ざっくりとした「対面イベントでの観る将的心構え」
そろそろ「対面イベント」(これがレトロニムか…!)が再開され始めましたね。
1年半ほどオンラインイベントが中心になっている間に、主に藤井聡太七段が三冠まで駆け上がった影響で「観る将」が増えてすっごくうれしいです。
対面イベント再開ということは、オンラインの二次元の世界で将棋を楽しんでいた方々が三次元、3Dに飛び出すということですね!
そうなると、ちっちゃい画面に映っていた手のひらサイズの棋士が目の前にどどーんと現れます。
3Dの豊島竜王も、3Dの藤井三冠も、もちろん3Dの羽生九段も、想像以上にでっかいです。そして立体的です。人間です。
思わぬ事態に慌ててしまったがゆえに、マナーを知らなかったために、本意ではない迷惑行為をやっちまわないような注意書きをしたためたく思います。
(本意の迷惑行為はおしりぺんぺんである!)
はじめに
観る将歴25年の(うちに観ることが仕事になってしまった)私が個人的にまとめたものですので、日本将棋連盟・日本女子プロ将棋協会やイベント主催者の公式見解ではありません。
イベント会場現地で注意事項があれば、そちらを優先してください。
世の中には「禁止と言われていなければOK」「許可された行為以外はNG」というふたつの考え方がありますが、不特定多数のお客様がいる将棋イベントでは「許可された行為以外はNG」と思ってふるまったほうが、トラブルになりにくいです。
でもね。
「あれもだめ、これもだめ、気が狂いそう」とご自身を追い込まず、気軽にイベントに参加していただきたいです!
主催者も出演者も来場者も一緒に協力して、気持ちのいいイベントを作り上げましょう!
入り待ち、出待ちはしない
コンビニの前にたむろしてはいけないのと同様に、大勢の人が1ヶ所に留まるのはよくないですし、ご自身がその「大勢」の1人目にならないようにしていただきたいです。
他の方が入り待ち、出待ちをしていても、これ以上群衆を大きくしないために立ち去るようにしてほしいです。
せっかく将棋イベントにご協力いただいている会場や主催者にご迷惑になります。
そして対局前日・当日の棋士は想像以上にピリピリしています。対局前の棋士に心理的な負担をかけないように、そーっとしておきましょう。
実世界の将棋ファン友達が増えると、出待ちのつもりはなくても友達同士で会場入り口近辺で話し込んでしまうことがあります。これらもたむろする行為には違いありませんので、できるだけ速やかに会場から離れるようにしましょう。
棋士は突然、そのへんに現れる
東西の将棋会館は関係者専用の出入口がなく(あるけどバレバレで)、一般のお客さんと同じ出入口を利用します。
イベント会場でも出番までに控室に行けばいいので、例えば会場の店舗がオープンしてからお客さんと一緒に入店して、お客さん用の受付で「今日出演する棋士のイデグチ(仮名)です」と名乗って受付を焦らせることも多々あります。
棋士のイデグチ先生(仮名)にマネージャーはいません。SPもつきません。ひとりでふらっと現れます。あるいは仲良しの棋士フジハル先生(仮名)と一緒に来るかもしれません。
あなたの推し棋士のイデグチ先生(仮名)と一緒のエレベーターに乗ることもありえますので、動揺しないようにしましょう。
私は井手口選手(当時ルーキー)が試合当日のファンクラブブースで暇そうに座っているのに気づかず、店員さんと間違えて「公式マガジンを1冊ください」と言って500円玉を渡したことがあります。なんでそこにいるんだよ~。
公道、一般客の通り道には並ばない
将棋大会やイベントでよく誤解を招いているのが「x時受付、y時開会」の記述です。
これは「x時から受付を始めるよ! y時からイベントが始まるから、y時までに来てね!」という意味です。
つまり「x時までは来ないでね!」と言っています。
