見出し画像

【SXLP6期レポート#The Peoples】「ありがとう」の文化でNF職員を幸せに


現在、Sports X Initiative(以下、SXI)では、Sports X Leaders Program(以下、SXLP)7期の参加者を募集しています(3/25(月)23:59(JST) 締切)。

★募集要項はこちら!

過去のSXLP参加者たちがどのような問いを立て、システムデザイン思考を用いて議論やワークをし、最終的なアウトプットをしたのか、ぜひご覧ください。
※本原稿はSXLP6期終了時に執筆していただいた内容です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんにちは。SXLP6期のThe Peoplesです。
本noteでは今回取り組んだテーマの「『ありがとう』の文化でNF職員を幸せに」についてご紹介させていただきます。
※NF:国内スポーツを統括する組織のことでNational Federations(中央競技団体)のことを指しております。

はじめに、今回4ヶ月にわたって一緒に取り組んできたメンバーをご紹介いたします!(あいうえお順)

・大塚光一(こういっちゃん)
ユーフォリアで連絡網ツールSgrumを担当。領域はセールス/マーケ/システム開発。休日は子供のパパさんコーチ。

・君島知喜(きみちゃん)
日本バレーボール協会でビーチバレーボールの強化事業とアジア連盟で技術委員を担当。趣味は1歳の娘と遊ぶことと大谷翔平の応援。

・田村知之(たむさん)
日本サッカー協会で経営管理全般を担当。スポーツ団体ならではの文化に揉まれながら日々奮闘中。好きな言葉は日進月歩。

・辻翔子(しょうこ)
FIFPRO(国際プロサッカー選手会)の選手渉外担当。選手からの「ありがとう」をモチベーションに日々奮闘中。好きなチームは横浜F・マリノス。

・西野剛司(にっしー)
ランネット、月刊ランナーズを発行するアールビーズでスポンサーセールスを担当。昨年はシドニーマラソンと横浜マラソンを完走。今年は東京マラソンを走る予定。

・安永華南絵(おやす)
株式会社ユーフォリアのユーザーサポートを担当。東京オリンピックまではアスレティックトレーナーとしてラグビーチームをサポート。趣味はスポーツ観戦で、現在様々な競技を開拓中。

・余吾由太(よごちゃん)
株式会社ランブリッジ代表取締役。スポーツを通して社会課題を解決することが事業領域。趣味は読書で古典好き。

今回、様々なバックグラウンドをもつ私たちが、なぜこのテーマを設定したのか、そしてどのような過程で答えを導き出したか、お伝えしていきたいと思います。


1.テーマ起案

はじめに、私たちが行ったことは、バックグラウンドの違うメンバーがそれぞれスポーツ界で感じる課題感やモチベーションを共有することでした。
そこで出た課題感としては、以下の通り。

・人も組織も100の力を引き出せていない
・スポーツ組織で働くことにワクワクできない
・コントロールできないことが多すぎて戦意喪失
・ライフステージの変化に伴い、キャリアを諦めざるを得ない

「人」へフォーカスしているということと、「働きやすさ」が私たちのキーワードとなりました。

これらのキーワードや他の共通点から、チームとして取り組む3つの仮テーマを設定しました。

  1. 多様な人材が多様な働き方ができるスポーツ組織をデザインするには?

  2. 人の力を最大化できるスポーツ組織をデザインするには?

  3. 組織がモチベーション高く仕事ができるスポーツ組織をデザインするには?

そして、仮テーマを深掘りするにあたり、今回はチーム内にNF職員が2名、運営スタッフを含めると3名が在籍していたこともあり、対象をNF職員に絞ることにしました。
※The Peoplesというチーム名も「人」へのフォーカスから生まれています

2.IPS(このチームで解決をしたい問題を定義した文章)算出に至るまでの過程

仮テーマを設定し、IPS(Innovative Problem Statement)と呼ばれる、このチームで解決をしたい問題を定義した文章を決めました。そのために、様々なワークを実施しました。その中で、重要なインサイト(気づき)を得られた3つのワークをピックアップしてご紹介します。

①NF職員のモチベーションに関する因果ループ図
  NF職員がモチベーションを高く維持し、より良いパフォーマンスを発揮するには、どういった要素が相関関係にあるのかを考えました。つまり、現状はどこに阻害要因が存在していて、それはNFのどういった構造や特徴によって引き起こされているのか、その点についてのインサイトを整理しています。

