特例法の全面廃止は、「陰茎ある法的女性の阻止」にはマイナス
1 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成15年法律第111号)を廃止すれば、トランスジェンダーも性同一性障害も、戸籍上の性別は変わらなくなると思われている方がいる模様です。
しかしそれは間違いなんです。その理由、特例法の制定過程と最高裁の違憲立法審査権の怖さについて、以下で説明します。
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① 戸籍法113条「戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。」という規定があります。
② 2003年特例法の成立前、この規定により、性分化疾患以外の場合でも、家裁の許可で性別が変更できた先例が幾つかあるんです。2018.7.14のシンポジウムで三橋順子氏が話したレジュメでも報告されています。(LGBTをめぐる法と社会 谷口洋幸編 2019/7日本加除出版)男→女への「戸籍訂正」が、性同一障害の人につき、認めた家裁先例があるのです。
③ しかし、2000年2月9日、東京高裁がこれを認めず判例となりました(判例時報1718号62頁、判例タイムズ1057号1255頁)。
そのために、法律制定での解決を図れ、という声が強くなり、2003年特例法ができたんです。それも全会派一致でです。
④ そして、2023.10.25、最高裁は特例法の生殖能力喪失要件について違憲と判断してしまった。憲法上の相応の権利として性自認を認めてもらう権利があるとしても、この形での権利として認めるのが最高裁の状況なのです。
3 ですから、特例法を単純に廃止した場合には、2000年東京高裁の段階に戻るのではなく、それ以前の家裁段階で戸籍法113条による「戸籍の訂正」を許可したところに戻るんです。この適用または準用にて、戸籍を変えてしまうのです。家裁が仮に認めなければ、高裁そして最高裁は、変更を認めなければ憲法違反になるとして認めるんです。
それどころか、上記違憲決定までもでているのだから、家裁は、外観要件の具備さえもまともに求めずに戸籍の訂正として性別変更を認めてしまう可能性が高いものです。静岡家裁浜松支部は最高裁決定が出る前の2023.10.11に女性から男性への例ですが、違憲と判断し変更を認めました。それと同じことが、戸籍法113条解釈の場面において起きるのです。
4 以上から、特例法を廃止すれば、戸籍上の性別を変わる道がなくなると考えるのは間違いなんです。
特例法を廃止すれば良い筈だという考えは、法を知る国会議員の誰も相手をしないでしょうし、法制局もそれは無理と当然言うでしょう。議員は「そのお気持ちはわかりました、何とかしたいと思います」とかは言うでしょうけれども。
以上のことは、杉島幸生弁護士も同意見だとされました(2023.3.21のXポスト)。氏は、こちらの性自認主義の問題の所在が分かりやすい図を作り説明した弁護士です。
弁護士 滝本太郎
⭕️当会の考え
上記については、何卒よくご理解いただきたく思います。
特例法を全面的に廃止してしまうと、性自認主義に染まっている裁判所が、いわば自由裁量できるような状態になってしまい、より危うい状況になってしまうのではないでしょうか。※特例法2条による「性同一性障害者」の定義は、WHOなどで障害ではないとされてその概念が緩められてしまっている今日、むしろ貴重ではないでしょうか。戸籍訂正の手続きは、国などが相手方にはならない手続きですから、申立人に反論する相手がいないことになり、容易に通ってしまいます。
生得的性別は変えられないのに法的性別を変えられるのは不合理だ、という考えがあるとしても、当会は「陰茎ある法的女性」は何とか止めないと、という点で一致し、それにより「女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会」も作られ、力のある動きができています。これを最大公約数として拡げていくことが、今は最も大切ではないでしょうか。どうぞよろしくお願い申し上げます。
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