発動と解決の順序(初級編) ― イジンデン ルール理解
はじめに
本題に入る前に宣伝。イジンデンのルールを体系的に理解していくこのシリーズをまとめた非公式の文書『イジンデン総合ルール私家版』を今月頭に公開した。ルールカードやEXRuleの記述内容を集約したり、Q&Aの質問や解答を一般化したり、明文化されていない経験則を整理整頓するなどして、体系的なルール文書としてまとめたものである。内容はおおむね第2弾終了時のルールや裁定に準拠したものであり、第3弾で明らかになったルール変更は追って反映していく予定である。
さて、今回の話題は理解が少し難しい、発動と解決の順序である。総合ルール私家版ではテキストのみで記しているところ、この記事では図も用いて理解しやすくすることを意識した。
同時に発動する複数の能力
イジンデンのゲームをプレイしていると、複数の能力(いわゆる発動型能力)が同時に発動することがある。
例えば、相手の戦場に《足利尊氏》がいて、自分の戦場に《中臣鎌足》が置かれたとしよう。尊氏の「イジンが相手の戦場に置かれるたび」能力と、鎌足の「戦場に置かれたとき」能力は、いわば同時に発動することになる。
このような状況において、発動した複数の能力はどのように解決すればいいのか。この記事ではこの疑問に答えていく。
ルール補足での記載
実は、発動した能力が複数ある場合の解決方法は、公式サイトに掲載の「ルール補足」に書かれている。なーんだ、じゃあそれどおりにやれば終わりじゃん、と思われるかもしれないが、これが少々ややこしい。該当する箇所を次に引用する。
「逐次発動」とあるので能力をひとつずつ順に解決していくようであることは分かるが、「発動を待っている能力」「タイミング」「入れ子」「先行して」など、カードのルールテキストでは見慣れない言葉がいろいろと出てきて、一筋縄では行かなそうである。
このルールをよりよく理解することが、この記事の趣旨である。
『スタック的』な構造の導入
別のTCG(具体的にはMTG)の言葉を借りてイジンデンの能力の解決順をひとことで言えば『スタック的』とまとめられるだろう。(ここでMTGプレイヤー向けに補足すると、イジンデンにおける解決順は、厳密に言えば、MTGのスタックによる解決順とは異なる。それでも、頭の中で『スタックのようなもの』をイメージすることによって、解決順をよりよく理解できるようになるはずだ。)
スタックとは元々コンピュータ分野の用語であり、処理するモノを下から上に積んでいき、上から順に取り出すデータ構造である。身近なものでイメージすると、机の上に積読された本などが適当だろうか。昔に積まれた本は下の方に、新しく積まれた本は上の方にある。そして、この積読を解決する際に『必ず一番上から1冊ずつ取り出して読む』という制約をつけたものが、純粋なスタックである。
イジンデンにおける『スタック的』な解決順を理解するためには、純粋なスタックというよりは、天地の方向に十分に多い段を備えた、能力を積む棚をイメージしていただきたい。純粋なスタックと同じ点は、能力を積む際は空いている最も下方の段に入れる点、そして解決する際は積まれている最も上方の段の能力から先に行う点である。そして純粋なスタックと異なる点は、同じ段に複数の能力を積むことがある点である。
発動の細分化
『スタック的』な棚を用意したところで、もう少しだけ理解のための準備をしよう。能力が発動することは、次の3ステップに細分化できる。
発動を待っている状態(以下、図中では「発動待ち」と表記する。)になり、棚に積まれる。
実際に発動する。(「発動できる」能力が実際には発動しなかったことを含む。)
発動を待っている状態でなくなり、発動済みになる。(「発動できる」能力が実際には発動しなかった後の状態を含む。)そして棚から除かれる。
プレイヤー間の順序
ここからは記事冒頭の鎌足と尊氏の例で、棚がどのように変化するか見てみよう。
まず、鎌足と尊氏のそれぞれの「戦場に置かれたとき」「戦場に置かれるたび」能力が発動を待っている状態になり、棚の空いている最も下方の段に積まれる(上図右上)。ここで、2つの能力は発動を待っている状態になった「タイミング」が同じであるため、別々の段ではなく、同じ段=1段目に積まれる。
