見出し画像

葬送のフリーレン再現料理 「精一杯頑張った戦士を労うための贈り物、馬鹿みたいにでかいハンバーグ」

 葬送のフリーレン、面白いですよね。物語において食事のシーンはとても重要で、良い物語には良い食事が出て来るものです。葬送のフリーレンもその例に漏れず、とても素敵な食事描写が続きます。その中でも、やはりインパクトがあるのは戦士の村に伝わる伝統の「精一杯頑張った戦士を労うハンバーグ」でしょう。不器用な戦士が、仲間や愛弟子、あるいは弟の誕生日を祝うために作ってくれる、愛情と怪力溢れるハンバーグ。あれをなるべく原作に忠実な形で再現してみることにしました。

 で、真面目に読んでみるとですね、これが結構難しいんです。街に滞在しているときにフリーレンが作っていたり、あるいはアイゼンが自宅で作っている分には現代レシピ寄りでさほど問題ないのですが、「魔王を倒すために北方に向かう旅の途上、それもかなりの山中」で作っているとなれば大分話は変わって来る。レシピは共有されているので同じもののはずです。

 まず、「葬送のフリーレン」の世界観を検討すると、いわゆる中世風ファンタジーです。内燃機関や電力は存在しない(あれば巨大なイカとかが襲って来る水上輸送を帆船でやっているわけがないし、魔族と剣や魔法で戦っているわけがない)でしょう。

 とすると(厳密に言えば、水車があれば作れなくはないけれど…)冷蔵庫も存在しません。つまり、新鮮な肉を手に入れるのは結構難しいといえます。また、「何か月も甘いものを食べていない」といった描写があるため、砂糖はかなりの貴重品であることが伺えます。北方でも栽培できる砂糖大根は発見されていないか存在せず、南方から帆船でモンスターまみれの海を越えて輸入されてくる糖は大変貴重かつ高級なものでしょう。あれほど危険な旅の携行食にすら使えないレベルですからね。

現代だと逆に貴重なタイプの鶏

 じゃあ、一つ目の肉はこれですね。人類のチート畜産品、鶏です。これだけは、どんな時代どんな場所でも大抵手に入る。なにせ、鶏の飼料要求率(1キロ体重を増やすのに必要な飼料の量)は2.5キロ。これは牛の10キロ、豚の5キロと比べてもすさまじい高水準と言えます。なんなら最近話題のコオロギ(1.7キロ)と比較しても卵や脂、羽毛の有用性まで考えれば十分に「魔法の畜産品」と言えます。その辺にほっとけば勝手に採餌もしてくれるし、なんでも食べて肉や卵に変換してくれるすごい家畜。現代のブロイラーは大体50日くらいで出荷されますが、これは2年くらい育てたヒネ鶏寄りの種鶏です。その辺の農家で「そのデカい美味そうなやつ分けてくれ」と言えば手に入るでしょう。デカい雄鶏を買い取って貰えたら農家もうれしいですからね。

塩漬け5日

 「それはつくねじゃん、ハンバーグじゃないよ」とという声もあると思うので、オーストラリア産グラスフェッドビーフ(牧草メインで育てた安くて硬い肉)の塩漬けを用意しました。全体の4%強の塩をすりこんで数日寝かせたものです。あの世界観だと牛や豚の肉はかなりの貴重品なので、手に入るとすれば塩蔵品である可能性が高い。ここは豚牛のどちらでも構わないのですが、ちょうど冷蔵庫に牛があったのでそちらを採用しました。あの世界観かつ状況で手に入るとすれば、それは農耕兼用の牛を潰した時に出る肉なので、現代の牛とはかけ離れた筋ばった硬い肉でしょう。可能な限り原典に近づけるために、ガッツリ筋の入った部分です。牛でも豚でも塩蔵熟成するとムワっと肉の風味が出て来ますので、鶏だけでは物足りない風味を補ってくれます。軽く塩抜きして使いましょう。

