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【麻雀】ツモるまで6秒を所要する親父【フリー】

あなたは、「今、自分はツイていない」と自覚できる判断材料はお持ちだろうか。

私は8000個ほどあるが、そのうちの一つに

「ツモ山に手を伸ばすまで膨大な時間をかけ、膨大な時間と共に手牌まで戻し、ものすごく盲牌をしているのにもかかわらず結局目視確認を行い、3枚切れの字牌をツモ切るまでに6秒かかる親父と同卓する」

というものがある。これは本当にツイてない。

さらにツイていない場合、その親父が上家に鎮座する。こうなったらもう世界の終わりだ。

そんな状況に先日、都内の某雀荘で見舞われた。

50代くらいのスーツを着たおっさんが、とんでもなく遅いのだ。別に少考や長考は何ら問題ない。

しかし麻雀は4人でやるゲーム。出来る限り、無駄な所作は省くべきだ。頼む。牌山に手を伸ばすまでに膨大な時間をかけて、意味はあるのか、それは。決して何も生み出さない、無の時間。いや、時間をかけて手を伸ばすことによって例えばその親父の腕の上で小さいハムスターやリスが踊ったり戯れたりして、同卓者に安らぎのひとときを提供してくれるとかだったら話は別よ。全然いい。

あと、ツモった牌を手牌に戻すまで時間をかけるのもやめてほしい。頼む。分かるよな、その所作に何の意味もないこと。50年生きてきたんだから。いや、ゆっくり戻さないと極端に心臓に負担をかけて吐血することがたびたびあるとかそういうハンデを背負っているのならいいよ、全然。オッケーオッケー!

あと、その盲牌。まじでいらないよな。教えてあげればよかったかな、指で感じるより目で見た方が早いってこと。いや、1週間後に例えば全日本盲牌選手権北関東代表戦の先鋒や大将戦を控えているとかだったら激シブよ。

挙げ句の果てに、無発声。点数申告もなしとくる。

危険牌を押す時は、川に切らずに手牌からパタンと1枚だけその場に倒して、切ったか切っていないか分からないような、小細工を仕掛ける始末。

それでいて、ほぼ連対しているときている。

同卓している他のサラリーマンはラスハンをかけ、その後入ってきた若者も2はんちゃんで抜けてしまった。

客がいなくなってバイトの学生メンバーが席に座ると、親父は言い放った。

「ちょっと負けたらすぐ抜けちゃうって、なんかみっともないよね」

きっとこの親父は、自分の行いが周りにどれだけ迷惑をかけているかが分からないんだろう。というより、そういうことを考える頭もないんだろう。甘やかされて育ち、なんの努力もせず、何も頑張らず、自己を振り返らず、あっという間に40代、そして50代になり、今となっては誰かに怒られる年齢でもなくなり、周りには注意してくれる人もいなくなったんだろう。

そんな状態でずっと時間を過ごしてきたお前は、きっと仕事もできない。自分が周りからどう映っているかを考えない時点で、たぶん、何をやらせてもダメ。

メンバー「そうですね、○○さん(親父)強いから仕方がないですよ^^;」

それに比べてこの、人としてデキている優しいメンバーよ。まだ20代の学生と見えるが、人間力は圧倒的に親父を凌駕している。気遣われていることすら気づかず天狗になっているこの親父がなんと醜く見えることか。

メンバーよ、もうよい、下がれ。人の心を忘れたそやつに配慮はいらん。ここからは俺に任せろ。

憎き親父め。麻雀が強い弱い以前に、人としての部分が劣っている時点でお前は負けてるんだよ。教えてやるか。麻雀で勝つのに必要なのは、雀力ではなく、人間力だってことをな!(カラカラカラカラ..(起家ボタンを押しながら))


気がつけば俺は、万両を3回ほど行っていた。親父の胸ポケットは俺の1000円札で溢れ、しまいには「籠か何かちょうだい」とメンバーに注文する様を目の前で見せつけられるハメに。

そしてあっという間にその親父は5連勝。

5連勝目の精算を行っている最中に、同卓しているメンバーに向かって親父が「オーラス、お前けっこう手入ってたっぽいよな。最後の方とかダマテンしてたよな?」と聞いていた。メンバーが質問に答えると、「あ〜なるほどねぇ、うんうん。そういう感じだったんだ〜。」と。


うるせえんだよボケが。


俺さぁ、お前みたいなその「大して興味もないのに他者の手牌に関心を寄せるフリをして自らの余裕を見せつける煽り」をするやつすっごーくムカつくんだよ!ふざけてんじゃねぞてめ!!!(雀鬼の小沢風に)

次局、13巡目に親父の親リーを受け以下の配牌とツモがやってきたが

一二三三六⑤金⑤456789 ツモ三 ドラ⑤

とうに冷静さを失っている俺は、無筋の六を切りリーチをした。数巡後、赤⑤ツモ。裏三。

渾身の上がりが発生したことに胸を撫で下ろし、先ほどまでの怒りが鎮まりそうになった。しかし、親かぶりした親父は俺に「運の麻雀とはこういうことか..w」とぼそっと一言。


黙ってろ田舎もんが。


俺さぁ、噴きは実力で負けはたまたまで片付けるやつすっごーくムカつくんだよ!

そして気づかされたのだ。こんなにも心を乱され、心を御せず怒りまみれになってしまった俺自身が、実は人間として一番未熟だったのだと。親父、ごめんよ。俺が間違っていた。怒りは憎しみではない。自己のコンプレックスを相手に投影しているだけにすぎないのだ。親父の未熟さに腹を立てているようで、本当は自分の未熟さを許せていなかったのだ。

この戒めを一生忘れぬよう、仲間内のセットでは、中膨れ裏3の上がりにはローカル役をつけることにした。役名は、親父の一言にちなんで「ビギナーズラック・ハイライト」と名付けた。特に祝儀はない。

お財布の中身がたりんちゅしていて死にそうです