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SWING-Oのレビュー #4

"Sign O' The Times"(Super Deluxe Edition)
by Prince 2020


事前に予約してたのが予定通りきっちり発売日9.25に届き、3日間で一気に聴き切りました。CD8枚とDVD1枚の9枚組の、事実上豪華な写真集のような装丁。音の中身も素直に素晴らしい!と思う未発表曲たち、未発表テイクたちでしたね。ライブももちろん良かった!!!Sheila E.のセクシーで素敵なことよ、、、笑

てことで、より詳しい内容は各種雑誌記事などに譲るとして
そこから思うあれやこれ、をSWING-O的な視点で語ってみようと思います

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殿下Princeの9枚目のアルバム"Sign O' The Times"は1987年3月に発売された。当時俺は高校2年から3年になる頃か。二枚組というボリュームで4000円という、高校生にはきつい値段のものを頑張って買いました。初Princeは1983年頃にラジオからかかっててエアチェックした"Little Red Corvette"(リリースは1982年)。最初はそんな気にしてなかったが、翌年に出た6作目"Purple Rain"(1984)がラジオでかかりまくっていて、レンタルレコードでチェックして、聴いてるうちに気に入って来て、7作目"Around The World In A Day"(1985)が初めて買ったアルバムとなった。

そして8作目もこれまた大ヒット曲"Kiss"が入った"Parade"(1986)だったんだが、当時の俺的にはそんなに気に入らず、レンタルレコードで済ますことに。。。と行った中で、「え、もう?」というタイミングが87年の3月な訳だ。しかも二枚組!!一体どれだけ創作欲求があるんだ?と当時も思った。しかも先行のタイトル曲が抜群に格好いいじゃないか!これは無理してでもアルバムで買わねば!と思った。今やスタンダードなMVの形態の一つ、リリックヴィデオのさきがけな形で発表されたこの曲にはやられたな・・・

、、、と一曲ずつ振り返ってるとキリがないのでこれくらいにしとくが、この16曲入り80分の作品にあらゆる趣向が楽曲になっていて、雑多なようで聞き飽きない、個人的に最も聴いたアルバムの一つとなった(一番は最初に買った"Around The World In A Day"かもしれないけど)。この、年一枚ペースなだけでも驚異的なペースだと言うのに、この頃のPrinceは凄まじい動き方をしていたことを後に知る。そもそもこの2枚組のアルバムは3枚分のアルバムを作ってたのをレコード会社に断られ、仕方なく2枚組にしたと言うじゃないか。この年にはMadhouseと言うインストバンドでも2枚リリースしてるし、プロデュースワークも色々とやっていたし、ツアーもやっていたし、、、本当に寝ないで生きてた人だったのだ。

、、、と言う話もキリがないので、そこらへん興味がある人は例えばレコードコレクターズの最新号などをご覧ください。

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こう言う聴き方自体が絶滅危惧種?

以上が長い前書きでしたが、こう言う聴き方自体がすでに絶滅危惧種なんだろうか?と言う自問とそれに対する自答をこれからしていこうと思う。

実際、2020年現在は音楽のメディアビジネスはこうしたアーカイヴ再発掘がメインとなってしまっていることは否めないだろう。世界のレコード売り上げがCDを再び抜いたと言うニュースは、レコードが伸びた側面よりも、CDが落ちた側面の方が強い理由だと思う。時代はサブスクだし、アルバム聴きですらされなくなって来ている現状がある。CDでリリースされるのはビートルズを筆頭にしたロックから黒人音楽からワールドミュージックまで、なにせ1980年代以前の音楽のアーカイヴ再発掘もしくはリマスター盤なのだから、いまだにCDを買っているのは当然40代以上の大人たちだけだろう。

90年代以降はPC制作のものが中心となるので、かつmixtapeなどの名目でアーティストが現役な時点でリリースされまくっているからアーカイヴへのニーズがほぼない。あ、90年代から2000年代初頭まではまだニーズあるかもしれないね。そもそもサブスク化されてない音源が多数だからね。俺自身の初期キャリアのものなんかもそうだしね。