魚よりずっと簡単

 それでは鶏を捌いていきます。コツは背中から胸肉を離すところ以外、「肉はほぼ包丁で切らない、肉の隙間の刃が入るところにスゥっと入れる」くらいです。なんとなくやれば結構出来るので、適当にやりましょう。骨を切る必要がある場所は一つもないので、それこそ百均の包丁1本あればできます。関節の継ぎ目はボキっと曲げて外しましょう。生きた鶏を買っておけば冷蔵しなくても長持ちしますし、便利ですよね。現代でも東南アジアの市場なんかでは売ってます。美味しいですから。

見慣れた感じになってきましたね

 こんな感じで、もも肉、胸肉、ガラ類の三つに分けていきます。若鶏であれば「ジューシーさを出すために皮ごと刻んでハンバーグに叩き込む」選択肢もあるんですが、これくらいまで育った鶏になると、もうそういうレベルの硬さではない「革」寄りになっているので、モモやムネの皮は脂を残してぜんぶ外すのがオススメです。あなたが魔王軍とシバキあえる腕力と斧をお持ちで「おれならミキサーいらずでやれる、おれがミキサーだ」タイプの戦士なら、この話は忘れてください。もしかしたら、戦士の村の原典レシピではそうなっているかもしれません。ちょっと現代人の腕力というかオーク寄りの僕でも厳しいので、ここはレシピに工夫を凝らして皮の旨味とゼラチン、それに脂をハンバーグに取り込んでいきます。

アニメ版だとこんな感じの鍋をアイゼンは使ってました。

 ガラ類をまとめて鍋に叩き込みます。頭もいいダシが出るので、忘れずに入れておいてください。でかい鍋を使いたいのはやまやまですが、魔王を倒す旅に携行する鍋といえば、蓋を閉めて焚火に入れればオーヴンになるこのタイプでしょう。スープを取ったりパンを焼いたりあらゆる用途に使われていたと思います。

ここでハーブ・スパイス類を入れる。若鶏じゃないので結構匂いがあります。

 臭み消しのスパイスは、生姜(1/3くらい)、玉ねぎ(半分)、にんにく(1個)です。にんにくは一粒でふつうのにんにく丸ごと1個分くらいあるやつを使っているので、小粒のにんにくを使う場合は皮ごと真っ二つに切って半分入れるといいんじゃないかと思います(二郎でおなじみのやり方ですね)。あとは、乾燥セージと乾燥タイムを写真左上くらいの量加えました。香草類はかなり香りのインパクトが強いので、ハンバーグには練り込まずこのタイミングで加えます。このスープは最終的に1/8くらいまで濃縮するので入れ過ぎ禁物。

ちょっとしんどい

 ムネ肉とモモ肉を骨からはがし、口に障りそうなスジを抜いたらあとはひたすら刻んでいきます。鉈とか斧とか中華包丁があると楽でしょう。「ミキサー使いたい」衝動が押し寄せています。魔法使いのフリーレンはおそらく「対象をみじん切りにして攪拌する魔法(不定形系のモンスターとかにも便利そう)」とか使えると思いますが、アイゼンは戦士だし僕は小柄なオーク寄りの人間なのでここは力押しでいくしかありません。でもね、高級なお店で「ひき肉は手切り」ってメニューがたまにある通り、ここは手でやった方が圧倒的に美味いんですよ…。不器用な戦士の愛情を感じますね。

