MTG プレイヤーがざっくり理解する Disney Lorcana

 ディズニーキャラクターのトレーディングカードゲーム「Lorcana」が発売されることを知った。公式サイトには「COMING TO TABLETOP FALL 2023」とある。先日アメリカで開催された卓上ゲームのコンベンション「Gen Con 2023」でも先行販売や体験イベントが行われていたようだ。

 気になって少し調べたところ、ルールは MTG にかなり近そうだと分かったので、自分なりにルールをざっくりまとめてみることにした。(と言いつつ8,000字近くになってしまったが……。)


諸注意

背景設定

  • 舞台は Lorcana と呼ばれる魔法の世界であり、プレイヤーは Illumineer と呼ばれる魔法使いである。

  • Illumineer は魔法のインク (ink) を操り、ディズニーキャラクターやアイテムを glimmer として召喚して、Lorcana の伝承 (lore) に加えていく。

    • インクによって本に新たなページを描き加えていくイメージかなと思う。

    • glimmer の原義は「かすかな光」。

  • インクは6種類あり、それぞれに特徴がある。詳細は後述。

 このあたりは MTG での多元宇宙、プレインズウォーカー、クリーチャーやアーティファクト、そしてマナとその色に当てはめて理解すると良さそう。

全般的なルール

ゲームの目的

  • 2人対戦である。ただし3人以上でも同じルールでプレイ可能。

  • 目標は、どの対戦相手よりも早く lore を20点以上集めることである。ゲーム開始時の各プレイヤーの初期 lore は0点である。Lore の点数は数を数える何らかの方法で管理する。

  • 前項の他にもデッキ切れのルールがあり、空のデッキからカードを引こうとしたプレイヤーは負ける。

  • ゲームには基本的なルールがありつつ、カードはそのルールを破ることができる。

    • いわゆる「カードはルールに勝つ」に相当する。

  • カードを駆使して、lore を集めたり、対戦相手を邪魔したり、自分の場や手札を強化したりして、対戦を優位に進めよう。

 MTG との大きな違いは、相手のライフを20点から0点にすることではなく、自分の lore を0点から20点にする、というところか。

デッキ (Deck)

  • 各プレイヤーは60枚以上のカードで構築されたデッキを持ち寄る。

    • MTG で言うところの構築戦である。リミテッド戦については言及が見当たらなかった。

    • 何本先取なのかについては言及が見当たらなかった。

    • サイドボードについては言及が見当たらなかった。

  • 同名のカードは4枚までデッキに入れられる。キャラクター・カードはキャラクターの名前が同じでもバージョンの名前が異なれば別名のカードである。例えば《Elsa - Snow Queen》と《Elsa - Queen Regent》はこれに該当し、それぞれ4枚までデッキに入れられる。

    • MTG で言えば、例えば《火想者ニヴ=ミゼット/Niv-Mizzet, the Firemind》と《パルン、ニヴ=ミゼット/Niv-Mizzet, Parun》は別名のカードであり、それぞれ4枚まで入れられることに相当する。これは特に違和感なく馴染めると思う。

  • 各カードにはインクの種類が定められており、デッキに入っているカードのインクは1種類または2種類にしなければならない。

    • MTG で言えば、全てのデッキは単色デッキまたは二色デッキであり、三色以上のデッキは構築できない、ということ。この理由は土地に相当するシステムと関わりがあるように思う。詳細は後述。

    • 今のところ、いわゆる多色カードは存在しないようだ。

領域

  • 場 ((in) play) は自分のカードと相手のカードを置く部分に分かれている。公開情報。

    • カードをプレイする動詞としても play が用いられているため、混同しないように注意。

  • 山札はデッキ (deck) と呼ばれる。非公開情報。

    • MTG の「ライブラリー」のように別語が当てられているわけではない。

  • 手札は hand 。自分の手札は見られるが、対戦相手の手札は見られない。

  • 捨て札置き場(MTG で言うところの墓地)は discard と呼ばれる。公開情報。

    • カードを捨てる動詞としても discard が用いられているため、混同しないように注意。

Exert/Ready

  • 場に出ているカードを何らかの方法で使うためには、それをタテ向きからヨコ向きにする (turn it sideways) のを求められることがある。Lorcana ではこれを exert と言い、またヨコ向き状態を exerted と言う。

