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スイスラボの「スイスの社会保障制度セミナー」レポ1~スイスの年金制度のきほん

みなさん、こんにちは!
Swiss Lab. Go for it ↗︎
通称【スイスラボ】です!

2022年3月6日 日曜日の朝から、スイスラボ主催「スイスの社会保障制度セミナー」が開催されました。
今回は、専門家の先生をお招きして、スイスの社会保障制度のきほんについて、主に年金制度を軸に、じっくりとお話していただきました。

先生のお話のあと、質疑応答コーナーを設けて疑問・質問を話し合う都合上、今回は先着30名様までのご参加としました。
引き続き要警戒な状況ですし、スイス全土からご参加いただく都合上、再びZoomを使ったオンライン開催となりました。

セミナーのご案内後あっという間に満員御礼となり、スイス在住のみなさまの関心の高さと、こういったセミナーへの需要の高さをひしひしと感じました。

今回のセミナーにご協力いただいたのは、
チューリヒで税理士としてご活躍の、モック・華先生。
スイスラボの活動趣旨と、今回の依頼内容をお伝えしたところ、
セミナー講師を快くお引き受けくださいました。

講師をお引き受けいただいた、モック・華先生

モック先生のご経歴は以下の記事内容でご紹介しておりますので、
どうぞそちらをご覧下さい。

セミナーは、以下の構成で進行しました。

  • モック先生の自己紹介

  • 年金制度の説明

  • 質問コーナー

今回のレポート1では、
先生の経歴の手短なご紹介と、
スイスの年金制度のきほん部分について
まとめます。

モック先生のご紹介

モック先生は中国ご出身ですが、日本に留学経験があるんです。
福島大学・大学院で会計学・税法を修められました。
税理士資格を取得後しばらく、横浜の会計事務所にお勤めでした。

16年ほど前に、ご結婚を機にスイスへ移住。
先生もご多分に洩れずスイスの言葉の壁を経験され、2年ほどドイツ語学校でドイツ語を学び、なんとC2の試験に合格されました。

モック先生はドイツ語学習の傍ら(!!)、スイスの税務関係の勉強もし、
チューリヒの会計事務所で働き始めました。
なんと、スイスの会計士資格も取得されています。

その後、
スイスの税金と社会保険などの理解への道をも阻む言葉の壁に難渋する
同じ境遇の人を助けたい!

との思いからご自身の会計事務所を開設・独立されました。

2020より、弁護士事務所でも、会計専門でお勤めを始めました。

というわけで、日本・スイスの(年金も絡みに絡む)税務・会計の知識をお持ちで、しかも母語の中国語に加えて日本語・ドイツ語にも堪能
というスーパーウーマンな先生なのです!
しまった、こんな浅薄な言葉で片付けてはいけませんね。
並々ならぬ努力の成果を挙げられた、というべきです。

今回、スイスラボの運営メンバー、エリコさんがドイツ語学校時代にお知り合いになった、というミラクルなご縁で、このセミナーの講師を依頼をすることができました。

モック先生はご自身の事務所を立ち上げられた時から、
言葉・文化の違いで苦労している同じ立場の人を助けたい
という思いをお持ちでした。
今回、かなり複雑なスイスの社会保健制度を、私たち日本人の母国語でわかりやすく説明したい
というお気持ちから、このセミナー講師をお引き受け下さいました。

スイスの年金制度:3本の柱の原則

さて、本題に入りましょう。
スイスの年金制度には、3本の柱がある、と言われています(ちなみにスウェーデンの年金制度も柱が3本。細かいことは違うと思いますけど、ヨーロッパにお住まいの方にはある程度参考になる内容かも。)。
日本の年金制度にも、国民年金、厚生年金、そして確定拠出年金や個人年金保険(積立NISAなど)などがあり、3段階になっています。
それぞれの加入条件や積立の上限など細かなことは異なる部分もあるでしょうけれど、大枠ではスイスの年金制度と共通点も多く、イメージしやすいのではないでしょうか。

