【講演】移民の文学 祈りの文学 アキール・シャルマ×小野正嗣

2018年3月15日、東大駒場キャンパスで行われた講演会のレポートです。

以下、新潮社さまのサイトより引用。

2015年に第2回フォリオ賞を受賞した『ファミリー・ライフ』の日本での刊行に合わせて来日するアキール・シャルマ氏のトークイベント。インドのデリーに生まれ、8歳でアメリカに移住。少年期に兄が悲劇的な事故に遭い、家族とともに長期間の介護を続けたシャルマ氏は、プリンストン大学でポール・オースターなどに師事して2000年にデビュー。自身の体験を元にした本作品を13年近くかけて書き上げた。一方で2014年、イギリスのノリッチで開催された文芸シンポジウム参加した作家の小野正嗣氏は、脳腫瘍で兄を失いつつある中で、シャルマ氏と出会い、本書を翻訳することを決意する。比較文学を研究する作家とインド系の移民作家。互いに兄を失った体験を持つふたりに、『ファミリー・ライフ』の創作背景、さらには祈りと文学について存分に語り合っていただく。

各所で評判だった『ファミリー・ライフ』、今度読みたいなと思っていたところに、こちらの講演会を知ったのが前日。未読のままでしたが、またとない機会と思い拝聴しました。

●本書が生まれた背景
アキール氏は、きっかり5時間(ストップウオッチで計測)机に向かい小説を書くことを日課とし、12年間かけて本書を仕上げたそうです。自分の人生に近いものを書いていたため、書いてみて「違う」と感じたり、書いているうちに思いが変化したりしたため、これだけの時間が
かかったとのこと。

●小野さんが訳された背景
おふたりは2014年のシンポジウムで出会ったそうです。多くの共通点があったおふたり。小野さんが訳してくださったことについてアキール氏は「ギフトだと思う。いつもはギフトを贈りたいほうだけど、今回はマサからのギフトをもらった」と。たいして小野さん「訳す行為自体、こちらこそギフトを受け取っているなと感じた」。

●どのくらい実話なのか
できるだけ事実のまま書きたかったが、ドラマチックに変えた部分もある。介護については、実際兄を罵ったこともあった。でも、自分だけが教育を受けることでいつか罰を受けるのではないかと感じていた。いまでも毎日祈っている。祈りは誰にたいしてでもいい。神さまでも、スーパーマンでも。

●少年のころ
重苦しい日々のことを書くことや、本を読むことで、心が軽くなると発見した。ヘミングウェイが好きで、どうやったら作家になれるかと考え始め、見るもの全て「書く」ことに繋げるようになった。音をどう描写するか考えるなど。

●本書の構造
ふたつの始まりとふたつのエンディングがある。これは子どもの声に留まらず、より洗練され苦しみから抜け出したところを書きたかったため。非対称性があるのは、現実も非対称でずっと続いていくもののため。

●学生に教える上で心がけていること
アキール氏「ひとつひとつの単語が、なぜそこにあるのか理由が必要だと教えている。」
小野さん「他人にどう読まれるかは気にせず(それはプロになったら嫌でも意識するので)まずは自分の好きなように書いてみたらいい」

●本書で伝えたかったメッセージ
本にメッセージはないと思う。読書は体験だから。自分はひとりじゃないと感じられて、他者への思いやりを持てるようになる体験。

●質問「家族の記憶を書くのに、なぜ自伝ではなくフィクションとしたのか」
素晴らしい質問。ノンフィクションにするなら、細かいことすべてが実際にあったとおりにしなければならないと思った。そうすると感情の部分が埋もれてしまう。フィクションは感情、兄にまつわる家族の気持ちを描くのに適していた。

アキール・シャルマさん、まじめで誠実な方なのだなあと全身から感じられました。このあとのサイン会では、ひとりひとりの名前を入れてくれた上に「仕事は何をしてるの?」など聞いてくれ、みんな別々のメッセージを書いてくださいました( ^ω^ )

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