    • タップ(する)やタップ状態に相当する。「タップ」が使われていないのは開発が WotC ではないからか。

  • ヨコ向きのカードをタテ向きに戻す (turn it back upright) ことを ready と言い、またタテ向き状態も ready と言う。

    • アンタップ(する)やアンタップ状態に相当する。動詞にも状態にも同じ ready が使われているため、混同しないように注意。

インク (Ink)

インクのルール

  • カード名の下にはそのカードのインクの種類(MTG で言うところの色)がアイコンで示されている。

  • カードの左上には六角形の中に整数のインク・コスト (ink cost) が書かれており、カードをプレイするためにはこの量のインク (ink) を支払う必要がある。

    • マナ・コストやマナに相当する。ただし、インク・コストや得られたインクは点数だけを考え、インクの種類は考えない。

  • インクはインク・カード (ink card) から得られる。インク・コストの六角形のまわりに渦巻き (swirl) が付いているカードは、1ターンに1枚まで、対戦相手にオモテ面を見せてから、ウラ向きでインク・カードとして場に出すことができる。インク・カードを exert すると1点のインクが得られる。

    • インク・カードは土地に相当する。ただし、そのような種別のカードが存在するわけではなく、渦巻き付きのカードは使い方によってインク・カードとしても使える、ということ。

  • インク・カードを出すための場のスペースをインクウェル (inkwell) と呼ぶ。場の自分のカードを置く部分で最も手前側にある。

    • デュエルマスターズにおけるマナゾーンのようなもの。

  • (ウラ向きで置いた)インク・カードは、そのオモテ面が何であれ、ゲーム中はずっとインク・カードとして扱う。

  • オモテ面のインク・コストやインクの種類が何であれ、1枚のインク・カードから得られるのは単に1点のインクである。繰り返しになるが、得られたインクは点数だけを考え、種類は考えない。

 インクのルールはデュエルマスターズにおけるマナのルールをアレンジしたものだと思えばよさそう。また、インク・カードから引き出したインクの種類を考慮しないがゆえに、デッキ構築時のインク種類数に制限が設けられている、と理解するとよさそう。

インクの種類

 インクの種類は次の6つ。フレーバーもあわせて記す。

  • アンバー (Amber) -- 目的意識 (Purposeful)

    • 忍耐強く献身的。指導者、癒し手、護衛など。

    • 色味もフレーバーも、MTG の白に近い感じ。

  • アメジスト (Amethyst) -- 不思議 (Wondrous)

    • 魔法使いであり、特殊能力に長けている。

    • 色味は MTG の黒に近いが、フレーバーは少し異なるか。

  • エメラルド (Emerald) -- 柔軟 (Flexible)

    • 適応力があり、隙を突かれない。

    • 色味は MTG の緑に近いが、フレーバーは少し異なるか。

  • ルビー (Ruby) -- 大胆 (Daring)

    • 迅速かつ勇敢に不利を覆す。

    • 色味もフレーバーも、MTG の赤に近い感じ。

  • サファイア (Sapphire) -- 知性 (Intellectual)

    • 知的で想像力があり、戦略、発明、芸術を得意とする。

    • 色味もフレーバーも、MTG の青に近い感じ。

  • スチール (Steel) -- 頑丈 (Strong)

    • 大きく堂々としており、力任せに物事を解決する。

    • 色味は MTG の黒に近いが、フレーバーは少し異なるか。

 いわゆる色の役割は、まだ個別のカードを見切れていないので、書くなら別の記事にしようかと思う。

カードの種類

キャラクター (Character)

  • 文字通りキャラクター。ミッキーとか、アナとか、スティッチとか。

    • クリーチャーに相当する。

  • 場に出して、lore を集めさせたり、対戦相手のキャラクターと戦わせたり、何らかの能力 (ability) を持っているならそれを使わせたりできる。

    • Lore 集めの主要な役割を担うのでデッキには多めに入れるべし。

  • 数値ステータスとしては、戦いに関わる攻撃力 (strength)意志力 (willpower) 、そして lore 集めに関わる lore value を持っている。それぞれカードの右側に、太陽のようなアイコンと数値、盾のようなアイコンと数値、ひし形の数で示されている。