と言う意味ではもうしばらくは発掘のしがいのある時代が続く可能性はあるけれど、おおよそ末期的なことが否めないのは事実。そしてもう一つ悲観的なことを思うのが、リスナーの耳の劣化が甚だしい現在であると言うことだ。音質に対してはまだ希望があるし、面白いbluetoothイヤホンが出たりとか、賛否はさておき携帯が5G化することで各種サブスクの音質が上がる可能性もあるしね。ただ、音楽そのものを聴き分ける耳の劣化はまだまだ進行中だと思う今日この頃。

なにせありがちなコード進行とメロディのものばかり売れている訳だからね。歌詞を含めてほんの少しの個性と、むしろビジュアルや佇まいの方が大事な時代になっている訳だからね。音楽はあくまでツールな現代でしょ?深みのあるテクニックやアレンジの独自性は残念なほどウケない感じがある。歴史を背負ってる必要もない。菊地成孔氏が言っているように(何度も引用してすんません)「文明の幼児化」はほんとそこここに現れている。「ウケる、売れるもの」=「子供でもわかるもの」と言うビジネスモデルが未だに基本形だからね。教育の劣化を通過した国民によって成り立っている現代社会だからね。俺ももちろんそうですけど。

これはいずれ若者と共有できるタイプのエネルギーじゃないか?

そんなことを感じて過ごしている俺だけど、このPrinceの"Sign O' The Times"の膨大な未発表曲たちの音楽実験のすごさをほんとヒシヒシと感じたんです。コード的、音程的実験もほんとすごい。音質ももちろんアナログからデジタルへの移行期と言うのもあり、試行錯誤を繰り返してる訳だけど、それも素晴らしいしね。アレンジやミックスの完成度が低いものもあるけれど、なにせ刺激に満ちていて、未発表だけで3枚3時間以上もあるのを昨日聴いていて感動しちゃったんだわ。クラシックからロックからファンクから古い映画まで、あらゆる要素がカオスになって、エンタメに着地させようとする試行錯誤。こんな音楽実験、今どれだけの若い人と共有できるんだろう??と思っちゃうんだ。

でもライブDVDを見たら次世代の人にも少しは伝わるのかもしれないな、と思った。DVD最後に収録されている30分もある"It's Gonna Be Beautiful Night Medley"とされた曲、これ、あらゆるファンクやソウルの歴史をエンタメに詰め込んだ挙句、Miles Davisまでヌルッと登場しちゃうんだからね。ダンスからマイク使いから、こうしたパフォーマンスは日本では今受け継いでいる人は少ないのが残念だけど(ダンサーは一杯いるんだけどね)、こうした映像作品から若い人が「何でこれみんな知らないの?やらないの?」って気づく時がいつか来るんじゃないかな。だって格好いいし、モテそうだし、誰もが真似できるものじゃないしね。

今はまだ、誰もが理解&真似しやすいものが売れる時代

今はしょうがないよ。誰もが真似しやすいものが売れる時代だから。でもそこに「?」と思う世代は、時代や経済状況の変化と共に必ず出て来ると思う。そんな時にまた若い世代による違う解釈のPrinceってのが生まれるのかもしれないな・・・てことをこの膨大なアーカイヴをチェックしながら思った訳です。それくらいエネルギーに満ちている。

Princeは大好きだけど、どの時代もいいとは思っていない。このアルバムの頃、やっと組めて大成功してたバンドThe Revolutions"を解散し、また一人になり、最愛の婚約もしていた彼女と別れ、でもやっと自分のスタジオペイズリーパークが建つ頃、、、もうプライベートもカオスな、世間からのプレッシャーも半端ない中での制作だからこそのマジックたちなんだと思う。いやこのボックスCD&DVDは刺激が欲しい時に聴こう。

4枚目のCDに入ってるLisa Colemanが弾くこの美しいピアノ小品でも聴きながらお別れしましょう

PS: 一応中身の感想を記しておくと、Joni MitchellやBonnie Raittに提供を目論んだデモ曲なんかも入ってたのは面白かったです。あと未発表曲の中ではCD5-10"Crucial"やCD6-5"Wally"なんてのもいい曲だった。5-9"Forever In My Life"のコード付きバージョンもすごく良くて、この曲の印象が変わったな。

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