【読書感想】実力も運のうち

マイケル・サンデルの「実力も運のうち」を読んだ。

本書は、メリトクラシーと、それに付随する知的職業階級(インテリ・エリートされる人)の傲慢に対する批判の本だ。

そもそもメリトクラシーとは何なのか。日本語では能力主義と訳され、本書の解説では能力主義というより功績主義と書かれている。個人的には努力信仰、つまり「私が成功したのは努力したからであり、成功してないのは努力が足りないから」だという考えがメリトクラシーの本質を表していると思う。

人生は個人の努力で決まるわけではなく、遺伝子や環境、あるいは時代が関係してくる。つまり、運の要素が大きい。なのに、高学歴と言われる人(あるいは高学歴でなくても成功している人)は、自分の人生が上手くいっている理由を自分の努力に帰結する。

記憶に新しいのは東大卒アイドル・なつぴなつ氏の炎上だろう。

なつなつぴ氏は「東大に入れたのは私の努力の成果である点が大きいのに、それを無かったことにされるような虚しい気持ちになりました」と語っている。中高一貫の進学校に入学し家庭も恵まれていたと振り返る一方、環境に馴染めず塾にも行っていない。そのため、努力の比重が大きいと言う論理だ。

個人的には、中高一貫校に子供を入学させることができる両親のもとに生まれている時点で、遺伝子的にも環境的にも相当恵まれている方だと思う。「私が東大に入れたのは努力のおかげ」というストーリーにはちょっと無理があり、運の要素を過小評価していると思う。

本書では、この成功者・エリートの「運の要素の過小評価」による傲慢さが社会の分断を引き起こし、ドナルド・ドランプ大統領の誕生・イギリスとEU離脱を招いたと語られている。

俺は成功者・エリートとは対極にいる人間だ。とはいえ、しんどい状況から抜け出しつつあり、それは自分が「運が良かった」からだと思う。

自分が生きているうちにこの分断が解決することはないし、何ならもっと広がるだろう。ただ、自分個人は謙虚に生きて、社会や次世代に自分の知識や経験を還元していきたい。

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