たまに「x時までに受付を済ませなくてはならない」と勘違いされてx時の1時間前、30分前に行かれる方がいらっしゃいます。開いていません。
またイベントで自由席のときにいい席に座りたいからと、意図的に受付開始時刻の数時間前から並ぶ方がいらっしゃいますが、特に公道に並ぶのは迷惑行為です。
迷惑を承知で並ぶ方がいる限りは性善説を取る方が最前列を取れないことになってしまうのですが、最近では前方をプレミアム席にしたり、整理券を配布して行列ができないようにしたりと工夫されてきていますので、無理に並ぶ必要もなくなってきています。
公道でなくとも将棋イベント目当てじゃない方が通行する場所では、列整理のスタッフがいなくても壁側に寄るなど、一般の方が通りやすいように心がけましょう。
受付や販売にいる棋士と話し込まない
2013年に初めて西遊棋のイベントが行われたあたりから、棋士がスタッフとして受付事務や販売ブース担当を行うことが増えてきました。
棋士と直接会話ができるチャンスですが、受付でひとりが話し込んだらどうなるでしょうか。
後ろが詰まりますよね。
販売も同様です。
業務の迷惑にならない範囲で話しかけましょう。
会話中も、次のお客さんが待っていないか周囲の状況を確認しながら会話を楽しみましょう。
動画撮影はしない。写真撮影は自席に座ったまま
動画撮影はOKというアナウンスがない限りは禁止です。言うまでもなく生配信(音声、動画)も禁止です。
写真撮影は立ち上がらず、自分の席に座ったままで行いましょう。
撮れないときは撮らない。諦める。
前方のお客さんの頭が写り込むからと腕を上に伸ばして連写する行為は、後ろのお客さんが見えづらく、撮りづらくなります。スマホでも邪魔です。
やめときましょうと言いたいところですが、どうしても撮りたいなら一発で仕留めてください。一発なら3秒で終わります。
一発で仕留めるために、開演前にシミュレーションやテスト撮影をして、アングルや設定を確認しておくのがお勧めです。
時折「シャッターチャンスですので、来場者の皆様も前方に出ていただいて撮影してください」という神のような瞬間が訪れることがありますが、そのときも、目安としては報道陣より前には出ないようにしましょう。(横並びも非推奨)
単純に報道陣の邪魔になるというのもありますし(ぶっちゃけると、たまにびっくりするくらい邪魔な人がいる)、そもそも報道陣だってプロなんだから、それより前に出てもいい写真が撮れないからそこにいるんですよ。
それに報道陣同士が邪魔にならないように配慮しているってものもあります。
そして大きなイベントでは公式がちゃんといい写真を撮るから、信頼してそっちに任せてください。見るほうに集中して。
出番以外はプライベートと心得る
イベントに出演している棋士の写真撮影は自由なことが多いです。たいていの場合、SNSへの投稿も自由です。
ただしそれは、出演中のことです。
例えばステージ上だったり、指導対局中だったりです。
棋士のイデグチ先生(仮名)は、出番が終わっても、指導対局が終わっても、そのへんをぷらぷらしています。もしかしたらフジハル先生(仮名)はさっさと控室に戻るかもしれませんが、割とぷらぷらしています。だってあの人たち、将棋が大好きだから。
そういうときはプライベートだと心得ましょう。
もしあなたが、プライベートの棋士にばったり会ったらどうしますか。
棋士だとイメージが難しいならば、キンプリの岸くんでいいよ。(←鉄腕DASHに出てる人しかわからない)
岸くんが自宅の近所を歩いていたら、いきなり写真撮りますか。撮らないですよね。「写真撮ってもいいでしょうか」って聞きますよね。あるいは黙って見守りますよね。それです。
ツーショット写真はサイン会、指導対局のついでならギリギリセーフ、が私の認識です。
