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「レビューとその反映」に関しての考察

「初稿が真っ赤になって戻ってくる」のは著者・編集者の手抜きでしかありませんが、どんなに完璧な原稿にもレビュー(校正指示)はつきものです。

著者、編集者、DTP…と異なる立場で仕事している自分が見ている2022年後半の「校正指示とその反映」に関してまとめてみました。

用語の定義

現場によって異なるかもしれませんが、次は同じような意味合いです。

  • レビュー

  • 校正指示

  • 赤字

  • コメント(Acrobat):過去には「注釈」

内容によっては「“修正”でなく“変更”だよね」という議論もありますが、ここではスルーします。

現時点で可能なレビュー方法

現時点で考えるレビュー方法としては、次のようなものが挙げれます。

  • PDFに校正指示を書き込み、そのPDF(またはFDF)をファイルとして戻す

  • プリントアウトした校正紙に赤字を書き込み、スキャンしたファイルを送る
    “さしかえテキスト”などは別途

  • PDFのオンライン校正(ブラウザー上でコメントを記入)

  • Dropboxでオンライン校正(ブラウザー上でコメントを記入)

  • Google スプレッドシートなどで校正指示と進捗を一元管理


アドビが推している「レビュー用に共有」

アドビが最近推しているのが「レビュー用に共有(Share for Review)」。
2021年にInDesign、2022年にはIllustrator、Photoshopで可能になっています。

フローは次のとおり。

  1. アプリケーション(Ai、Ps、Id)からレビュー用のURLを発行し、レビュワーに伝える

  2. レビュワーは受け取ったURLをブラウザーで開き、レビューを行う

  3. 各アプリケーションの[コメント]パネルにレビューが表示され、該当箇所にスピーディに移動できるので、ドキュメントに反映する

「レビュー用に共有」のざっくりしたワークフロー
各アプリケーションの[コメント]パネルにレビューが表示され、
該当箇所にスピーディに移動できる

よさげなソリューションですが、現時点では次のような懸念事項が残ります。

  • 差し替えの原稿/画像や、こういうイメージなんだけど…の画像を添付できない

  • 指示箇所がズレる(ことがある)

  • 進捗ごとに別ファイルにしているフローでは、“(ファイルの)バージョンまたぎ”ができない
    (当然ながら、レビューはファイルに依存します)

なお、「レビュー用に共有」は、Acrobatの共有レビュー機能が発展したものと言えます。

https://helpx.adobe.com/jp/acrobat/how-to/beginners-review.html から引用

ちなみに、レビューに関してのアドビの認識は(広告だからからもしれませんが)こんなレベルかも…


レビュー方法選択のポイント

複数人のレビューを同時に見られるか?

個別にレビューを行っている場合、レビューがダブったり、相違が生じる

レビューしやすいか? 

  • Acrobatへのコメント(注釈)の場合、記入が絶望的に面倒

  • 人(会社)によってコメントの入れ方が独自で困ることがある

  • アプリとブラウザ版で校正指示のツール(種類、UI)が異なるので標準化が難しい

その他

修正指示の伝え方について後述します。


レビュー指示とその反映を同時に行う「スクリーンキャスト」

「著者、編集者、DTP担当がZoomに入って作業画面を見ながら修正指示とその反映を進める」ということをよく行っています。

テキストだけでは意図を汲みにくい指示を反映結果を確認しながら進められるため、次のようなメリットを感じています。

  • どういう意図だろう?と悩む時間が減る

  • 意図をくみとれない場合にも、その場でわかるので差し戻しが減る

  • ページネーションの変更などを実際に行ってみて「入らない、余る」を確認できるため、やりとりが減る

さらに次のような効果もあります。

  • 「だったら、こうしてみるとか?」を反映して、その場でジャッジできる

  • 明確な指示まではいかないが、なんか残る違和感を共有しやすい

樋口さんからもコメントいただきました。

Figmaの共同作業

2022年9月、アドビがFigmaを買収したことが話題になりました。Figmaの強みは「共同編集」。

Google スプレッドシートをはじめ、オンラインツールでは“当たり前”のこととして定着している共同編集ですが、IllustratorやInDesignなどのアドビのツールではなかなか実現できていない分野(XDは一応対応)。

Figmaの「共同編集」は、機能としてというより、次のような点がブレイクスルーでした。

  • 「ファイルをやりとりする」という概念がなくなった( → ストレスフリー)

  • 同時に編集できることは仕事の進め方・考え方を変える

前述したアドビの「レビュー用に共有」ではブラウザ越しにコメントを書き込むわけですが、レビュワーがIllustratorやInDesignの編集画面に入って、その上でコメントしたり、または直接編集できるなら、さらに話は早いですよね。

IllustratorやInDesignでファイルという概念を捨てられるのか??

