夢日記 泥の多い国

起、結、が出来た夢を見たので供養。
承と転はない模様。

泥が上から降ってくる。
いくつもの貯水槽にその泥は溜められている。下の貯水槽へ行くほど濾過され綺麗になっているが衛生的とは程遠く、上から降ってくる泥がビチャビチャ跳ねるものだから濾過された水の中にも泥が無数に溜まっている。
喉が酷く乾く。
貯水槽で働いている半裸の泥だらけのおっさんに、水をくれと言ってみた。
『なんだお前、下層の人間か?その辺の泥でも啜ってな』
上層の仕事をしている人達は誇りがあるらしく、下層の人間を見下している。
汚いのは上層なのに。
こんな泥水は飲めない…。
綺麗な貯水槽を探すも、どれも酷く汚い。
汚いどころか、様々な動物が泳いでる始末だ。虫、魚、蛇、カバまでいる。どうなってるんだ?
こんなところには居られない、俺は貯水槽から降りた。
下は浅い海になっていた。ここも濾過しきれていない泥が垂れ流しになっているから泥色の海だ。
陸へ上がる。
工場へ来た。
濾過で生まれた残留物を処理する工場だ。一塊にしたゴミの残骸をひたすらにトラックへ詰めていく。泥の粉とゴミが舞っている。
汚い。
ただ既に自分も汚いから大して気にしていない。搬入口に捨てられているゴミをひたすらにトラックへ詰める。
なにやら騒ぎがした。
残留物から人の死体が出たらしい。中年の男が猫車に死体を載せて運んでいる。
近くに寄って死体を視る。
女の人が蹲るようにして凍っていた。
綺麗な人だ。中東の容姿と服装をしていて、長い黒髪と褐色の肌が印象的だ。
死ぬには若すぎる。
どうしたんですかこの人?と聞いてみた。
『知らねえよ。奥のごみの山から見つかったんだ』
男が女の遺体をアスファルトの地面に降ろした。
『凍らされた後に他の奴らが枕にして使ってたんだ。その痕も至る所に残っている。見てみな?』
男がその痕をなぞって教えてくれるもの、素人目には判別がつかない。

上層の人間は、汚いほど高尚な行いと言う倫理観を持っている。だから、上層の泥を処理している人間の方が下層の人間より偉いし、死んだ人間はこごみの山へ捨てる。
そして、そんな死体を枕に使っても高尚な行いとされ、不道徳ではないようだ。

「この作業が一番嫌なんだよな」
男がノコギリで、死体を切り分ける。
まるで屠殺された家畜のような扱いだ。太腿の断面が鮮やかな赤色をしていた。
バラバラになった冷凍死体を男は胸の前に集め大事そうに車へ運んでいく。荷台ではなく、助手席へ死体を降ろした。

俺も一緒に車に乗せてもらった。
この男は下層の人間らしい。

最初に見た海とは違う、ゴミや泥が無い海へ着いた。
男は死体を抱き抱え海へ放流した。
しばらく海を見ていた。
悲しそうに落ち込んでいる。

考えてみればこの男もまた不幸な人間だ。上層で生活をするため倫理観を矯正し、精神的に辛い仕事も上層のやり方でやらなくてはならない。
死体とはいえ、女性を切るのはどれだけ辛かったのだろうか。運んでる途中は何を考え、今は何を想い海を観ているのだろうか。

先ほどまで波打ち際にいた男が、胸まで波がくる深さまで歩き出していた。
そして、男の目の前には死んでバラバラにされていたはずの女が慈母のような微笑みを男へ向けていた。
男は女を抱きしめ泣き始めた。

「すまなかった。こんなことしか出来無くて。本当にすまない」

女は恋人を見るような微笑みを向け、男の腰へ手を回した。

「最後にここへ来れて良かった、ありがとう。」

ここは下層の住人が暮らしていた海だ。
女も下層の住人で、男もそれがわかっていたのだ。
下層の人間が上層で働くことは滅多にない。同じ境遇、同じ場所に二人は居たが、出会う時期だけが少しだけ遅かった。
しかし、今だけは二人は同じ場所にいて同じ時を過ごしている。その表情はとても穏やかに見えた。

次第に波が強くなり、波は背丈を超え、その波に泥が混じる。
二人がいた場所には誰もいなくなっていた。

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