◾︎NF職員のモチベーションは他団体と比較にならないレベル
◾︎個人の頑張りや業務の成果が、どのように組織の成長、ひいては競技の成長・拡大につながっているのか、NFでは特に分かりづらい
◾︎ガバナンスや戦略、人材管理など、NFの経営はまだまだ未成熟

  前提として、NF職員はスポーツへの恩義や貢献意欲を持った人々の集まりであり、そのモチベーションの源泉は一般事業会社とは比較にならないほど高いレベルにあります。これが上手く成果に結実していないという事実は由々しき事態です。大きな要因の一つとして考えられるのは、事業特性に紐づく側面にあります。売上や業績を指標とするビジネスと異なり、成果指標を置きづらいことが特徴です。
 また、極めて高い社会公共性を有するNF事業は、どこもこの問題に直面しているのではと思います。また、昨今はスポーツ団体のガバナンスコードの発行や徹底など、改善に向けた動きも起きていますが、ボランタリーベースの運営に依存している団体も多く、成熟度は道半ばです。

②NF職員の「当たり前」やNF職員が所属組織に求めるものに関するインサイト
現状分析を前提に、これらの問題がなぜ引き起こされているのか、何がNF職員の働きにおける阻害要因になっているのか、問題のリフレーミングのために行った分析(フレームワーク)が、ゼロベース化、および2x2における既存構造の整理です。

ゼロベース化:NFの「当たり前」

■変えられるはずなのに変わらない

ここで挙げた「当たり前」は、そのほとんどが本質的に不変なものではなく、組織の自助努力で変えられるはずだとのことでした。

次に、環境面の状況をさらに2x2のマトリクスで整理してみました。

2x2:NFに求めるもの

■お金・時間がかからないものが多いのに導入されない

求めている変化を見てみると、そのほとんどが短期的に実現可能かつ、投資を伴わないものです。個人の観点では、報酬よりも働く環境や透明性の方が求める優先度が高いといえます。

更に視点を変えて、縦軸を内発的/外発的動機、横軸をソフト的なカルチャー/ハード的な構造(制度やルール)で整理しました。

2x2:NFに求めるもの

◾︎内発的動機×構造と外発的×カルチャーが少ない

③NF職員へのインタビュー
こうした分析や仮説をもとに、実際に某NFで働く3名の方にヒアリングを行うというプロトタイピングを実施しました。
当初私たちは、よりいきいきと働けるための環境整備や働き方改革的な要素を大まかなソリューション(解決策)として想定していましたが、実際の声を聞くと、むしろもっと前提となる、「やっていることへの評価・感謝・共感」のほうが、更に重要な要素なのではないかという見解に至りました。

こうしたワークを通じて、改めて我々が働きがいを感じる瞬間、幸せを感じる瞬間は何かという、より根本の部分に立ち返って議論を進めた結果、「NF職員が日々取り組んでいる業務やプロセスの評価を、お金ではない他の何かに還元させることはできないか?」という考えに至りました。

その際に参考にしたのが、「幸せの4因子」です。

これは、慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生が提唱する幸せの考え方で、大きく4つの因子に分類されます。
参照:https://news.mynavi.jp/article/20200918-1313798/

これらの全てがNFだと希薄な状況がありますが、なかでも他者と双方向でインタラクティブに作用するものは「ありがとう」のみであることや双方向の波及によるwell-beingの期待効果があると考えました。
また、NFの実態として日々差し迫る業務や大会の影響でなかなか仕事を振り返ったり、評価したり、感謝したりという機会が極めて限定的であるという気づきもありました。そして、スポーツの持つ本来的な価値に立ち返り、この「ありがとう」という仕組みに着目することに致しました。

