【講演】カズオ・イシグロの世界

2018年3月11日、上智大学にて行われた表題のトークイベントに行った際のレポートです。

●土屋先生とイシグロ作品との出会い
フィンランド愛好会のクリスマス会で、フィンエアーのチケットが当たり、ヘルシンキへ。そこでNewsweek を買い、書評欄に『日の名残り』が載っており読んでみたいと思っていたところ、中央公論社から翻訳の依頼が来た。それまでイシグロのことは知らなかった。

●イシグロ作品の魅力とは?
『日の名残り』は特にイギリス的だと言われている。他の人は、英語がぎこちないとか、日本人で大学受験のための英語を勉強した人が英語で書いたように思えるとも言っていたが、土屋先生は英語のよしあしについては言えない。翻訳者は、ただそこにあるテキストを訳すだけ。言ってみれば執事という職業の人と会ったこともないし、イギリスに行ったこともない。「翻訳者=媒介者」との意識はなく、テキストから「この人はきっとこういう話し方をするだろう」と見えてくる。

●会話の訳がうまいのは耳がいいから
土屋先生は子どものころから講談がお好き。洋書はオーディオブックで聞くことが多く、そのときに感じた第一印象を、翻訳で再現できているかに心を砕いている。ただしイシグロの作品は、本国出版されるより早く原稿を紙で受け取るので、先にオーディオを聞くことはない。

●土屋先生は好奇心旺盛
フィンランド愛好会、英語でジョークを言う会などに入っていた。ギリシア語も興味があり勉強してみたが、発音がわからないのがもどかしかった。やはり耳(音)が重要。

●世界的にイシグロはどう読まれている?
本国以外ではフランス、日本で人気。アメリカではそこまで読まれていない。『わたしを離さないで』を読むと、なぜみんな反乱を起こさないのか!と感じるらしい。

●イシグロとのエピソード
接待中も周りに気を配ってくれる良い人。The Remains of the Dayの意味について、what remains of the dayということかと質問したところ、イシグロ本人より先に奥様が「はい」と答えられた。奥様はイシグロ作品をいつも最初に読み、意見を言ってくれるらしい。

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