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これからの音楽 #5

 ここまでは20世紀にどうやって人類史上初のポピュラー音楽が誕生し、仕事ービジネスとリンクして成長し、そして幕を下ろしていったか?を考察してきたけど、同意いただけただろうか?ひとまず賛否に関わらず21世紀の話を進めさせてもらおう。

人間的な揺らぎよりも機械の方が偉い時代へ

 ミュージシャン、楽器(歌含む)演奏を軸とした音楽のあり方は20世紀末には一段落し、21世紀の音楽はすっかり機械化され、データとして扱われることが主となっていく。コンピューターベースなことは言うまでもないが、結果として我々ミュージシャンはクリック〜メトロノームの支配下に収まった。

 そもそもご存知のように人間は心臓を含めて揺れる動物なわけだけど、21世紀は、その揺れよりもクリックに対して正確である音楽のあり方がベースになった。打ち込み音楽はもちろんだけど、生演奏もクリックを聴いて演奏することが普通になった。その方が録音後の編集もしやすいというのもあるだろう。でも当然ながらミュージシャンに求められる演奏力の方向性が変わった、結果として演奏力・アレンジ力そのものが落ちたのも確かだ。21世紀は音楽においてもコンピューター化の時代がぐっと進行する訳だから。

 そして前回記したように、20世紀末のDJの表舞台登場である。彼らはターンテーブルを含めて、「機械を使うプロ」でもある。そして、情報量のプロでもある。彼らは例えば情報量(レコード量)と機械(サンプラーやリズムマシンなど)を駆使することで新しい音楽を作り出し、最初は世界のアンダーグラウンドに活躍の場を作ってきていたのが、ついに表舞台でも活躍するようになる。Hip Hop~R&Bは言わずもがな、Techno~HouseなどもそれこそMadonnaなどが(90年代からだけど)飛びついて世界ヒットに結びつけたように、みるみる機械による音楽が巷に普通に溢れてくるようになる。Rock系もデジタル技術を取り入れたミクスチャー系なものが中心になっていくし、ここにきて機械による音楽支配が完成したと言えよう。

 そんな機械音楽の良し悪しの基準とは何か?それは「機械の使いこなし方」であり、結果として重要なのは「音質」なのだ。もちろん古くから「音質」は楽器の選び方からチューニングからエフェクターから、色んな形で重要視されていた要素だけど、あくまでその音質でもってする「演奏」の方が比重が大きかったのが20世紀だった。音楽における比重が「演奏」よりも「音質」に変わったのが、この、DJたちの活躍による21世紀だと思う。

そんな中SWING-Oはどのようにこの時代を生きたか

 、、、と言う見立てに対して、俺自身はどうやって21世紀を生きてきたか?を振り返ってみると、クラブを意識したバンドizanamiを2001年頃からやって一定の評価を得つつ、打ち込みの技術をその頃から頑張って磨くようになり、2003年あたりから打ち込みの仕事を少しずつだけどもらえるようになった。そんな打ち込みを学んでいく中で気づいた重要なポイントがあった。

 俺自身はピアニストでもある訳だから、打ち込みをするDJ側からすると、弾きすぎな傾向になる。だって曲中の一番と二番で少しは演奏を変えたいと思うのがミュージシャンでしょ?でもDJ〜トラックメーカーは基本楽器を弾けない。彼らの楽曲制作美学は、ミュージシャンの演奏のいい部分だけを切り取ってループさせる。そしてメリハリをつけるためには抜き差しで対処する。だからそもそもの演奏のパターンの変化などは必要としない、されない音楽作りをする訳だ。つまりミュージシャンがトラックを作る場合、楽器ができない人の気持ちになれるかどうか?が大事だったのだ。

 それに気づいてから作った45名義のアルバム"Hello Friends"(2008年)などはiTunesのHipHopチャート1位を獲得することができて、その俺の気づいたポイントが正しかったことが証明された。実際にそのアルバムで俺の存在を知った人は、「SWING-Oさん(45さん)ってキーボードも弾けるんですね?」と言ってきたりしたからね。21世紀の音楽は楽器の弾けない人の音楽、なんだということが分かる逸話でしょ?

 それは正確には21世紀の中でも2000年代に顕著に現れた、音楽のあり方かもしれない。2010年代はそこを踏まえつつ、新しいあり方が次々と生まれてくることになるからだ。次回は2010年代はどんな動きがあったのか?を考察してみよう。(、、、うーんあと2回かな?笑)

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■最後に一曲紹介

今回はまっとうにテーマにそったところを解説付きで紹介しよう。多くの人がシンボリックに捉えているD'angeloのアルバム"Voo Doo"(2000年)から先行曲"Untitled"。クリックは鳴っているが、それをもてあそぶかのようなずれた演奏法を誕生させたのは、ある種の機械支配への反乱か?

でもリアルタイムでは、個人的には「これってプリンスまんまじゃないか?」としか捉えられず、「どこが新しいの?」と疑問に思っていた。そりゃあそうだ。ここにあるのはすでに「楽曲そのものを売りにするもの」ではなく、「音質」と「機械への対処~グルーヴ」の面白さが軸になったものだからね。もちろんセクシーなこのMVも売りになったのは間違いないけど、曲自体は古いソウルを踏襲した、特に新しいものではない。もう一度言っておくけど、ここにある面白さはその「音質」と「機械への対処法〜グルーヴ」の面白さなのだ。

そのニュアンスは知っておいて損はないと思う。ある程度以上年齢行ってる人はこの魅力が分からないと言う人が多い。なんなら「日本ではこういうのは売れないよ」という人が多い。その理由でもあるからだ。

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