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いきるということ。

人が、死んだ。
つい数日前までは生きていたんだ。
3つ先にあるクラスの、同じ歳の子。交通事故だったそう。
ここには、いなくなってしまった。
あまりに呆気なかった。

私はあの子のことをよくしらないけれど、涙が止まらなくなった。
だってこんなにも人があたたかいから。
冷たくなってしまったあの子を、周りがこんなにもあたたかく想って泣くから。
きっとその涙には簡単に消えてしまう命に対しての・事故を起こした人間への憎らしさも、一緒に過ごした中で勝ち取った記憶を思い還す気持ちもあったのだと思う。

「人は、死ぬんだ。」
降っている雨はさっき見た涙みたいに優しく窓を伝っていて、どうかこの雨が心の中のドロドロとした何かを洗い流してくれればいいのにと思った。

「人の命は脆くて儚い。」
そんな言葉を、誰もが生きている上で何度も聞いてきたと思う。でも、やっとその言葉の意味が分かった気がした。あの頃死のうとしていた私は命の重さを知らなかった。贅沢だった。

「そして、尊いのだとあの人は言う。」
「今ある時間を大切にして生きていこうね。」と震えてしまう声を振り絞る先生。
「彼女が私たちと一緒に歩くことはもうできない。だけど私たちが彼女を想って歩き続けることはできる。」と慰めてくれる大人。ずっと生きてきたから出せる優しい言葉だった。
彼女のことは知らないけれど、もらい泣きをして流れているわけではない私の涙は、きっと誰の命でもない私の命があるから流れてしまうのだろう。
グズグズになった鼻をかむためにトイレに駆け込んだ。隣の、その隣の個室には鼻をすすり泣いている、生きている命があった。私たちしかいないその場所で、ふたりぶんの呼吸が響いた。
「あぁ、生きているんだ。」

音が聞こえる。声を出せる。人と笑い合える。季節が変わったと感じることができる。怪我をすれば赤色が流れる。人が死んだと知ることがある。
それもこれも、ぜんぶいきているから。


拝啓、Aさん。
どうかあなたを想う存在が、あなたの想っている存在が、今はまだ悲しくっても、いつかのあなたとの優しくて愛しい記憶に包まれますように。
あなたには、こんなにも優しい涙を零す人がいます。だからどうか、思い出すのは互いに笑顔でありますように。
明日もみんなの中であなたが生きていますように。

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