概説

では、まずはザッと概説を。

第一の柱・国民年金は、1948年にスイスに導入されました。
老後生活の基本的な必要最小限の保護を目的に導入されましたので、支給額もそれほど高くありません。

1985年に、二本目の柱・企業年金が導入されました。
国民年金導入時に比べ、国民の寿命が予想以上に長くなったので、国民の老後生活を保障するのに資金が必要となったためです。

第三の柱、3a・3bは、
現役時代の生活レベルを保つ、あるいは老後もゆとりある暮らしを送るために導入されました。

それでは、ひとつひとつ見ていきましょう。

国民年金(老齢・遺族基礎年金保険)

すべての年金について言えるのですが、
年金納付 → 年金受給
という流れが基本です。
年金の掛金を納付しないと年金を受給できません。

では、どんな人が国民年金に加入できるかというと、
サラリーマンだけでなく、個人事業者・専業主婦も、国籍に関わらず、
スイスに住んでるなら皆入ることができるというか、
一定条件を満たす場合は入らないといけない年金です!

勤労していれば18才から、学生の場合21才から加入できます。

サラリーマンの場合、給料から掛金が天引きされます。
自分の給与から半分、雇用主から半分の掛金が納入されているかたちです。

個人事業主の場合、年間2300フラン以上(2022年現在)の収入があれば、加入義務があります。
地元のAHV年金局(独 Ausgleichskasse; 仏 Caisse de compensation; 伊 Casse cantonali di compensazione)で申請して年金番号を取得、AHVの掛金を払います。
大手から契約がきた場合など、「AHV個人事業主番号ありますか?」と必ず聞かれます。

スイスでは税務調査は少ないけれど、AHVはかなりきちんと調査されるので、お心当たりのある方は、速やかにAHV年金局に年金番号(AHV個人事業主番号)を申請しましょう。

専業主婦の場合、もし配偶者がサラリーマンでAHV(国民年金)を納付していれば、掛金免除となります。
とはいえ、単発の仕事など引き受けている方もいらっしゃると思います。
その場合、年間所得が2300フラン以上なら、ちゃんと個人事業主番号を申請しましょう!

受給についてですが、2022年現在、65才から受給可能です。
最近年金の受給開始年齢を上げる議論が持ち上がっているので、もしかしたらそのうち67才からになっちゃうかもしれませんが、今のところ65才からです。
掛金の納付年数によって、最高2390フランと最低1195フランの間の受給額となります(2022年現在の数字です)。

「国民の最低限の生活を定年後も保障する」との設立趣旨のため、現役時代高給取りでどんなにたくさん掛金を払っていたとしても、最高額以上を受けとることができません。

ここでちょっと注意!!
もし夫婦で働いて国民年金の掛金を二人とも払っていたら、受給額も二人合わせて

「2390フラン x 2=4780フラン」

になるんじゃないの?と思います。
だけど、実際には

「2390フラン x 1.5=3585フラン」

しかもらえません。
夫婦一緒に住んでるから、固定費があまりかかってないでしょ?ということで、1.5倍しか支給されないんです。
もし結婚してなくて、パートナーシップで同居の場合はちゃんと二倍もらえます!
とはいえ、そのために偽装離婚をわざわざするのはお勧めできません。

企業年金

次に、二本目の柱、企業年金。
こちらは働いてないと加入できません。

サラリーマンなら、掛金は給与から天引きされます。
年間の収入が21150フラン以上の場合、強制加入です(2022年現在)。

ただし、個人事業主の場合、強制加入ではないです。
入れる業種と入れない業種がありますので、要注意(セミナーでは深く立ち入りませんでしたが、どうやら組合に加入していれば組合経由などで加入できないか調べられるようです)。

ここで、モック先生からのアドバイス:

企業年金に入れない場合は、個人年金をたくさん積み立てましょう。

受給額について定年退職(65才)より前に退職の場合も受け取れるけど、受給額は減ります。

そして、掛金の給与に対するパーセンテージは年齢によって変化します:

25~35才 給与の7~8%天引き
35~45歳 給与の10%
45~55才 給与の15%
55~65才 給与の18~20%

50才を越えた失業者になかなか再就職先が見つからないという問題がありますが、コレも一つの原因です!(つまり、掛金の半分を負担する雇用主にとって、コストが嵩む従業員になってしまう、ということですね)

ところで、受給額を増やすために、自分で掛金を追加で支払うことができます。

モック先生的お勧めの方法:

企業年金証書というのが毎年送付されますが、そこに掛金の天引き額と受給額の予想、いくら追加払いするといくら貰えるかが書かれています。
それを参考に追加払いをすると良いでしょう。

国民年金は相互扶助の設立理念のため、いくら払い込んでも最高受給額に変わりはありません。
その点、企業年金は属人的貯蓄という位置づけなので、多く払い込めばその分受給額が増えます!