正直しんどい

 若鶏と違って、肉質がとにかく硬い。これでまだ半分だと考えると泣きそうになりますが、頑張ります。精一杯頑張った戦士を労う料理ですから、ここは頑張りどころ。

つらかった

出来ました。鶏一羽分なので、これだけで1.5キロは軽くある気がする。計ってないからわからないけど。正直、この時点でかなり投げ出したくなってますが

まだ君がいたか…

 まだ塩漬け牛1キロがあるんですよ…。いい感じに「保存食」って色合いになってますね。豚でも牛でもこの「塩漬け」工程は入れた方が味としても美味しいと思います。

塩漬けなのでちょっと楽できる

 幸い、牛は塩が入って硬くなっているので、包丁で極薄にカットすることで大分手間が省けます。いきなり叩こうとすると終わらなくなるので、まずは1ミリくらいの厚さにカットしてください。よかった、鶏モモに比べたら格段に楽だ…。スジは抜き過ぎない方がいいですね、細かく刻めば美味しくなるので。

できたァ!!

 戦士の伝統料理である理由がよくわかりますね…。まずは腕力がないとこの料理は作れません。この時点で調理を開始して1時間が経過しています。お祝い料理なのがよくわかる、こんなのお店でもやれない…。

ひき肉

 苦労して作ったひき肉に

なるべく原典に近づけるべくヒネたお野菜を用意しました。1個だけ違うものがありますが、気にしないでください。冷蔵庫に余ってたので…。
肉に直接入れるのは1/4くらい

 みじん切りにした玉ねぎ、生姜、にんにくを加えます。ここは悩んだのですが、肉にかなり強いクセがあるのでフレッシュな香味野菜を加えることで軽みを出してやろうという発想です。

終わりが見えてきた!

 ただ、これだけではちょっと口当たりが重たいし、何より脂が足りないですね。ジューシーさと脂を補う一工夫が必要になります。

めちゃめちゃ脂浮いてる

 そこでこれを使います。スープの上にアホみたいな量の鶏脂が浮いているので、お玉で掬ってとりわけてください。除去した分水が足せるので、足しておきましょう。そもそもこの量のスープを取るのにこの水は不足気味なので、継ぎ足す余裕が出てよかった。鶏の香りに香草の香りが入って見事な香味油になっています。

ぜったい荷物の中にある

水分が抜けてガシガシになったパンをすりおろします。これはもう、あの世界の冒険者なら確実に持っているでしょうし、台所の隅にも絶対あると思います。なんならこれをどうやって食べるか悩むのが主な食事でしょう。美味しく消費出来るならこれは確実に入れるだろうな、ということで

すりおろした

 今回のハンバーグはパン粉のつなぎを採用します。しかし、そのまま入れてもただでさえ硬いハンバーグが更にしわくなってしまうので…。

パン粉と鶏脂
いい香りがする

 いい感じにハーブやスパイスの香りが溶け込んでいる鶏脂を混ぜ込みます。これでハンバーグの油脂不足を補っていく作戦です。残った脂は焼き込みの時に使うといいでしょう。あの世界観だと「油脂」はさりげなく貴重品なので、スープの上から回収できるのは助かります。

さぁ、盛り上がってまいりました(気力が切れたらお終いだ)

 上記の材料に加えナツメグを少々、それにたっぷりの白胡椒(超高級品だけど、お祝い料理だからね!)、それに白の1/3くらいの黒胡椒を加えていきます。ここは白胡椒を軸にする方が美味い…と僕は思います。でも、黒胡椒が好きな人はガンガン黒入れてもいいと思いますし、お好みです。個人的には「肉の臭みを消して風味を前に出す」黒胡椒に対して、「肉の風味に溶け込みながら臭みをマスクする」のが白胡椒だと思うので、肉を味わってもらいたいと考えてこのチョイスにしました。正直、この胡椒挽いてる時もしんどかった。面倒な人は電動スパイスミルとか粉のやつとか使ってください。あの世界の冒険者が貴重なスパイスを香りの飛ぶ粉で持ち歩くわけがないので、丁寧に丁寧に手で挽いて使っていたと思います。

捏ね終わった!

