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課題(5)最後の晩餐

ライター養成講座の課題

(ここは毎回同じ文章載せます)
こちらは2008年に半年間受講していたライター養成講座の提出課題です。
講座で提出したまま15年近く眠ったままなので掲載します。
現在とは社会情勢、私自身の価値観などだいぶ異なることを前提にお読みください。
内容的に許可が必要なもの、私自身が読まれたら恥ずかしいもの以外は掲載予定です。

本文

(タイトルなし)

 私は中学校に入学したときから将棋を指している。その延長で今は将棋のライターをしており、過去を振り返るとどうしても将棋がひっついてくる。
 大学2年の春。☆大学将棋部で団体戦のレギュラーになった。私の実力ではない。強い先輩が卒業して、人数不足に陥ったからだ。
 団体戦は7人制で、春秋2回行われる。☆大学はそれまで数年間、関西地区最上級のA級に属していた。A級の平均棋力は三~四段。当時の私は2級で、これは四段と指すなら飛車と角を落としてもらっていい勝負の実力なのだ。2級がレギュラーになる時点で勝てるわけがない。
 そもそも他大学でも女性レギュラーの例はなかった。それだけ体力的にもハードということ(1日終えると体重が2kg減った)。下馬評通り、チームも私も連敗街道を走った。
 最終戦、☆大学と全敗同士で対戦した。団体戦は同時に7局指し、4勝したほうが勝ち。この最終戦に勝てば入れ替え戦に残留の望みを託すことができる。負ければ降級だ。私は藁にもすがる思いで、リポビタンDを飲みながら対局した。他大学のトップ選手がユンケルを飲んでいるのを見たからだ。
 続々と他の6局が終わり、私の対局が残った。二重三重に人が取り囲んでいる熱気で、今3-3でチームの勝敗は私の対局に懸かっていることに気づいた。…と同時に、絶望感に襲われた。私は早い段階で大きなミスをしてしまい、敗勢の将棋を延々と粘っていただけだったのだ。野球に例えると3回裏終了時で0-10。個人戦ならさっさと投了していただろう。(投了(とうりょう)…自分の負けを認めること。これをしないと将棋の対局は終わらない)
 1時間ほどで終わる時間設定のところ、2時間近く指し続けた。しかし、やがて私は投了した。
 全敗。
 降級。
 ひとりになってから、入れ替え戦のためにもう1本用意していたリポDを握りしめて泣き続けた。この日はショックで家に帰らなかった。
 それ以来、将棋大会に出るとリポDを必ず飲むようになった。
 団体戦は秋も不調でC級に落ちかけたがなんとか凌ぎ、翌春にB級からA級に復帰した。今度は全勝で貢献した私は、やはりリポDを飲んでいた。それも1局1本。注意書きに「1日1本」と書かれているのだが、団体戦という非日常の世界には通用しないと思うことにした。勝負所でリポDを一気飲みしたら、相手の男子が気合い負けしたこともあった。
 大学を卒業してからは勝負に執着しなくなった。それ以上に恥ずかしいので「大会でリポD」はやめたが、風邪をひいたときに必ず飲んでいる。何か不思議な力を発揮してくれるような気がするのだ。
 だから私の最後の晩餐はきっとリポDになる。だが、昏睡状態になってもリポDを飲んだら意識を取り戻してしまうかもしれない。それだと「最後」にはならないだろう。
 もう祖父母も父も亡くした私だが、いまだに「死」への実感が薄い。リポDを飲んだら何度でも復活してしまうのではないかと疑っているのだ。

(2008年8月13日)

2024年のひとこと

ここまで読んでくださった方はお気づきかと思うが、この講座を受けるにあたって「将棋ネタは使わない」という縛りを設けていた。
が、あっさりネタが尽きたらしい。これでも相当、お題に対して絞り出している模様。

もうリポDには頼らないようにしている。

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