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「自伝」より「他伝」

「自分のことは自分が一番よく分かってる」
果たしてそうだろうか?

現代〜テレビ的には自伝〜自叙伝が主流な印象だし、一般的にも「わたしのことはわたしが一番分かっている」という前提で物事が進むことが多い。だから中学生のアーティストに「君はどうしたい?」と彼らの主義主張を聞くことが正しい関わり方となる。そこに「大人の責任放棄」を垣間見ちゃうんだけど、その話は置いておく。

ただ、自伝の良さもある。
「順調そうに見えたあの時自分は苦しかったんです」
「実は**するのが趣味でして、、、」

そんな、「実は〜〜〜」系な話はまさに自伝でしか分からないこと。そんな話が読者視聴者の勇気や元気の源になるだろうことは否定しない。実際自分もワイン職人とかロケット制作会社社長などの話に刺激を受けることもあったりする。

でも、でも、俺はやっぱり本人が本人を語る自伝よりも、他人がその人を語る「他伝」(そんな言葉はないけど、そう呼んでおく)が好きだ。一番分かりやすい例がAretha Franklinだろう。

彼女は自ら語り、編集にも目を通した自叙伝"From These Roots"という本があるが、それは全く売れなかった。なぜならよく知られている14歳で最初の子供を産んだことだったり、各種確執があったことなどはすべて触れておらず、成功談だけでまとめられていたからだ。そのインタビュアーを務めてもいたDavid Ritzが後に本人の許可を得ずに「皆が知りたいAretha像」として緻密に史実も交えて記された「リスペクト」の方が明らかに実像としてのArethaが浮かび上がるのだ。当然ながら前者は日本語訳も出ていない。

マイルス自伝もジェームスブラウン自伝も面白くはあったけれど、自伝の方が時間軸を間違えていたり、記憶を本人の都合のいいように差し替えていたりするから、本当の本人像とはまた違うと思って読んだ方がいいのだ。自伝には捏造がつきものだからね。生きている間はせめて過去の自分の否定はしたくないだろうから、捏造は致し方ないとも言える。

俺が「他伝」の方が好きなのは、その著者が素晴らしければ、あらゆる史実だけでなく、心理学・精神分析的な要素を持ち込んでその主人公の動きの理由を解説しようとするからだ。その点、先に記したDavid Ritzは黒人アーティストについて書かせると本当に素晴らしい。(Marvin Gaye本"Divided Soul"も素晴らしかった)

そして黒人でもあるNelson Georgeの視点も好きな視点だ。過去読んだ「リズム&ブルースの死」もそうだし、現在読んでいる「モータウン・ミュージック」も面白い。事実上ベリーゴーディ伝記本のような内容なんだが、ベリーがそうしたインタビューを引き受けない人であるがゆえ&インタビューを軸にすると本人チェックが入ることを危惧して、直接インタビューをせずに記されているのだ。なのにベリーの祖父まで遡って彼の家柄〜家系から、彼の性格分析を常に横に置きながら史実解析をしている、そこがいい。

Thelonious Monkのは最近分厚い本が出たけれどそれはまだ読んでいないが、こちらの「MONK~沈黙のピアニズム」は先ごろ読了した。これもまた素晴らしい。なにせ著者Laurent de Wildeはジャズピアニストなのだ。史実を踏まえつつも、ピアニストな著者だから聴こえる〜見える、「モンクは何が聴こえていたのか?」「何を目指していたのか?」その分析が逐一素敵なのだ。この本〜モンクに関してはいずれ別途ブログに記したいと思ってる。

ガラッと変わって司馬遼太郎による「空海の風景」もまた心理学的で素晴らしい。日本の歴史物はあまり読んでこなかったが、ふと雑誌レビューで目について買ってみて、読んでみたらみるみるハマって、現在下巻を読んでいるところ。空海に至っては西暦800年前後の平安時代、すなわち1200年も前の話だ。それを各所に残っている文書・史実をかき集めつつ、
「こういう性格の空海は、きっとこの時期は後年発表する**の研究に勤しんでいた時期と見るのが妥当だろう」
「こういう性格の空海したら、それはあり得ない、後年の捏造と思われる」

などなど、人間・空海としての分析を軸に構築された「他伝」なところが面白い。

歴史に残る、残っている者を調べる時には、こうした素晴らしい分析力を持った人による「他伝」が一番だという俺の志向は分かっていただけたであろうか?

俺?俺自身ももちろん自伝的に自己分析はある程度は出来る。が、もちろん自分に都合の良いような解釈を進めてしまうことにも自信がある(笑)。ま、俺くらいだと分析対象になるほどの者ではないくらいは自覚してるけれど、出版物である必要はないので、分析力のあるお方に俺のキャリア分析をいずれしてもらいたいな、、、とは夢想してしまうね。だってそんな明確に規定〜カテゴライズできるような自分であろうとせずに生きてきたんだもの。あ、これは格好良く言っちゃったな。ただ迷走してきた、それもその都度本気で迷走してきた、てだけです、はい。

俺の話はさておき、
少なくとも社会生活を営もうとするのであればやはり「自分のことは他人の方がよくわかっている」と思う。
もっと噛み砕いて言うならば
「自分の可能性を広げてくれるのは他人である」
と思ってる人の方が俺は面白い。実際にこうした偉人たちは皆、そんな「素敵な他人」を求めて迷走してきた人たちばかりだからね。そんな「他伝」を読むとなおさらそう思う。

「自分のことは自分が一番よくわかってる」
と言う人は、自分を枠に閉じ込めて安心したいのが先にくる人、つまり成長を拒否している人、に見えてくるよ。苦しいかもしれないが、苦しいからこそ、開いた方がいいのだ。頑張って、開こう。

自分を成長させてくれる素敵な他人に出会うために

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