 ここもちょっと大事なポイントです。牛から塩が出るのでしょっぱくなり過ぎないように注意しながら必要なだけの塩を補いつつ、ものすごい力でこねてください。現代のひき肉と違ってどうしても刻みが甘いので、ここも腕力勝負です。粘りがしっかりと出て形になるまで、フルパワーでこねてください。巨岩を軽々と持ち上げる戦士の料理だとよくわかります。小柄なオーク程度の腕力ではこのあたりでもう筋肉がプルップルしてきますが、根性入れてやります。

油断しましたね、この工程もあります

 さっき残しておいた玉ねぎ、生姜、にんにくのみじんぎり2/3を炒めます。これは甘さの「つなぎ」にするための野菜なので、インド料理みたいな飴色までやる必要はありません。ただ、料理に甘さを加える時これがないとなんとなく不自然になっちゃうんですよね。ソースに野菜のグルタミン酸を加えて肉のイノシン酸との相乗も狙います。あの世界に昆布はおそらく存在してないので、やるしかない。味の素もあるわけがない(原料になるサトウキビの廃蜜は南方でしかとれません)。

こんなもんで十分です

 野菜に脂が回り、ほどよく色が出て来たら

いい香りだ

スープを加えていきます。西洋料理として考えると結構乱暴な手順ではあるんですが、戦士の料理なのでこの感じが似合うかなと思いました。そこに赤ワインを加えていきます。少量ずつ、オーバーしないよう味見しながら入れてください。酸や渋みが前に出るようになるとちょっと厳しいので。この後、このスープは1/4以下に煮詰めることも想定して、入れすぎ注意です。

明らかにワインの色がおかしい

 Tipsですが、ワインも「蓋を開けて適当にコルクはめこんだまま1年くらい放置してめっちゃ減ったやつ」とか使うとリアリティラインを上げることができます。これは「グレートビンテージならしょっぱい醸造元のワインでも美味いのではないか?」検証を行った際、「そんなことはなかった」といった結論が出たため1年ほどテキトーに栓をして放置されていたワインを使いました。フレッシュなワインにはない中世風味を出してくれますね。このドブ色がかったワインをお湯で割って飲むのが伝統的なワインのはずです。実際、調味料としては案外悪くないですねこれ。ワインのシャープさは煮込み料理なんかのとき「尖り過ぎだな」ってことがあるので。

良い色になってきた

 さて、お祝い料理、かつ肉体労働者の料理といえばやはり「甘さ」は鉄則。砂糖…は使えないんだった。じゃあ味醂…あるわけないな。しょうがない、日本酒を煮詰めて糖を…稲作やってないあの地域に日本酒が存在するわけないじゃねえか、そもそも日本じゃねえよ。甘いビールはあるだろうけど煮詰めたら甘さよりもホップの苦さが前に出るし、白ワインは糖度が低すぎて糖を作れない。甘めの赤ワイン程度では足りない。しまった、これは詰みか。「お祝い料理だから貴重な砂糖を使いました」解釈もありですが、「私だって何か月も甘いもの食べていない」あの世界観、あの過酷な旅の行動食にすら糖を使えない世界でそれはちょっと負けな気がする…。あっ、そういえばあれがあった!

なんでしょう?

 これは、水で薄めた蜂蜜に「腐った葡萄」と「干し葡萄」の中間くらいのやつを投げ込むと、確率で発生するやつです(腐敗することも多々あるので、やろうと思った方は自己責任か、あるいは市販のイーストを使ってください)。一般的には蜂蜜酒(ミード)と呼ばれることが多いと思いますが、現代日本ではアルコール度数が1%を越えると違法になりますのでご用心ください。