    • 攻撃力と意志力はパワーとタフネス (P/T) に相当する。Lore value は Lorcana ならではの数値ステータスか。

  • いわゆる「召喚酔い」のルールが存在し、場に出たターンの間は exert を必要とする行動ができない。

  • Classifications を持っている。例えば Hero, Villain, Princess, Sorcerer など。これらはルールやカードから参照されることがある。

    • クリーチャー・タイプに相当する。

  • キャラクター自身の名前の他にバージョン (version) の名前を持っており、両者を合わせてキャラクター・カードの名前と見なす。

    • 前述の《Elsa - Snow Queen》と《Elsa - Queen Regent》の例だと、「Elsa」がキャラクター自身の名前で、「Snow Queen」や「Queen Regent」がバージョンの名前である。

  • 場に出すときはインクウェルの奥側に出す。いわゆる「召喚酔い」であるか否かを区別するために、「召喚酔い」のキャラクターはインクウェル側に少し近づけて置く。

アイテム (Item)

  • 何らかの道具。魔法の鏡とか、魔女の毒リンゴとか。

    • アーティファクト(またはエンチャント)に相当する。

  • 場に出してその能力 (ability) を使うことができる。キャラクターと違い、いわゆる「召喚酔い」に影響されない。

  • 場に出すときはインクウェルの奥側に出す。

アクション (Action)

  • 使い捨てのカード。プレイして解決されたらすぐに捨て札置き場に置かれる。

    • ソーサリーに相当する。

  • 一部のアクションは歌 (song) という特性を持っている。インク・コストを支払う代わりに、そのアクションのコスト以上のコストを持つ場にいる ready 状態のキャラクター1体を exert することでもプレイできる。

    • 例えば《ONE JUMP AHEAD》はインク・コスト2の歌であるため、2点のインクを支払う代わりに、インク・コストが2以上の場にいる ready 状態のキャラクター1体を exert することでもプレイできる。

    • この方法で歌をプレイするとき、そのキャラクターは「歌を歌う (sing a song)」と言う。

    • 代替コストのひとつ。MTG の招集に似ているが、キャラクターのインク・コストに条件があること、および1つの歌に2体以上のキャラクターを充てることはできないことに注意。

 歌がカードの能力ではなく特性のルールとして整備されているあたり、ミュージカル的な雰囲気を強く意識しているように思う。

ゲーム進行

  • 各プレイヤーは自身のデッキを持ち寄る。

  • ゲーム開始前にデッキをシャッフル (shuffle) する。

  • ゲーム開始時の手札 (starting hand) として7枚を引く。

  • 1回だけ開始時の手札の入れ替え (altering your starting hand) を行うことができるようだ。任意の枚数の手札を対戦相手に見せることなくデッキの底に戻し、手札が7枚になるように引く。その後、デッキを再びシャッフルする。

    • マリガンのようなもの。ただし回数が1回だけな点に注意。

    • 「ようだ」と書いたのは、QUICK START RULES にはこのステップについて "Skip this step in your first game" と書かれており、この "first game" が「人生で初めて Lorcana をプレイすること」を差しているのか、それとも「BO3のような複数ゲームによるマッチにおける最初のゲーム」を差しているのか、私には読み解けなかったためである。

  • 開始プレイヤー (the first player) をランダムな方法で決める。

    • 開始プレイヤーは最初のターンだけ DRAW 段階でカードを引けない。3人以上の対戦でも同様。

    • QUICK START RULES では手札入れ替えに開始プレイヤーを決める順序で書かれているが、開始プレイヤーは手札入れ替えに決めるべきのようにも思う。同 RULES 内では複数プレイヤーが手札入れ替えをする場合は "beginning with the first player" と書かれているためである。

  • 2人対戦の場合、自分と対戦相手が交互にターンを進める。3人以上の対戦の場合、自分の左手側にいるプレイヤーが次のターンを進める。これは上空から見ると時計回りになる。

  • あるプレイヤーがプレイした能力が複数のプレイヤーに同時に何かをさせる場合、能力をプレイしたプレイヤーから始めて、ターンの進行順と同様に左手側のプレイヤーへ順々に進めていく。

    • APNAP順ルールに相当する。

  • 手札の上限枚数は存在しないようで、ターン終了時のディスカードは行わないようだ。

  • インスタント・タイミングは存在しないようだ。

ターン進行

開始フェイズ (Beginning Phase)