IllustratorとPhotoshopは次のようなメリットを得られるとして、クラウドドキュメントとして保存することを執拗に薦めてきます。

  • バージョン管理:セーブポイントを設けて、いつでも戻れる

  • 共有:アプリ間、デバイス間でデータをやりとりできる

「IllustratorやInDesignのファイルが開けなくなって困った」というトラウマを持っている方の多くは、別名保存しながらファイル単位でのバージョン管理を行っているでしょう(別ファイルとして存在していれば、最悪、そこには戻れる)。

Creative Cloudになって10年経ちますが、CCライブラリから突然アイテムが消えてしまうなど、アドビのクラウドに仕事のファイルを預けるのはリスクが高すぎます(iCloudをはじめ、アップルのサーバーソリューションも信用できませんよね…)。


レビュー指示のお作法の新常識

校正指示の反映側からの意見はなかなか出てきませんが、レビュー指示は、その指示を反映する人ありきで考えるのが望ましいと考えます。

  • レビューの意図をくみ取れない(or 読み間違え)

  • 操作ミス(テキスト入力、コピー時、ペースト時)

  • 指示箇所の探し方(検索)

つまり、指示を反映する過程でのミスをいかに減らすか、スムーズ、スピーディに反映できるかがポイント。


[A]表記統一

たとえば、書籍全体で「持つ」を「もつ」に表記統一する方針になった場合、次のように該当箇所を指示するのは望ましくないと考えています。

ここでは5つですが、書籍全体だと、これが70個くらい並んだりする

《避けるべき理由》

  • 修正箇所が多く見えると気が重くなってしまう

  • 指示モレは(必ず)ある
    → 指示されていない箇所も直すのか、関係性によって判断に躊躇する

  • 検索しながら置換していくため、指示の消し込みが逆に面倒

《理想の指示》

次のように一回だけ指示いただければ、全部チェックしながら反映します。

《注意点》
得てして配置しているIllustratorドキュメント内にも統一すべき表記が存在しています。そのため、InDesign内だけでなく、PDFに書き出してから検索するのが不可欠。

その際、Illustratorドキュメント内のテキストをアウトライン化してしまっていると検索の対象になりませんので、「すべてのテキストをアウトライン化するのは悪手」と言えます。

《懸念事項》

「全体を1つの指示で」の場合、どこを直したのかがわからないという問題が生じますが、InDesignの「変更をトラック」を活用することで解決できそうです。

《備考》


[B]細かいテキスト変更

次のような指示が一般的ですが、反映する人のミスを誘発しやすいため、避けるべきだと考えます。

39ページの「P型・D型の方への配慮」を「P型色覚・D型色覚への対応」に変更してください。

《避けるべき理由》

  • 利用すべきテキストがどこかわかりにくく、テキストのコピー操作でミスる可能性が残る

  • この場合だと「色覚を入れればいいんだ!」と判断して文字入力してしまう人が漢字変換などでミスる可能性が残る


次のようにすると一目瞭然ですが、カギ括弧のコピーでミスる可能性が残ります。

39ページの「P型・D型の方への配慮」
→ 「P型色覚・D型色覚への対応」
に変更してください。

次のように記述すれば、最終行を選択しやすく、ミスる可能性が減ります。

39ページ
「P型・D型の方への配慮」を次に変更
 ↓ ↓ ↓
P型色覚・D型色覚への対応

トリプルクリックで行(段落)を選択できます。

さらに、次のように指示すれば、テキストの挿入箇所でミスる可能性が減ります

39ページ
最後の段落を次のように差し替え
 ↓ ↓ ↓
本書でも主にP型色覚・D型色覚への対応を中心に紹介します。

「いやいや、そこは注意深く、慎重に反映しようよ!」という意見もあると思いますが、「がんばります」は解決策にはなりません。
ミスは起こるべくして起こるので、それをつぶしていく意識が不可欠です。

オペレーターをロボットにしない

現場によっては「オペレーターは、指示されたことだけをやる」体制になっていることも多くあります。

  • 「その修正指示、ほかで指示モレがありますよ」

  • 「その修正指示の方針から察すると、こっちも変更した方がよいのでは?」

  • 読者目線で「ここの意味がわからない」「やってみたけど、できない」

などなど、気づいていても言い出せない人は少なくないんです。

最終的なねらいはよい本(制作物)を作ること。立場とか上下関係などにとらわれず、フラットなチームを作るのが理想です。

まとめ

「レビューとその反映」の方法に選択肢が増えています。
これを機に、改めて各現場での最適化について検討してみましょう。

  • アドビは「レビュー用に共有」推し。Illustrator、Photoshop、InDesignをお使いであれば、現時点のベストプラクテイスかも。

  • Figma買収を機に、同時編集が進む?

  • 反映作業がラクになるように、また、反映作業でのミスを減らすような校正指示を考えたい

レビューは限られた人だけでなく、1人でも多くの方に関わっていただけるほどに精度が上がります。
また、レビュワー同士のやりとりを共有するのは欠かせない視点です。

ご参考

2020年に書いた文字校正・編集のポイントの記事です。




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