 これだったらあの世界観の農家に存在してもおかしくないというか、糖が極めて希少な世界で「甘味」といえば果物とこれですね。種酵母の保存も兼ねる(僕も元々は、「葡萄から天然酵母取り出したし美味しいパンも焼けたけど、この酵母どうやったら生かしたまま保存できるんだ?」とか「小麦に水と葡萄加えて酵母取り出すの成功率低くないか、腐ったぞ?」みたいな理由で作ってました)ので、調味料として使われていたと考えても極めて自然です。ただの蜂蜜にはない発酵感のある旨味と複雑な香味を付け加えることも出来ます。よかった! ここまで来て「お祝いの砂糖を入れます」って書かずに済んだ。ダイレクトに蜂蜜でもいいですが、ミード使うと発酵の魔法が乗って一段階美味しくなります。葡萄ジュース煮詰めたの入れるよりワイン入れた方が美味いのと同じですね。

二段ダシ

 それではスープを別鍋に移して煮詰めていきましょう(アウトドアモードのアイゼンはおそらく鍋1個で仕上げてますが、わかりやすさのために分けます。めんどくさければ最初の鍋からガラ抜いてそのまま作ってもOKですよ)。ハンバーグを焼くのにも1時間近くかかるのでちょうどいいタイミングで仕上がります。ここで、さっきの鍋には入らなかった鶏ガラや肉から出たスジなんかを放り込んでおきましょう。ダシは濃ければ濃いほどいいと女神様の聖典にも書いてありました。

焼き始めるぞ!

 それではハンバーグを焼き始めます。アニメを見ると、アイゼンは熾火の上にグリルをセットしてハンバーグを焼いていましたが、あれは「仕上げ」工程であったと思われます。コミック版だと鉄板で焼いてましたね。流石に賃貸物件で薪火を使うのは無理なので、そこだけはご容赦願うとして(薪の香りが乗ったらさぞ美味しいだろうなとは思います)フライパンでじっくり焼きあげていきます。ちなみにこのフライパンは直径36センチあります。このサイズのハンバーグになると「手の平で整形する」とかは不可能になってくるので、ボウルの丸みを上手く使いフライパンで焼きながら形を整えてください。フライパンに入れる前にボウルでトントンやると空気は抜けます。

フタがないと流石に厳しい

 フタをして蒸し焼きにします。これは流石に「この厚さだと、使わなければ無理」な手順なので、アイゼンもそうしていたでしょう。おそらく、グリルや鉄板の上で蓋を乗せて蒸し焼きにするアメリカン・バーベキューに近い調理法だったのではないかと思います。なのでここはちょっとだけ原典から離れてしまいます、残念。薪火の香りが乗ったら更に一段階美味いだろうな、とは思うので次に焚火をする機会があれば試してみたいですね。絶対美味いと思う。

うんうん、良い感じ

 表30分、裏20分くらいで仕上げましたが、この辺は熱源や鍋、ハンバーグのサイズで大きく変動するので各自己の感覚を信じてやってください。基本は弱火です。「ちょっと裏側の焼き加減を見る」とかは不可能なので(絶対に崩壊します)、頼りになるのは「嗅覚」です。メイラードした香ばしい匂いが立ちあがってきたらひっくり返す、ただそれだけです。大丈夫だ、多少コゲても美味いから。ひっくり返しは1回が限度だと思います。平らな鉄板でデカい斧とか使えば余裕だろうな、とは思いますが流石にそれは用意出来ないのでしょうがない。では、どうやってひっくり返すか?

これしかないよ

 フライパンもろとも一度皿にグルっとひっくり返すことでなんとかひっくり返せます。これは「フライパンで巨大なお好み焼きを作る」時なんかに使う技ですが、2キロを軽く越えるハンバーグでこれをやるのはまさしく腕力勝負。遠心力を上手く使ってください。オークっぽい腕が写ってますが、この細腕では正直ギリッギリでした。やはり、戦士の腕力がないとこの料理はキツい。オーヴンを使えば楽勝ですが、それはレギュレーション違反だ。魔王を倒す旅の途上にスチームコンベクションは存在しない! おそらく、アイゼンやお兄さんもおうちのカマドで作る場合はこの手法を採用していたのではないかと思います。フリーレンは…「ハンバーグを完璧にひっくり返す魔法」とか使ったんじゃないかな…。パンケーキをひっくり返す魔法の拡大解釈で行ける気もする。「鳥」と「鳥っぽいクソデカい魔物」を区別しないのがあの世界の魔法だし、たぶん行ける。すごい、伏線回収だ。

ギリギリセーフ!