次に、積まれている最も上の段=1段目の能力を解決する。2つの能力が積まれているが、ルール補足の「常にターンを進めているプレイヤーが先行して、自分のカードの能力を発動させます」にしたがい、先に自分の鎌足の能力を解決する(上図左下)。鎌足の能力は発動が任意であるため、この際に発動させるかどうかを選ぶ。また、追加の発動条件付きのため、それを満たすようにする。ここでは発動させることを選んだとしよう。山札の上から5枚を墓地に置いて追加の発動条件を満たし、能力が実際に発動し、鎌足はこのターンの間「即応」を得た。鎌足の能力は発動済みになって(上図右下)棚から除かれる。
さらに、積まれている最も上の段=1段目の能力を解決する。残っているのは相手の尊氏の能力のみなので、これを解決する。相手もこの任意の能力を実際に発動させることを選んだとしよう。能力が実際に発動し、相手は自分の鎌足(「即応」を得ている!)を指定して寝かせた。尊氏の能力は発動済みになって棚から除かれ、棚が空になった。これで解決は終了である。
プレイヤー内の順序
相手の場に《足利尊氏》だけでなく《玄宗》もいる場合はどうだろうか。
まず、発動を待っている状態になった3つの能力が同時に積まれる。そして、やはりルール補足の「常にターンを進めているプレイヤーが先行して、自分のカードの能力を発動させます」にしたがい、最初に自分の鎌足の能力を解決する。先ほどと同様に、実際に発動し、発動済みになって棚から除かれる。
残るは尊氏と玄宗の能力である。同じプレイヤーの能力が複数ある場合、そのプレイヤーが解決順を選ぶ。ここで相手は先に玄宗の能力を解決することを選んだとしよう。相手は山札の上から1枚をガーディアンにして戦場に置いた。玄宗の能力は発動済みになって棚から取り出される。あとは先ほどの尊氏の能力の解決と同じである。
「入れ子構造」なるもの
ここまでは棚の1段目のみを使う単純な例だったが、ここからは少し複雑になる。理解の準備として、冥府発動によるマホウの発動は、能力の発動と同じように解決する、ということを覚えておいていただきたい。
ここでは、相手の戦場に《足利尊氏》が、自分の戦場に《張角》がいる状況で、《中臣鎌足》が自分の戦場に置かれたとしよう。張角のおかげで、鎌足の能力によって山札から墓地に置かれたカードが冥府発動持ちのマホウなら、それが発動できる。
鎌足と尊氏の能力が同時に発動を待っている状態になり、鎌足の能力を先に解決するところまでは同じである。ここで《ドローイング》が山札から墓地に置かれ、冥府発動するとしよう。これはルール補足がいう「その能力(注:鎌足)の効果によって別の能力(注:ドローイング)が発動を待っている能力になった場合は続けて発動させます」に相当する。
これを『スタック的』な棚で理解すると、鎌足の能力が発動済みになって棚から除かれるとともに、ドローイングが新たに発動を待っている状態になり、棚の空いている最も下方の段=2段目に積まれる(上図右下)。ルール補足がいう「最近発動するようになった能力(注:ドローイング)から優先するので入れ子構造になります」というのは、つまりは能力が棚の上下の段に積まれ、上の段から解決することを言っているのである。
次に、積まれている最も上の段=2段目の能力を解決する。ドローイングのみのため、これが実際に発動し、自分は2ドローした。ドローイングは発動済みになって棚から取り出される。あとは先ほどと同様である。
発動の立ち消え
墓地に置かれたマホウがドローイングではなく《メロウ》で、それが尊氏を指定して冥府発動したらどうなるだろうか。
棚の2段目にメロウを積むところまでは同じである。その後、メロウが実際に発動し、相手の尊氏が裏向きになった。ここで、ルール補足には「能力が発動する前に、そのカードが(中略)裏向きになったりした場合は『発動を待っている能力』でなくなり、発動しなくなります」とあるため、尊氏の能力はいわば「立ち消え」して、発動を待っている状態でなくなり、実際には発動しない。
メロウと同様に、《エイジング》で尊氏を魔力ゾーンに置いても、尊氏の能力は立ち消えする。やはりルール補足には「能力が発動する前に、そのカードが別の場所に移動したり(中略)した場合は『発動を待っている能力』でなくなり、発動しなくなります」とあるためである。
おわりに
初級編は以上である。次回は上級編として、カードの破壊も並行する複雑な例を見ていく予定である。