個人年金

最後に三本目の柱、個人年金について見ていきましょう。
個人年金には3aと3bがありますが、どう違うのでしょう?

  • 3a

・働いてないと払い込めない。
・サラリーマン、個人事業主(特に企業年金に入れない人)が入れる。
・積立額に制限がある。2022年現在、年額6883フランまで。
・個人事業主の場合は、払込額が純利益の20%を越えないこと、年額にして34416フラン(2022年現在)を越えない範囲であること。

  • 3b

・誰でも入れる(個人所得の無い専業主婦でもOK)
・払込額に制限無し。いくらでも。
・日本の積立保険に似ている。月々100フラン積み立てる、なども可能。
・加入時に保険会社に自分の意志(プラン)を相談して、組み立てることができる。

その他気をつけるべき違いは、

  • もし早期離脱したいとき、3aは制限アリ。
    不動産購入のとき、自営業を始めるとき、スイスから他国へ移住するときなどは解約可能。
    だけど、それ以外は解約できない。

  • 3bは、その制限が全くなし。いつでも解約可

  • 3bは、受益者を指定できる。例えば、自分に何かあったときに子どもに残す、などできる。

でも、3a・3bには共通点も多いのです。以下にいくつか挙げます。

  • 障害を負ったときに引き出す設定ができる。

  • 受給の際、月々固定額を引き出すことができる。

  • 払込み開始は早ければ早いほうが良い!

三つ目のポイント、大事です。ここでシミュレーションをひとつ見てみましょう。

65才までに92000フランを貯めたい場合
利益率 年3%で概算

25才からなら月々100フランずつ、元本合計48000フラン払い込み。
35才からだと月々160フラン、元本57100フラン払い込み。
45才からだと月々281フラン。元本67000フラン払い込み。

開始年齢が遅ければ遅いほど、月々の支払額も払い込む元本の合計額も当然ながら多くなります。
特にこの10年の傾向は、利息がとても低い。
なんとマイナス金利!
積立のみで資産を増やすのはなかなか厳しいご時世です。

個人年金に入るときに株式市場と連動させて、プロに任せてお金を増やすというプランもあります。
年金用の資金をリスクの高いものに投資するのは法的に禁止されているので、安心です。

富裕層は株式市場に投資してどんどん資産を増やし、我々一般人との貧富の差が拡大している昨今。
ほんの一部でも良いので年金の積立に株式投資を組み込むのがお勧め、とはモック先生からのアドバイス。

たしかに株価は時々の政情や経済危機などを反映して乱高下しますが、それは短期スパンの話。
50年スパンで見れば、全体的には株価は上昇しています。
個人年金プランのような、ロングスパンの計画を立てるときには、最低でも10~15年スパンでの株価変動を考慮するのが合理的です。

それでも株式市場投資に抵抗がある方へ。
例えばあと5年で退職となるなど、資金の安定確保を優先させたい段階に入ったとき、よりリスクの低いプランに変更することもできます。

結び

さて、スイスの社会保障制度のきほん、ここまでいかがでしたでしょうか?
今回のレポート1はここで終わりです。

次回のレポート2では「離別と年金」、最後のレポート3では「質疑応答まとめ」をお送りする予定です。

それでは、また!

スイスラボ

※1 老齢・遺族基礎年金保険(独 AHV・仏/伊 AVS)とともに、病気や事故で障害を抱えた場合に備える障害基礎年金保険(独 IV・仏/伊 AI)を含めてAHV-IV、AVS-AIと呼ばれることがあります。
年金局のウェブサイトでもそう呼ばれていますね。
ただ、厳密に言うと違う保険です。
そして、今回のセミナーでは主に老齢・遺族基礎年金保険について学びました。


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