そして、プライベートでの会話はSNSに書かないですよね。
録音したんかい!というくらい詳細に連続投稿しているのを見かけますが、プライベートの会話を許可なく書くのはご自身の信用が損なわれますので気をつけましょう。
サインはサイン会で依頼する
棋士へのサイン依頼は、禁止されていることが多いです。
有料で色紙を販売していたり、有料イベントとしてサイン会が開催されているからです。
正規のサイン会で、正規料金を支払ってお願いしましょう。
Tシャツとか帽子とか、小さいお子さんなら微笑ましくてOKしてくれることが多いと思うけど、Tシャツ販売のイベント以外は避けたほうがいいでしょう。
意外と多いのが、色紙を用意して書くものがないパターンです。本格的な書道セットをそんな場所で出すと余計迷惑ですが、筆ペンや油性ペンを用意しておきたいですね。ボールペンしかないときは諦めましょう。
あと私は自分の教室の生徒さんには「100均の色紙は棋士に失礼」って言ってたのですが、そう思わない棋士も多いみたいです。
ただ失礼とは思わなくても100均の色紙ってバレてはいるので、100均の色紙ってバレたら恥ずかしい人は避けることをお勧めします。
棋士の中には「いつも使っている色紙や筆じゃないとうまく書けない」とか「書くのに時間がかかる」とかで人前でのサインをしない方針の方もいらっしゃいます。
また出番が近いなど、さまざまな事情があります。
お断りされたら食い下がらずに撤退しましょう。
また皆さんが何かしらイベントを主催する側になって棋士をゲストに招き、賞品で色紙を出したいときは、イベントの出演料とは別にサイン代を支払います。お値段は要相談。
指導対局は黙って見る
「指導対局は棋士とのデート」と表現した人がいるとかいないとか。
指導対局は、お金を払った棋士と将棋を指し、対局中や感想戦などでアドバイスをもらう「指導」、もしくは「公開レッスン」です。
レッスンなので受講者がいて、指導者がいます。
指導者でもなく、受講者でもない方は静かに見守りましょう。
たまーに、初心者の方の対局に「こう指したらいいよ」ってアドバイスをする人がいるんですが(受講者が初めから友達に手助けを求めている場合を除いて)、あれは迷惑。
指導者の方に指導を受けるのが指導対局であって、通りすがりの素人に教わるために金を払っているのではない。素人はだまっとれ、ってやつです。
SNSに載せる写真に配慮する
小難しいことを小見出しにしましたが、単純なことで。
と、載せる前にちょこっとご確認いただきたいです。
変顔を面白がって載せる人はおしりぺんぺんです。
一般の方のお顔にはモザイクを入れましょう。
(私自身はお声がけいただければ顔出しOKですが)
報道陣の名札にお名前が思い切り書かれていることもあります。それは「怪しい者ではない」と言いたいだけで積極的に名乗りにいっているわけではないので、そちらもぼかすのが大人のたしなみです。
あとイベント会場だと手に持っている名刺の電話番号とかも気をつけたいですね。
公式でも控室のWi-Fiのパスワードとか、関係者の食事会場の名前や時間とか、張り出されているものがそのまま写っていることがあるんですよね。あれ、大丈夫なんでしょうか。
写真は転載しない
人物が写った写真には、撮影者の著作権と、被写体の肖像権があります。
どちらも尊重していきましょう。
公式の中継ブログの写真をSNSの自分の投稿に載せたり、文字を入れてポスター化して遊んだりしているの、あれあかんのですよ。やめましょ。
写真を紹介したいときはURLと「ここの○枚目」という言及で紹介する。
転載1人目のあなたは元データがどこにあるかわかっていると思いますが、2人目3人目になっちゃうともう、撮影者が嫌がっていてもフリー素材化しちゃうんです。
(私だって、あの写真とかあの写真とかあの写真とか…もー!)