 次の3段階からなる。ほぼそのまま、MTG のアンタップ、アップキープ、ドロー・ステップに相当する。

  • READY -- 自分の場にある exterted 状態のカードを ready する。

  • SET -- ターン開始時に効果を発揮するカードがあるならそれに従う。また、キャラクターのいわゆる「召喚酔い」が解けるタイミングもここ。

  • DRAW -- デッキからカードを1枚引いて手札に加える。ただし開始プレイヤーの最初のターンだけはカードを引かない。

メイン・フェイズ (Main Phase)

 次の行動を、特記ない限り任意の回数と順序で行うことができる。MTG の戦闘前後のメイン・フェイズと戦闘フェイズが合わさった感じである。

  • インク・カードのプレイ:手札の渦巻き付きのカードのオモテ面を対戦相手に公開し、ウラ向き状態でインクウェルに出す。1ターンに1回まで。

  • 手札のカードをプレイする。

  • 場に出ているキャラクターやアイテムの能力をプレイする。インクが必要な能力は数値と六角形のアイコンでインク・コストが、exert が必要な能力はナナメ向きカードのアイコンで exert コストがカードに示されている。

    • ただし exerted 状態のキャラクターやアイテムについては、exert コストが必要な能力をプレイできない。

    • また、いわゆる「召喚酔い」状態のキャラクターについても、exert コストが必要な能力をプレイできない。

      • アイテムについてはいわゆる「召喚酔い」はなく、場に出たターンの間でも exert コストが必要な能力をプレイできる。

  • 場に出ている、いわゆる「召喚酔い」状態でなくかつ ready 状態のキャラクターを exert して次の行動をさせる。

    • チャレンジ (Challenge) -- 対戦相手の exerted 状態のキャラクターと戦う。詳細は後述。

      • Ready 状態のキャラクターに対してチャレンジすることはできない。

      • いわゆる「ダイレクトアタック」は存在せず、対戦相手に対してチャレンジすることはできない。

    • クエスト (Quest) -- キャラクターの lore value に等しい点数の lore を得る。

      • 勝利に近づくためには必須の行動だが、exerted 状態になると相手キャラクターによるチャレンジの対象になるためリスクが大きくなる。この辺りの選択が戦略性のひとつか。

 自分のターンでやりたいことを終えたら、ターンを終了する意思を示し、対戦相手のターンに移る。

チャレンジ (Challenge) のルール

  • チャレンジした (challenging) キャラクターとチャレンジされた (challenged) キャラクターは、同時に相互に、攻撃力に等しい点数のダメージ (damage) を与える。

  • ダメージはターンをまたいで蓄積する。ダメージカウンターを用いて管理すること。

  • 与えられたダメージの点数が意志力以上のキャラクターは消失し (is vanished) 、捨て札置き場に置かれる。

 ダメカンを使う点はポケモンカードゲームを彷彿とさせる。

その他

  • 公式ツイッターによれば、第一弾の発売日は2023年8月18日で、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、スイス、オーストリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグで発売とのこと。日本での発売有無や発売日のアナウンスはまだないようだ。

  • 商品情報によれば、ブースターパックには12枚のカードが入っており、初弾 (THE FIRST CHAPTER) では2色の構築済みスターターデッキ3種類も発売される。他にもギフトセットや、スリーブやプレイマットなどのアクセサリもある。

  • Lorcana を開発したのはドイツのゲームメーカーであるラベンズバーガー (Ravensburger) 社。有名なゲームはスコットランドヤードか。ディズニーとの関係では、ディズニーの悪役マーベルの悪役が登場する卓上ゲームも作っているようだ。

所感

  • ディズニーというコンテンツだけあって、老若男女が楽しめる TCG になりそうな予感がする。日本でも発売してほしい。

  • 後発の TCG らしく、ルールもフレーバーもシンプルにまとまって整備されていると思った。既に MTG を知っているならとっつきやすいように思う。インスタントタイミングは存在しないが、クエストとチャレンジの駆け引きがあるので、戦略性はなかなか深いのではないか。

  • TCG はブースターパックによる拡張性が醍醐味だが、初弾の構築済みデッキ3種類のカードの色を入れ替えるだけでもそれなりに遊べるのではないか。お財布に優しく家族や恋人でカードゲームを楽しむのにもいいかもしれない。

  • 色の役割の記事も近いうちに書きたい。