昭和の闇市の匂ひ
ここ数年飲み友達とよく「下町飲み会」なるものをよくやる。値段が安くて、不思議なメニューがあって、おもしろオジさんオバさんがいるような所をなるべく選んできた。立石、大井町、大森、蒲田町、赤羽、浅草、上野などなどを巡ってきた。そうこうしてるうちに色々と歴史も知っておきたくなったりして、こういう本に手を出すことになった。
「東京裏路地<懐>食紀行」
藤木TDC・ブラボー川上 著 2002年
「昭和酒場を歩く」
藤木TDC 著 2012年
もちろん漠然と、嗅覚と値段と雰囲気のみで店選びをするのも楽しいんだけど、これだけ広い東京の中で、どういう所を飲み歩くとより面白いか?を考えるとこうした本はありがたい。1962年生まれの藤木TDC氏は下町から風俗、ギャンブルまであらゆる下世話〜C級なものに詳しい方で、またそれらを系譜学的に紹介される人だからいい。俺好みだ。
そもそも横丁という横丁は、太平洋戦争でアメリカの爆撃を受けて焼け野原になった場所に即日誕生した「闇市」をルーツとするものが多い。そこには「戦勝国」となった韓国人・台湾人も多く関わることになり、食糧難の時期だからこそのメニューが数多く誕生した。その筆頭が、それまでは日本人は食べてこなかったホルモン〜もつを食べるという食文化だ。そしてしばし日本を占領していたGHQ~アメリカ人の影響も大きく、そこには闇市だけでなく、そこにアメリカ人に寄り付こうとする日本人女性が集まる赤線・青線地域も生まれる。経済復興のためであり、精神的な娯楽という意味での合法賭博場(競馬・競輪・競艇・オートレース)の周囲にも「闇市」は誕生するし、戦犯を収監する拘置所周辺にも多く誕生したようだ。筆者はそのような、日に日に無くなりつつある「昭和の闇市の匂い」が残る場所を好んでこれらの本で紹介している。
そんな背景をいくばくかでも学んで知って飲みに行くのは実に面白い。食糧難な時期だからこそ生まれたメニュー、それが高度成長期を超えてもなお残ってる場合はそれなりに美味いものだ。昔を知るオジさんオバさんも居ればなお最高だ。当然のように話しかけられるし、何なら俺からも話しかける。そして昔話から最近の政治についてどう思うか?まで色々と世間話をするのが楽しい。そうした横丁には「俺は安倍晋三の友達だよ」「俺は麻生太郎のマブダチだよ」なんて人がいたりする(笑)。それが事実かどうかはどうでもいい。そういう人をつついて色々語らせるのが面白いのだ。
でも残念ながら日に日にその「昭和の闇市の匂い」が残る場所は無くなってきている。ましてやこのコロナ禍の影響も重なり、この本に出てる店で今でも残ってるものはなかなか少なくなって来ている。その代わり「渋谷横丁」「恵比寿横丁」「新橋横丁」などの、店の集まり方だけを真似た、どっちかと言えば物産展的なキラキラ横丁が最近どんどん出来て来て、若者だけで繁盛していたりする。飲むことを楽しんでいるという意味では悪いことだと思わないが、俺は行きたくないな。友達とつるむだけの場所だからね。交流が生まれる場所ではない。あ、ナンパはあるでしょうけど。
なんてことを思っていると、そっか、音楽であれ何であれ一緒だな。「歴史」との接点、噛み砕くと「先輩との接点」が街中では実に少なくなって来ている。国宝なり文化遺産的な形はある種見世物だからね。それは「そんな時代もあったのね」という遠い眼差しで「見るだけの歴史」。自分の血に、身の回りに流れている「歴史のかけらを感じることが出来る経験」ってのが今は難しくなって来たのかもしれないな。学ばないとその「かけら」をキャッチすることが出来ないからね。安いかどうか、美味いかどうか、ポップかどうか、、、でしかないものは、もちろん若いうちはいいかもしれないが、早いうちに気づかないと、年老いた時に虚しくなる気がするんだけどな。でも鈍感なまま年老いる分には、それなりに楽しいのか?俺自身は出来れば色々と歴史を知って今を生きたいし、歴史を知った上で死んでいきたいと思うけどね。そんな俺からしたら、美味いだけの店よりも「昭和の闇市の匂い」のする居酒屋の方が大きく惹かれる今日この頃です。
最後にこの本にも出てたけど、最近あまり見なくなりつつある「魚肉ソーセージ」。あれって、第五福竜丸がビキニ環礁水爆実験で被爆した1954年頃、被爆を怖がってマグロが一時期売れなかったそうで、その余った魚肉を元に作られ、国民に浸透したらしい。それって、、、て今考えると少し恐ろしいね?でもそれで親も俺も元気に育って来てるから、意外と大丈夫だったって思うしかないが。。。
そんな、物事のルーツを学びながら、これからも色んな居酒屋を飲み歩きたいなと思いますw
写真:某立ち飲み屋で食べた「ミンククジラの刺身」280円!!これめっちゃ美味いんです!!
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