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新連載企画:敏腕音楽Pがやってる「育成」を簡単にする考え方。【アーティストプロデュースにまつわる100のギモンぶつけてみた】|01

こんにちは、やまはたです。今回よりS×Sに飛び入り参加しました。ライターをやっております。ときどき実家の畑で“半農”しています。山歩きが好き。人に話を聞くのが好き。現在1児の子をもつワーママです。

とまぁ私の自己紹介はこの辺で。今回からS×Sのいち視聴者として、"中の人"に聞きたいこと、気になることをぶつけていきます。

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▼目次
01のギモン|「育成」ってなんですか?
育成もマーケティングも「ただの思いやり」です
参考にするのは"パイセンの教え"
今回のまとめ
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01のギモン|「育成」ってなんですか?

2020年2月に走り出した『Story by Story SHIBUYA(通称:S×S)』というプロジェクト。「誰もが何者かになれる場」というコンセプトで、選ばれし9人の女の子が目標に向かって成長していく姿を垣間見ることができるわけですが、配信を見ているとどうもそれだけのストーリーじゃないんですよ。

とにかく、音楽プロデューサー長谷川洋輔氏の導き方が秀逸。表向きは女の子たちの成長ストーリーだけど、蓋を開けてみたら「あれれ、これってビジネスマン、子育て中のママ・パパ、人の育成に関わる多くの人に響く内容なんでない?」と思ったわけです。

兎にも角にも、長谷川氏の言葉の力が強い。天才的。(こんな風に書くと「恥ずかしいから僕のいないところで話して」って言われそうなので本題に入る前に書いておきます)

ということで、長谷川氏をnoteに召喚。長谷川節炸裂の育成術をお届けします。

上司と部下、先生と生徒、コーチと選手、親と子。
育成という立場にある多くの人たちに読んでもらいたいなと思ってます。

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長谷川 洋輔氏
ソニー・ミュージックレーベルズでLiSA、Crossfaith、初音ミクなど国内外、幅広く活動するアーティストやプロジェクトに関わってきた音楽プロデューサー。業界歴は20年以上。S×Sでも的確なアドバイスで9人の女の子を育成・支援。休日は、独学で研究を続けているゴルフ三昧。
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育成もマーケティングも
「ただの思いやり」です

ーー突然ですけど、私いま子育て中で。人ひとり育てるのは並大抵のことじゃないなぁって、壁にぶち当たってます。

長谷川P:子どもって親の願い通りに育たないもんですよ。そういや僕も親の言うこと聞いてこなかったよなぁって思います。

ーー長谷川さんはたくさんのアーティストを育てて、人気者を世に売り出しているじゃないですか。どうやって育成してるんですか?

長谷川P:実はあんまり難しく考えないようにしているんです。「育成方法はなんですか?」って聞かれても、「これが方法です!」って掲げていることはなくて。でもシンプルに言えば、僕の育成スタンスは子育ての感覚……いや、コーチングに近いかもしれないですね。

そういえば金八先生って、生徒と土手に並んで同じ夕日を見るなって思ったんですよ。落ち込んで素直になれない少年の横に座って話を聞いたり、同意したりするじゃないですか。

ーー名シーンですよね。

長谷川P:あと前になにかの小説で読んだんですけど、「異性を口説くときはカウンターがいい。カウンターのテーブルで同じ方向を見て距離を縮める。でも、別れ話は向かい合うんだ」と。意見が違うもの同士が決裂するとき、意見をぶつけ合うときは向かい合う。「カウンターで肩を並べて別れ話をするカップルはこの世にはいない」って書いてあって、なるほどー! って思ったんです。

これって心理学に近いのかもしれないけど、育成で大事なのは、相手の気持ちや意見に対して同じ方向を見ることなんじゃないのかなって。

そして同じ方向を見るには、相手を知ることが絶対条件です。

ーーS×Sでも「君はどうしたいの?」と丁寧に問いかけていますよね。〈自分の現在地を知る作業 *1〉と〈小5理論 *2〉を9人全員におこなっていたのも印象的でした。これも相手を知る作業の一環ですか?