そうして導き出されたIPSが「『ありがとう』のサプライチェーンを構築することでNF職員のモチベーションアップを図るには」です。

3.今ある「ありがとう」の分析

IPSを導き出した後、はじめに、今ある「ありがとう」を分析することにしました。ここでは3つのワークを行い、各ワークで重要なインサイトが得られています。

①WCA(欲求連鎖分析):「ありがとう」のサプライチェーン

◾︎公共性の高い事業なので利他が多いが、実態として「ありがとう」を感じることが少ない

②CVCA(顧客価値連鎖分析):「ありがとう」のサプライチェーン

◾︎「ありがとう」には色々な形がある

③2x2:今ある「ありがとう」の洗い出し

◾︎スポーツ組織ならではの「ありがとう」が少ない
◾︎NFは他の業界よりもステークホルダーが多いのにも関わらず、「ありがとう」は主に職員同士
◾︎「ありがとう」にもTPOがあり、嬉しいかどうかは伝え方やタイミング、状況にもよる

4.「ありがとう」によってNF職員のwell-beingを高めるには

こうして「ありがとう」を分析する中で、well-beingを軸にお仕事や活動をされている、山根紀子さんへのインタビューの機会を作っていただき、改めてプロトタイピングを実施しました。

実際に「ありがとう」と幸せについて定義された論文では、

・感謝の気持ちを持つ人は、世界中で幸福度が高い
・一方で、感謝の介入については、欧米では幸福度を高めるが、集団主義文化(日本や中国など)では、それほど高まらなかった

など、「ありがとう」は国や文化によって意味も成果も違う等の発見をいただきました。

そしてここでは、2つの重要な発見がありました。

①ありがとうは「具体性」と「時限性」が大事
・「ありがとう」とひとことで伝えるより、「忙しいのに時間を作ってくれてありがとう」と具体的に伝えた方が嬉しい。
・お礼状を出す場合、すぐに出すか、数日後に時間が経って出すかによって感謝の受け取り度合いが違う。

②第三者を通じて伝えるのは究極の「ありがとう」

また、中間発表では、「ありがとう」を伝えることで職員のパフォーマンスとwell-beingが向上するということが論文でも証明されていることをフィードバックしてもらい、知ることができました。実際にサンキューカードや様々な「ありがとう」を伝える仕組みは既に存在しています。一方で、こうした仕組みが「なかなか続かない」という課題も見受けられます。

こうした実情も踏まえて考えていくと、

■「ありがとう」を伝えやすくするためのツールはあるが、自然な「ありがとう」を増やすための仕組みがない。
まずは、「ありがとう」を能動的に伝える仕組みが必要なのではないか?、という結論に至りました。
そこで、ライフサイクル分析を実施し、実際に各フェーズごとに必要な機能(ふるまい)は何か?について考えました。
こちらが実際に私たちが考えたライフサイクルです。

こうして各フェーズを並べてみると、
先ほどの「ありがとう」を伝える仕組みは、「①認識と理解のフェーズの機能」がうまく成り立っていないため、頓挫しやすいのでは?という仮説が生まれました。
そして、各フェーズに必要な機能(ふるまい)と併せて、2つのインサイトが見えてきました。

■「ありがとう」をどう言わせるかではなく、どういう環境であれば「ありがとう」と言える状況になるかが大事なのではないか?
・「ありがとう」を言わない環境下で、「ありがとう」を言い合う仕組みやツールを導入しても、文化として根付かない。まずは、お互いを知ることが重要。
■「ありがとう」は目的ではなく、職員のwell-beingを高めるための手段である

5.ソリューションの紹介

そうして、ここまでのワークやライフサイクル分析から、「ありがとう」を能動的に伝え、最終的に職員のwell-beingを高めるための仕組みづくりには4つのフェーズがあり、それぞれのフェーズにソリューションが必要なのでは?と考えました。

こちらが、私たちの考える5つのソリューションです。

ここからは、ソリューションを一つずつご紹介いたします!

①理解と認識のフェーズ:カラバリューカード
このフェーズでは、まずお互いの価値観を理解することやコミュニケーションを増やすことが重要です。
カラバリューカードは自身の価値観やチームメンバーの価値観を知ることができる対話ツールです。対話を通じて、チームメンバー内の相互理解を促します。

詳細:https://color-variation.com/value_card/value_card.html

②教育と訓練のフェーズ:サンキューキャンペーン
このフェーズでも、お互いの理解を深めるとともに、次は「ありがとう」を見える化して多方面に伝えていくことが必要です。
そうすることでNF職員が抱えている個人の頑張りや業務の成果が組織の成長にどのように繋がっているのか分からないという課題感に対して、アプローチできると考えています。

