ざっくりとした「ハンドブック活用法」
私の教室では、30分の講座のあとに生徒さんに10分間、「詰将棋ハンドブックシリーズ」を解いてもらっています。
1手詰ハンドブック(これだけ出版社が異なります)
3〜7手詰ハンドブック
これらはプロ棋士であり著名な詰将棋作家である浦野真彦八段が著したものですが、図面1つ1つを床に並べてちょこまか入れ替えて順番を悩み抜いたというエピソードからもわかるように、著者が大変なこだわりを持って作った本で、まぁ、よぉできています。
どうせ買うなら使いまくってコスパよく上達したいですよね。
今回は教室の生徒にやってもらっている、あるいは私が実践しているハンドブック活用法のご紹介です。
ルールを知っている方は(3)から、なんだか壁を破れなくてお悩みの方は(7)からご覧ください。
(1)ルールを覚える (レベル★)
1手詰は駒の動かし方を覚えたらまずチャレンジしたい詰将棋。
なんと1手詰ハンドブックには、他の詰将棋本にはほぼ載っていない、駒の動かし方をはじめとするルールが書かれています。
さすがにこども向け入門書ほど丁寧には書かれていませんが、おとなでもルールから始められる親切設計です。
こども向け入門書を手に取るのが恥ずかしい方にお勧めです。
(2)詰みの形を知る (レベル★)
最初から「解く」必要はありません。
解答のページを見て、詰みとは何か把握しましょう。
大雑把にいうと「詰んでいる」とは「王手やし、取れへんし、逃げられへん」ということです。
(合駒=あいごま、ってのもあるので気になる人はググってください)
答え(正解図、という図面が載っています)を見て、
王手やわー
取れへんわー
逃げられへんわー
詰んでるわー
と思えたらOKです。
3手詰以上でも、初めは答えを読むことをオススメします。
(3)詰将棋を解く(レベル★★)
詰みとは何ぞや、がわかったら詰将棋を解いてみましょう。
このときに、初めから全問正解しなくちゃと気負う必要はありません。
わからない詰将棋をずーっと見るのはしんどいですから、自分で目安の時間を決めて区切るといいでしょう。
例えば、3分わからなかったら答えを見るとか。
計るのが面倒なら「あーしんど」と思ったときが辞めどき、とか。
テレビのCM中だけがんばる、とか。
そのへんはご自身が続きそうな方法をお選びください。
諦めて答えを見るときに(2)でやった「確かに詰んでるわー」の作業をすると花マルです。
(4)休憩しながら最後まで解く (レベル★★)
(5)休憩せずに一気に解く (レベル★★★)
(4)(5)まとめて。
慣れてきたら、一気に解いてみましょう。
これも最初は「今日はぶっ続けで4問」(見開き2ページで4問掲載なので4の倍数を区切りにしましょう)とか、出来そうな範囲で構いません。
これを繰り返すと、そのうち、ぶっ続けで1冊丸々解けるようになります。
書き忘れていましたが、ハンドブックは1手詰が300問、他は200問載っています。
ぜひ、1冊ぶっ続けで解いてみてください。
(最初は2時間以上かかることもあるので、時間に余裕があるときにしてくださいね)
1冊ぶっ続けや40問、100問などを解くとき、タイムを計ってメモしておくと、自分の成長がわかります。
私の教室でも10分間のハンドブックタイムのあとは、解けた数を聞いています。
(聞いて記録するだけで、褒めたり怒ったりすることはないです)
私自身の経験では、2日連続で解くと、所要時間が前日の7割くらいになりました。
(6)目標タイムを設定して解く(レベル★★★)
(5)を繰り返すと、1冊10分で解けるようになります。
私の教室でも「1冊10分」が目標です。
ただ、初めてぶっ続けで解くときの苦しさは尋常ではないので、初めに「1冊10分」から逆算して「1分で20問(1手詰は30問)」を目標に、1日1分だけハンドブックに向かうのもいいと思います。
ちょっと休憩
ここまでがいわゆる「普通に詰将棋を解く」方法です。
大事なのは「これなら続きそう、と思える範囲で毎日ちょこちょこやってみる」ことです。
背伸びしない!
無理しない!
自分に甘く!!!!!
でも、毎日やる!
もう一度言います。
あまあま、ゆるゆるでいいので、毎日やってください。
あっ。毎日ってのが、本当に、どうしても無理なら、作戦は2つあります。
A. もっとゆるーいノルマにして毎日やる。
B. 諦めて、週3回ペースにする。
「ゆるーいノルマ」のホンマに、いっちばん、ゆるーーいノルマは…。
「本を持つ」。
もう、これでOK。
本を開いたら「いつもよりもできる私」。
1問解いたら「今日は頑張った!」。
5問解いたら「神降臨!」
それでいーんです。
・・・・・・・・・・・・・
ここまでの話ができたとしましょう。仮にね。
1冊10分で解けるぞと。
なんなら2周するぞと。
めくってるだけって言われるけど、ちゃんと解いてるぞと。
ここまでできてなんか文句あるのかと。
ありまーす。
このへんで、「マンネリ化」が襲ってきます。
ここからは刺激的な(または、マニアックな)活用法です。
(7)途中から始めて1周する(レベル★★★★★)
私の教室ではたまに、「今日は101番からスタート」など、途中から始めてもらうことがあります。
これは主に、10分で1周できない子にも後ろのほうの詰将棋を解いてもらうためにやっているのですが、1周できる子も、解ける数が減るんですね。
なんか「1番から4番が解きやすいから勢いがつく」らしいです。
あえて勢いを消して、「途中から1周」、やってみてください。
(8)本をさかさまにして解く(レベル★★★★★)
指し将棋は、どんなにきれいに攻めても、自分の玉が先に詰まされたら負けです。
さかさま作戦は、自玉が詰まされそうか確かめる練習になります。
本のめくる方向も逆になるので、惰性ではなくてしっかりと盤面を見るようになります。
(9)あえて、変化をしっかりと、ゆっくりと読む(レベル★★★★★★★)
このあたりになると、「詰将棋を見た瞬間に答えを思い出す」という状態になっていると思います。
素晴らしいことなのですが弱点もあります。
A.答えを思い出すだけで読みを入れていない。
B.一度答えを勘違いして覚えてしまうと、修正できない。
C.(3手詰以上で)玉方(ぎょくかた=玉がある側)が模範解答と違う逃げ方をしたときに、正しく詰ませられない。
こうなると、ハンドブックを解いていることがマイナスになるのです!
