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これを読めば巨大な肉が焼ける話。第一話、王道フレンチ式牛タン火入れ術(とおまけの激ウマフライドポテト)

 くそでかい肉ってロマンがあるじゃないですか。お客様を招くにも華があるし、自分で焼いて貪り食うのも夢がある。しかし、実際に焼こうと思うと「どうやったら美味くなるねん?」ってところがあると思います。

こういうやつ、アメリカ産のわりと安い肉約1.5キロ

 無難に考えるのであれば、この肉は分割するべきです。真ん中にでっかいスジが入ってるのでそれを取り除いて、二枚のステーキにする。しかし、ここで二つ問題が出ます。肉ってのは基本的に「デカければデカいほど美味しくやける」のです。というか、「小さいと美味しく焼くのが難しい」と言い換えてもいい。

 これは、肉を構成する蛋白質の性質によるものです。蛋白質は加熱するとギューっと収縮するので、何も考えずガンガン焼くと肉全体が雑巾絞りみたいなことになって味も素っ気もない仕上がりになってしまう。それを回避しながら美味しく仕上げていくのが所謂「火入れ」の技術になるわけですね。

 そしてもう一つ。肉の美味さってのは多くの部分が「スジ」にあるんです。牛筋煮込みが嫌いな人はいないですよね、このスジを綺麗に掃除してしまうのは、その旨味を捨てるのとほぼ同義です。この肉に含まれる大量の「スジ」の美味さを生かした仕上がりに…したいじゃないですか! だって超上手いんですから。

 「火入れ」の技法、もちろん細分化していけばきりがないのですが、大きく分けてアメリカ式フレンチ式の二種類があると僕は考えています。そして、この両極を理解していれば大体の火入れは出来るようになります。それこそ、アマダイからカブまでやれるようになるでしょう。

 フレンチ式はざっくり言えば「全体に均一かつ、蛋白質の強い変性をなるべく少なく仕上げるもの」ですね。フレンチのお店で美味いソースと一緒に出て来るあの素晴らしい舌触りの肉をイメージしていただければ伝わると思います。冒頭で出したクソデカアメリカ牛、ああいうのには向いていません。ぐだぐだ文章で書くより現物見た方がわかりやすいので写真出しましょう。

牛タン丸ごとです
焼き上がり
火入れ加減
全体に均一ですね

 こういう火入れは「肉質が全体に上質かつ均一(あまりスジとか入ってないやつ)」な肉を焼き上げるのに向きます。上等な和牛なんかもこの火入れが結構合いますし、やはり一番この火入れが合うのは牛タンじゃないかなと僕は思います。シルキーで滑らかな舌触り、サクトロっと噛み切れる食感、とろけ出してくる旨味と所謂薄切りタン塩では味わえない良さがこのタンステーキにはあります。また、焼肉でタン塩を食べたのを思い出していただけばわかる通り、「強く火を入れたら即座にガチガチになる」性質の肉でもありますので、この火入れをしないと大きなカットではそもそも食べられません。噛み切れないので。

 アメリカ式の火入れはこれの正反対になります。

タコスのついでに焼いた小さいやつ
外側はこれくらい焼き上げる

 このように「外側はガリっと焼き固めて香ばしさを出し、肉の中心にはしっかりレア感を残し、火入れ加減のグラデーションを作る」のがコツですね。以前は薄い肉をこの火入れで仕上げる方法についてある程度解説したのですが、やっぱりこの火入れは分厚い方が美味い。なので、今回はスケールをでかくしてわかりやすく書いてみることにします。

 ここでですが、調理設備としての「オーブン」を所持している人といない人に別れると思います。先にお伝えすると、いずれの火入れも「ガスコンロとフライパン」があれば可能か不可能かでいえば可能ではあります。しかし、特に「フレンチ式」の火入れをフライパン一本で仕上げるのはそれなりの職人芸になり―もちろん挑戦すると楽しくはあるのですがー即成功するのはかなりの料理センスがある人に限られるでしょう。僕も、「フライパン一本で丸ごとの牛タンに火入れしろ」と言われると、「出来るけど、ちょっと失敗しても怒らないでね」くらいにはヒヨります。

 一方で「アメリカ式」はオーブンがなくてもそこそこいけます。それでも、100度程度まで温度を下げられるオーブンはあると料理の幅がおそろしく広がるので、持っていない方はこの機会に購入を検討されてもいいかもしれません。もちろん、「自分はフライパン一本にこだわる!」という方も大アリです。フライパンで焼けるなら、オーブンで焼けないことはまずないですから。

それでは始めていきましょう。やはり、基本となる「火入れ」はフレンチ式だと思いますので、こちらを先に理解しておくのが「アメリカ式」を理解するのにも役立つと思います。というか、アメリカ式はかなり尖った火入れスタイルなので、あれだけを理解してしまうのはちょっと危険かもしれません。

フレンチ式火入れ術ー牛タン編

皮つきで買ってもいいけど、剥くのは結構難しいですよ

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