〜実施内容〜
■NFファミリーの参加型モザイクアート(活動全体像の見える化)
・NFに関わる全てのステークホルダーの写真を集めてモザイクアートを完成。
■NFファミリーのストーリー紹介(業務内容や人物の見える化)
・NFに関わるステークホルダーの業務内容や面白い逸話を紹介
■毎年3月9日にNFから全てのステークホルダーに感謝を伝える(多方面に伝える)

③加速と連鎖のフェーズ:ラブレター
ここからは実際にありがとうを加速・連鎖していくフェーズに入ります。
改めて、これまでのワークを振り返り、このフェーズで重要な視点となるインサイトを整理しました。

・スポーツ組織ならはの「ありがとう」が少ない
・第三者を通して伝える「ありがとう」は究極のありがとう
・「ありがとう」は具体性や時限性が大事

これらのインサイトから、このフェーズでのソリューションとして、ラブレターを提案します。

〜実施内容〜
ステップ1 レターボックスを各年代の試合会場やNF、学校などに設置し、手書きやビデオ、音声の「ラブレター」を年間を通して募集する

ステップ2 NF職員宛のラブレターはNFオフィス内に、選手宛のラブレターは更衣室内などに掲示し、想いが相手にしっかりと届くようにする

ステップ3 ありがとうのお返しとして選手からお礼のメッセージや動画が届く

この取り組みに関してはNF職員に負担がかからないよう、親和性の高い企業と提携をし、作業をできるだけ自動化したいと考えています。

④継続と応用のフェーズ:NF well-being指数

「世界幸福度ランキング」のNFバージョンです。
「ありがとう」が目的にならず、あくまでもwell-beingを高めるための手段であるということが重要なポイントです。

〜実施内容〜

■NFアンケートやNF well-being指数の集計
・ランキングだけではなく、各項目のwell-being指数および改善点も共有する
・毎年、結果を公開することによって、NF間の競争や成長を促進し、ガバナンスを強化する

well-beingを構成する5つの要素
P    Positive Emotion :ポジティブ感情
E Engagement:エンゲージメント
R Relationships:ポジティブな人間関係
M Meaning:意味・意義
A Achievement:達成
※日本ポジティブ心理学協会の資料より

■well-beingアワードの発表
・すでに朝日新聞主催のwell-beingアワードはあるので、それのNF版というイメージ
・優勝したNFにはwell-being補助金を提供

全フェーズ:ありがとう研修
全てのフェーズにおいて通じるものが「ありがとう」について、学び続けるということです。
表現方法やタイミング、効果について学ぶことが必要です。その他にも、どうしたら文化として根付くのかなどを常に考えていくことが重要です。

〜実施内容〜
■外部講師をお呼びして、全職員や管理職などの対象者に合わせた研修を行う
■特別なことではなく、日常で導入することで習慣化へ繋げる
例:定例前のアイスブレイクでよかったことやありがとうを伝える機会を設けるなど
■ありがとうの見える化
例:「感染予防対策にご協力いただきありがとうございます」などの掲示

以上の5つのソリューションを通して、「ありがとう」のサプライチェーンが構築され、「ありがとう」の文化が根付き、ひいてはNF職員のwell-beingの向上に繋がるのではないかという結論になりました。

6.終わりに

社会公共性を極めて高く有するNF事業で働く職員にスポットを当てたことで、「ありがとう」というテーマで深掘りすることができました。その結果、ソリューションを導き出すことができました。今回は、NFに特化したワークでしたが、NFだけではなく、日本のスポーツ界、ひいては全ての業界にも導入できるような汎用性の高いソリューションになったのではないかと思います。
私たちの考えたソリューションをどこまで実現できるかはまだ分かりませんが、今後は、プロトタイピングして本格的な実現に向けて、検証をしていこうと思います。
私たちのチームには、NFで働く当事者もいますので、はじめの一歩としてカラバリューカードでお互いの価値観を理解するところから始めてみようと思います。
最後になりましたが、今回SXLPに参加して素晴らしい仲間と出会えたことは大きな財産となりました。
共通言語であるシステムデザイン思考を学び、活用していく中では、うまく進むことばかりではありませんでした。それでも、それぞれの強みを発揮したこのチームで最後まで取り組めたことが何よりも誇りです。
改めてチームメンバー、運営スタッフの皆様、講師の皆様に感謝申し上げます!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?