 一部崩壊しかけて冷や汗が流れましたが、ギリギリ成功と呼べる範囲に収まりました。正直、ここで崩壊したらヤケ酒に入った可能性があるので本当によかったです。手切りひき肉の荒さが味の根幹なんですが、どうしても「つなぎがゆるい」んですよね、このハンバーグ。みなさんも、ここで失敗してもやけ酒とかしないようにご用心ください。

あの量のスープをここまで煮詰めると「ソース」になる

 ハンバーグを焼く時に出て来る大量の肉汁まで全部まとめて適当にダシ材を抜き、ひたすらに詰めた最終形態がこれです。250ccないくらいかな。最後にちょっととろ味があるといいので、水溶き澱粉でトロっとさせてやります。フレンチだとブールマニエ(バターと小麦を練り合わせたもの、伝統的)やコーンスターチ(とうもろこし澱粉、最近の流行り)を使う場合が多いのですが、バターを加えて鶏脂の香りや肉の真っすぐな美味さを損ないたくはないし、あの世界観にコーンスターチは存在するわけがないので、じゃがいも(ジャガイモがインカから持ちこまれたのは16世紀だ、ツッコミがあったけどここ考証が怪しい!じゃあ、小麦から精製されたことにして!西洋では小麦澱粉も生産されてるから!)から容易く精製出来る澱粉で粘度をつけてやりました。肉によく絡む、素朴ながらも美味いソースです。うん、ミードのいい香りが生きてる。これにバターは入れたくないよね…。もちろん、入れても美味しい(中世風ファンタジーレギュレーションも守れる。バターと小麦粉は絶対ある)のでそっちが好きな人はそうしてもOKです。アイゼンレシピがどっちだったのかは不明ですが、ここは僕の好みです! 鶏脂とハーブをあんな工夫したのにバターの香りなんかかぶせたくない! ぜったいやだ!

出来たァ!!!

 できあがりました。

 めちゃめちゃ美味しい…。なにこれ、すごい美味しい…。塩蔵熟成した牛の風味、よく育った鶏とハーブの香り、蜂蜜酒とワインの発酵感がほどよく下支えをして、肉はワシっと締まっているもののジューシーな汁が溢れ出してくる。合間にシャキっとした野菜の歯ざわりが来て…、思ったより大分美味い、スゲー美味い。というか、この1年で作った料理の中ではたぶん一番美味い。やべ、超うまい。語彙。

 アイゼンさんやお兄さんのやさしさがよくわかりますね。これはもう、なんというか「心を込めて美味しく作る」料理です。流石に手がかかり過ぎるのでお店では出せないし(冷菜のミートローフとしてなら出せるけど、それはもうハンバーグではない)、これの焼きたてはまさしく格別の美味さです。愛情や労いを上手く伝えられない不器用な戦士たちが、怪力と真心を尽くして作る素晴らしい料理ですね。

これくらいが限界

 ちなみに、普通の人間に食べられる上限量はこれくらいになるので、モンスターをなぎ倒す戦士とかではないみなさんは最低5人は仲間を集めて戦うといいと思います。ソロ攻略できるのは歴戦のドワーフ戦士とかじゃないとマジで無理だと思う。肉2キロくらい食える人はいるだろうけど、この料理はあらゆる密度が半端じゃないので…。

 戦士の不器用な愛情を感じるハンバーグ、みなさんもぜひ作ってみてください。僕は1年くらい作りたくないです。

最後に宣伝させてください。僕はこういう本書いてる人です。
読んでくれたらうれしいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?