【不正競争】口コミランキング事件(大阪地判平成31.4.11)


口コミで自社を1位にしたい!

ホテルや飲食店等、インターネット上には口コミサイトがいっぱいありますよね。
多くの人が口コミを参考にしていると思います。こういった口コミサイトの口コミや評価を操作して、自社の評判を上げる行為にはどういった法的問題があるでしょうか。

今回紹介する裁判例(大阪地判平成31.4.11)はそういう事案です。
原告も被告も、「リフォーム専門業者の中でも外壁等の塗装工事を中心に手掛ける専門業者」で、本店所在地も同じです。被告は、ウェブサイト制作会社であるA社に、外壁塗装業者の口コミサイトの作成を依頼し、同口コミサイトが完成しました(以下「本件口コミサイト」といいます。)。
原告は、被告が本件口コミサイトのランキングを恣意的に操作して、被告を1位に表示させたとしとして、被告に対して損害賠償を請求しました。

どういった根拠?

そもそも、口コミサイトの口コミやランキングを操作して、自社の評判が高いかのように見せかける行為について、法的には何が問題になるのでしょうか。誰がどのような根拠で、どのような請求ができるのでしょうか。

素朴に考えると、他社が自社を1位にするサイトを作ったからといって、損害賠償請求までできるのか?とも思えます。

①今回の裁判例のような、口コミサイトで自社を良く見せる場合と、
②口コミサイトで他社の評判を下げるような行為をする場合
に分けて考えてみます

自社を良く見せる場合

今回の裁判例では、不正競争防止法2条1項20号に定める品質誤認行為に該当するかが問題となりました。
次のような条文です。

【不正競争防止法2条1項20号】
商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

長くて難しい条文ですが、簡単にいうと、「自社の商品やサービスについて勘違いさせるような表示をしたらだめですよ」という条文です。典型例は、外国産の牛肉に「国産」と表示して売るような行為です。

これに該当すれば、「不正競争」となります。
そして、故意又は過失により不正競争を行い、他人の営業上の利益を侵害した者は、その他人に生じた損害を賠償しなければなりません(不競法4条1項)。

【不正競争防止法4条1項】
故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。(以下略)

つまり今回の裁判例の場合、口コミランキングで自社を良く見せようとする行為が、この品質誤認行為にあたるかどうかが問題となったのです。

他社の評判を下げる行為

この場合の方が想像しやすそうです。
例えば、既存の口コミサイトに「この居酒屋の飯はクソマズい!」「洗っていないコップでビールが出て来ますよ!」等、虚偽の投稿をしまくって、他社の評判を下げるような行為です。

この場合、信用毀損行為(不競法2条1項21号)として、同じく不正競争にあたり、損害賠償責任を負う場合があります。

【不正競争防止法2条1項21号】
競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為


裁判所の判断

1 そもそも「広告」にあたるか?

 前記のとおり、品質誤認行為にあたるためには、「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信」に、誤認させるような表示をすることが必要です。
 裁判所は、「被告が,被告の提供する役務に需要者を誘引するために本件サイトを開設したことは明らか」であるとして、本件口コミサイトが被告の提供する役務(外壁等の塗装工事)の「広告」にあたると認定しました。
 被告自身が、本件口コミサイトの作成を発注した者であることも考慮されています。

2 誤認させるような広告であるか?

 次に、本件口コミサイトが「広告」にあたるとして、そのサイトにおける表示が、被告の提供する役務の質、内容について誤認させるような表示であるといえなければなりません。
 裁判所はこの点について、判決においてしっかりと説明を加えています。
 判示部分は長く、なかなか難解であるため、以下要約します。

・ 本件口コミサイトにおいて「1位」と表示されることは、投稿された口コミの件数や内容に基づき、本件口コミサイトに掲載されている業者の中で、投稿者の主観的評価として最も優良であると評価されている、という意味を持つ。
・ そうだとすれば、➀被告が1位という表示と、②口コミ件数及び内容に基づく評価とが一致しているのであれば、誤認させる表示とはいえない。
・ しかし、本件口コミサイトの口コミの中には、サイト公開前の日付のものが5件存在するなど、架空の投稿が存在する。
・ すなわち、被告は架空の投稿を相当数行うことによって、ランキング1位の表示を作出裂いていたと推認される。
・ したがって、➀被告が1位という表示と、②口コミ件数及び内容に基づく評価とは乖離するため、被告が1位との表示は、被告の提供する役務の質、内容について誤認させるような表示にあたる。


3 原告に生じた損害は?

 以上より、被告が本件サイトで1位の表示をしていることが不正競争(不正競争防止法2条1項20号に定める品質誤認行為)にあたることが認定されました。
 不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、不正競争を行った者に対して損害賠償請求を行うことができますが、本件で原告は被告に対して、どのような請求ができたのでしょうか。

⑴ 無形損害
 まず、原告は、被告が1位として表示されたことによって、原告の信用が毀損された(=無形の損害が生じた)と主張しました。しかし、裁判所は、「被告が1位と表示されたからといって、原告の提供するサービスの質や内容についての評価を低下させるものではないから、原告の営業上の信用が毀損されたとはいえないでしょ」等として、原告の主張を一蹴しています。

⑵ 有形損害
 次に、原告は今回の訴訟や、この訴訟に先立つ訴訟を起こすために弁護士に支払った弁護士費用についても、損害であると主張してその支払いを求めています。
 この訴訟に至る経緯は複雑ですが、簡略化すると、以下のとおりです。

・ 原告は当初、本件サイトを誰が運営しているのかを調査するため、東京地方裁判所において、本件サイトの契約者の情報の開示を求める訴訟を提起した(第1訴訟。弁護士費用は216,000円)。
・ そうしたところ、本件サイトの契約者は、被告の依頼を受け、本件サイトを作成したA社の代表者であることが判明した。
・ そこで、原告はA社の代表者に対して損害賠償請求訴訟を提起した(第2訴訟)。
・ しかし、第2訴訟において、A社の代表者は、「本件サイトの運営者は私ではなく、被告だ。」と主張したため、原告は被告に対して本件訴訟を提起した。

 このように、本件訴訟に至るまで、かなりの下準備が必要だったことが分かります(その分、弁護士費用もかかっています。)。
 裁判所はこのうち、①第1訴訟の弁護士費用のうち7万円を、調査費用として認めました。また、②本件訴訟提起に必要となった弁護士費用の損害額として1万円を認めました。
 結論としては、合計8万円の損害賠償が認められています。

まとめ

 架空の口コミで自社を1位にした被告に対する損害賠償請求という、過去に例のない(?)請求を行い、認容判決を得たという貴重な裁判例だと思います。
 確かに、本件では、あくまでも被告自身を1位にするという不正競争行為の性質上、損害額の立証は困難であり、実際に、原告が被った無形損害(営業上の不利益)の請求は認められていません。
 しかし、同業者である原告としては、虚偽の口コミで1位に君臨している被告を放っておけないという気持ちがあるのかもしれず、そういった場合に、このような訴訟が牽制になることも十分あり得るかと思います。
 そもそも、架空の口コミサイトが作成されたとしても、精巧に作られていれば、架空であることを見抜くことは相当困難であると思われ、このような事例はもはや消費者被害の部類に属するのではないでしょうか(本件では、サイト開設前の口コミが存在する等、綻びがあったことから、判決においても架空の口コミであることが認定されています。)。
 競業者(私人)からの損害賠償請求にも限界があり、公的(行政的)規制が介入しても良いのではないかと思います。

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