総体としては田舎というべき街で、18歳になった若者には大体三つの道が与えられる。大学に行くか、公務員になるか、街に放り出されるか。

 僕はその頃大学を辞めて人生を綺麗さっぱり見失っていたころで、ただいかんせん十代という若さのせいもあり、あまり危機感というものはなかった。落第寸前でなんとか卒業した地獄のような高校から解放されて、人生で一番気持ちが楽になっていたかもしれない。大学を辞めた理由は高校とあまり変わりがなかったからで、教師になって一般的な、それでも僕の故郷でいえば決して一般的とはいえない家庭と幸福を手に入れるという夢もきれいさっぱりごみ箱に放り込んだ後だったから、それはもうすっかり自由だった。

 自由だけれど金がない若者というのは惨めだ。なにせ、楽しいことというのは大体金がかかる。街に放り出された若者たちは往々にして金がない。しかし親が生活保護を受給していたり、実家と折り合いが悪かったりすると、彼らはとにかく街で暮らすしかない。街で稼ぐ金から家賃と生活費を差し引いたら、楽しいことは残らない。18歳という年齢は、僕の知るところによればだけれど、挫折の季節だった。

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