それは大変。
ですので、たまには「自分の答えが本当に正しいか」頭の中でしっかりと駒を動かしてみましょう。
1手詰ハンドブックでも、この1手で優勝賞金100万円!と思いながら考えてみてください。
将棋大会当日の朝のウォーミングアップとしてもお勧めです。
(10)解説をじっくりと読む(レベル★★★★★★★)
(2)の頃に読んでいるかとは思いますが、ここらへんでもう一度、解説を読んでみましょう。
この解説文も著者が推敲に推敲を重ねた労作です。
文学として楽しんでもよし、自分の読みが正しいか確かめるもよし、格言を探すのもよし、思わぬ紛れ(詰みそうで詰まない攻め方)の解説を楽しむもよし。
解けるようになってから読む解説は、また違った感想を抱くことでしょう。
(11)解答を筆記する(レベル★★★★★★★★)
これがなぜこんなにレベルが高いのかとお思いになった方もいるかもしれません。
筆記ね、とにかくめんどくさいんです。
いわゆる「棋譜」ですね。これは慣れないと本当に難しいです。
毎年春に詰将棋解答選手権が全国で開催されますが、出場する方は必ず練習しておいてください。
出ない人は…やらなくてもいいですが、棋譜の筆記がすんなりできると、棋書を読むスピードが格段に上がります。
(12)もし持ち駒が違うときに詰むか考える(レベル★★★★★★★)
1手詰ハンドブックをお持ちの方!
1番、持ち駒が金ですが、銀なら詰みますか? 飛車なら? 角なら?
詰まないですよね。1番の形は持ち駒が金じゃないと詰まないのです。
2番はどうでしょう。
銀だと詰まない。角だと…3手詰になります!
こんな風に、持ち駒がある詰将棋は持ち駒を変えると「詰むか詰まないかわからない、詰むとしても何手詰かわからない」という大変恐ろしい問題に生まれ変わります。
これ、結構鍛えられます。
この手前の段階として、「解くときにできるだけ持ち駒を見ない」というのもあります。
(13)置かれている駒の意味を考える(レベル★★★★★★★★★)
たまに詰将棋では「飾り駒」と呼ばれる、あってもなくてもいいんだけど、あったほうが見た目がなんとなくかっこいいから、という駒が置かれています。
でも、ハンドブックシリーズには飾り駒がありません。
(旧版にはありましたが、現在販売されている版にはないそうです)
ということは、ですよ?
配置されている駒には全て、そこにいる理由があるんです。
たとえば、5手詰ハンドブックをお持ちの方は76番を見てください。
5二の金、なぜ置いてあるかわかりますか?
この金がないと、初手から▲2三銀△同馬▲2一と…という13手詰の別の詰みがあるのですよ。(余詰=よづめ、と言います)
…って、うちの将棋ソフトが言っています。自力ではわからなかった。
実戦の詰みとは異なり、作品としての詰将棋は「『あれでも詰む、これでも詰む』はダメ」などの約束事があり、それを守るための駒が配置されていることがあります。
3手詰ハンドブックをお持ちの方、198番の6三にある歩はいかがですか?
こちらも考えてみてください。
(14)載っている作品の手数を延ばし、新しい詰将棋を作る(レベル∞)
これは私はやったことがないです。
今思いついたので書いてみます。
詰将棋創作には、最初の形をある程度決めてから詰む手順を考え、それに必要な駒を置いていく「正算」と、詰め上がりから1手前を想像(創造)して手数を延ばす「逆算」という2つの方法があります。
ハンドブックを使って逆算で詰将棋を作ってみましょう。
例えば、1手詰ハンドブック2番。
3手詰にしてみましょう。
玉を1二にして、攻方(せめかた=攻める側)に3四銀を追加します。
こうすると、▲1一飛△同玉▲2二金までの3手詰になるわけです。
(ただしこれは余詰がめちゃくちゃたくさんあって、作品にはなりませんが…)
これを繰り返しているうちに、すっごい詰将棋が作れるようになるかもしれません。
あっ、もしこの方法で作った詰将棋を雑誌に投稿したり、ネットに載せることがあれば、「●手詰ハンドブックの●番から●手延ばして作りました」と書いといたほうがいいでしょう。
リスペクト? オマージュ? なんかそういうのですね。
簡単にはできませんが、これをやってみると著者のすごさがますます感じられるようになるでしょう。
では、最後に。
(15)著者に感想を伝える(レベル★)
浦野先生、きっと泣いて喜びます。
勝手にTwitterのリンク貼ったった~!
あっ、本当の最後の最後に。
「楽しんでやるのが一番。無理しないでね」by私
おしまい。
ざっくりシリーズ最長の、執筆4時間でした。
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