長谷川P:そうです、そうです。たとえば商店街のにある魚屋さんって、魚に詳しいじゃないですか。「大将今日はどう?」って聞けば「今日はいいヒラメ入ってんだよ」って。八百屋さんに行っても「このキノコはこうしたら美味しいよ」って教えてくれる。だから僕らも、この人(アーティスト)がどんな人で、どんな特徴を持っているかを可能な限りちゃんと理解して売り出すべきだと思っていて。

その人の性格とか思想、生い立ち、大げさにいえば性癖も、いわばその人の成分表みたいなものじゃないですか。魅力や特徴はどこにあるのかを自分なりに理解した上で、「こういう歌だといいんじゃないか」、「こういうパフォーマンスが似合うんじゃないか」などアドバイスしています。

*1…自分がどんなスキルを持っているのか、目標に向かう前に確認する作業のこと

*2…小学5年生の頃のクラスの立ち位置で本来の人間性が分かるという仮説



ーーいち視聴者としてS×Sを見ていて、こんなにもマイルドなプロデューサーさんいるんだって思いました(笑)。これは私の偏見ですけど、たとえば俗にいう歌姫は“誰かによって作られたもの”だと思ってたんですよ。会社のお偉いヒトがコンセプトを設定して、そのイメージを崩さないように徹底する、みたいな。でも長谷川さんはアーティストに主体性を持たせることに軸を置いてますよね。それはなぜですか?

長谷川P:冒頭でも言いましたけど、自分が親の言うこと聞いて育ってこなかった。それなのに「なんでアーティストには言うことを聞かせようとしているんだ?」って気が付いたからです。

誰かにやらされていることって続かないし、本人のためにもならない。たとえどんなにお給料がよくても、モチベーションがないと続かないことってあるじゃないですか。アーティストに限らず、サラリーマン、フリーランス、お母さん、どんな人でもそうだと思ってます。

ーー確かに、どんなにわが子が可愛くたってやる気が出ない日はつらい…。

長谷川P:アーティストプロデュースの場合、別に全員に好かれなくていい。“誰の気持ちを代弁できるか”が重要なんです。

そのためには"誰に届けたいのか"を自覚していることが大事だし、自覚してもらうためには、育成の"中身"がカギになる。最初からみんながみんな自覚できているわけじゃないので。育成は“育てる”というより、“気付いてもらう”といった方がしっくりくるかもしれません。

そういえば、ベンツに乗ると街中ベンツだらけに見えたり、妊婦さんは妊婦になった瞬間、街中が妊婦さんだらけに見えるんですって。

ーーあーわかる〜!私も妊婦のときそうでした。 急にいつもとは違う視点が生まれる。

長谷川P:それは「自分は妊婦だ」と自覚しているからです。自分にとって意味のある情報しか気が付かないんですよ、目の前にあっても。

ーーあの、ところでちょっといいですか。さっきから「あーなるほどなー」と腑に落ちることばっかりなんですけど、どうやったら秀逸なたとえ話がポンポン出てくるんですか?

長谷川P:物事を説明するには4種類の人間がいるらしいんです。難しいことを簡単に言う人。難しいことを難しく言う人。簡単なことを難しく言う人。簡単なことを簡単に言う人。

1番賢いのって、1つ目の「難しいことを簡単に言うことができる人」じゃないですか。自分だったら、どうなふうに言われたら分かるかなってことを常に考えます。でも、これは技術じゃなくて"思いやり"でしかないと思うんです、シンプルに。