転載されたものをRT、引用RTしたものも転載に加担していると言えます。
撮影者が「転載はご自由にどうぞ」と書いていたとしても、被写体の肖像権があることをお忘れなく。
そして撮影したご本人の自衛策としては、写真の画像そのものに署名を重ねてしまうことをお勧めします。
私はガンバの某選手に、わざわざ署名部分をトリミングした写真(その選手が写っている)を転載されましたけどね……。
正直なところ棋士以上に光栄だけど、そんなことするかとびっくり。
マナー違反を見かけたら
イベント現地やSNSでマナー違反を見かけた場合、正義感がふつふつと湧き上がってなんとかしたいと思うことがあるでしょう。
しかし直接注意すると、禁止行為だとわかっていても「注意された」事実に怒る人はいます。
横断歩道で赤信号を無視した直後に「赤信号で渡るな!」と言われたら、平静でいられるでしょうか。
わかってたけど今は急いでいたので、とか。
確かに私が悪いことをしたけど、そんな言い方しなくてもいいやんか、とか。
頭に血が上って余計にけんかになることだってあります。初めはささいな注意でも、殺人事件になっちゃうこともありますよね。
もし、親しいお友達であれば、傷つけない言い方で注意できると思います。
イベント会場であれば運営の方に報告して、注意してもらうのがいいでしょう。お客さん同士でトラブルになれば、注意した側も迷惑行為の発信者になってしまいます。
また会場がホテルなんかだと、マナー違反をしている人が宿泊客という場合もあって、運営側も粗末な扱いはできません。ゆっくりお話ししてご理解いただく、という対応になるでしょう。
それは素人である我々にはできない芸当なので、ますますおまかせしたほうがいいですね。
SNSで目撃してしまった場合は、まずRTしない。引用RTで「これはだめでしょ」と書くのも拡散に協力してしまっています。
どうしてもマナー違反だと指摘したければ、一般論として(直接攻撃しない形で)「こういうことはしたらいけないよねー」と書く。
あるいは、この記事を「これ、いいこと書いているよね!」と拡散するのもいいよね!(ここぞとばかりにごり押し)
あと、一般論を押し付けるのは感情を逆撫でしてしまうこともあると思いますが、「私は嫌だ」「私はやめてほしい」という意思表示は可能です。
発言の責任の重さも増す分、真剣さは伝わるでしょう。
そして犯罪行為(盗撮とか)や差別発言は遠慮なく通報ですね。これはマナーじゃなくて人権の話になってくるので。
帰りに買い物をしよう
観る将イベントは将棋界が自主的に企画して開催されるものと、業界外の販促イベントとして開催されるものがあります。
昔から行われているものに百貨店、デパートの「将棋まつり」があります。
観る将という言葉がなかった時代、ご夫婦でデパートに出かけて奥さんが買い物、旦那は将棋、と別々に楽しめるように考えられたんだとか。
ところが結局は、無料の将棋まつりに単独で行って、昼食も持参して終わったらすぐ帰る人が多く、主催者にとってはただの採算性の悪いイベントになってしまいました。
そうして少しずつ、将棋まつりは終了していったのです。
(それだけが理由じゃないと思いますけどね)
いま将棋イベントで露骨に「買い物をして帰って」「あとでオンラインショップを見て」と棋士が呼びかけるのは、そういう悲しい歴史的経緯があるからです。
宝石や着物を買おうと言ってるのではありません。
会場のカフェで昼食を取るとか、前々から探していたまな板を買うとか、通販の冷凍食品を将棋界のスポンサー企業のものにするとか、御中元はこないだ将棋イベントで行ったあのお店で買おうとか、ほっといてもそのうち買うつもりやってん、というのをこの機会に買ってしまうだけでいいんです。
私の場合、かつては近鉄将棋まつり(近鉄百貨店)のついでにスーツを新調するのが恒例行事でした。
プロ棋戦の主催者は主に新聞社なので、新聞購読も広い意味でお買い物です。
強迫観念は持たずに、ほんのちょっとだけ心の隅に置いといてください。
まとめ
いろいろ書きましたが、要点をまとめます。
・棋士は人間である。
・人間に迷惑になる行為はしない。
・自分がされて嫌なことは人にしない。
・自分だけは特別に許されると思わない。
・法律を守る。
・スポンサーと主催者に感謝。
です。
「こういうときはどうしたらいいの?」というご質問はコメント欄か、Twitterの質問箱で承ります。
ご感想もお待ちしております。
この記事は全部無料で読めますが、いい記事だなぁと思ってくださった方の課金もお待ちしております。
ここから先は
¥ 100
いただいたサポートは、教室・道場探訪の交通費として活用させていただきます。皆さんのサポートで、より多くの教室を紹介させてください!