ーー思いやり…。

長谷川P:話は少しズレますけど、プロモーションとかマーケティング、アナリティクスって言葉ありますよね。要はこれらも、思いやりです。

大事な人の誕生日に何をあげたら嬉しいって言ってくれるかな、どのタイミングだと喜ぶかな、メッセージカードを添えたらサプライズできるかな、デザートが出てくるときにあの火花が出るヤツあったらもっと喜んでくれるかなって、要は相手を思いやること、これこそがマーケティングじゃないですか。わざわざカタカナにしないでも、"相手のことを考える"=それただの“思いやり”だろって思うわけです。

ーーいるいる、やたらカタカナ並べてくる人〜。

長谷川P:「本日のアジェンダは~とか、エビデンスについて~」みたいに、簡単なことを難しく言う人いますよね。そういうのを疑いたくなっちゃうんです。

だから自分は簡単な言語表現を心がけています。“らくらくホン”みたいな気分ですかね。こういう業界だからとか関係なく、公約数として持てるものこそ大事にしようって思ってます。

育成って上から偉そうに「僕のやり方が正しいんだ!」ってことではなくて、相手と同じ方向を見ること、そのために相手を知ること。これらは思いやりでてきている、ってことです。

ーーえっと、私の上司になってもらってもいいですか……?

長谷川P:僕も心掛けていることであって、100点満点かって言われたらもちろんそうじゃない。だから自戒の念を込めているって言っておきます。。。

参考にするのは
“パイセンの教え"

ーーそんな長谷川さんの引き出しの多さ、思想は、一体どこからくるんですか?

長谷川P:僕“パイセンの教え”を大事にしているんです。歴史の本とか。

ーーあ、そっちのパイセンですね。

長谷川P:とあるパイセンの好きな教えがありまして。いつぞや、とある考古学チームが「人類の文化史上最も古い壁画に残した文字が解読できたぜ」って発表したんです。なんて書いてあったんだろう? って思って記事を読んだら、「最近の若者はけしからん」ってことが書いてあったんですって。

それを読んで、もう難しく考えるのヤメたんですよ。人間って何千年も前から、最近の若者はけしからんってわざわざ壁に書いてたんだと思って。人間は今も昔も変わってない。IOSの方がまだアップデートしてるぜって話ですよ。

ーーほんとだ(笑)

長谷川P:戦国時代とか幕末時代の本を読んでも、そうなんですよ。だから、やっぱり大事なことはずっと変わらないじゃん、って思って。表現の“手段”は変わったし増えたけど、“根本”は変わってないんじゃないかなと思います。

ーー古人の言葉から解決策を得るのも、ひとつの方法かもしれませんね。

長谷川P:ゲームには攻略本があるじゃないですか。「このボスを倒すにはこの武器を使ったらいいぞ」とか書いてある本。ゲームクリアするときは攻略本見るのに、じゃあなんで人生に悩んだときは歴史に学ばないんだ? って話です。

ーーああああー。なるほど。

長谷川P:司馬遼太郎の『竜馬が行く』読んでれば大体どうにかなります。「浦賀に黒船がやってきた」は、音楽業界に「Apple musicとSpotify」がやってきたようなものなのかな、とか。

ーーリアルですね(笑)。いやはや形は違えど、今も昔も変わらないと。あ、そういえばどこかの偉人が言ってたっけ、「歴史は繰り返す」って。

今回のまとめ

最後に、改めて長谷川さんが日々のアーティスト育成で大切にしているポイントをまとめておくと、

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・相手と同じ方向を見る
・そのために相手を知る
・“育てる”よりも“気付いてもらう”ようにする
・わかりやすい言葉で伝える
・育成は思いやりがすべて
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アーティストであれ、部下であれ、生徒であれ、子どもであれ、相手は違っても"人を育てる"というのは共通部分。育成に悩んだとき、この記事の内容を思い出してもらえたら嬉しいです。

ということで、次回は別のギモンをぶつけていきます。

パイセン、これからもついて行きます!!

【Story by Story SHIBUYA youtube公式チャンネル】

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