見出し画像

自己紹介記事④~クラブスタッフ生活の始まり~

「エントランスとホールやったらどっちで働きたい?」
クラブスタッフ初日、とある華金の夜。
オープン前のクラブの事務所でタトゥーまみれの社員から質問された。
どうやらクラブスタッフにも役割があるようで、大きくエントランス・ホール・バー・VIPで分かれているらしい。
「えー。。。ホールの方でお願いします。。」
とっさに女の子と触れ合える機会の多そうなホールスタッフを志願した。

社員「ほな、ちはる!聞いてたやろ、新しい子入ったからホール業務教えたげて。あと自分下の名前なんて言うん?」
近くの女性に声をかける。その女性はコクリと頷くだけだった。
僕 「SIMBAって言います」
社員「おーけー!SIMBAな!よろしく。ほなあとは、ちはるの指示に従って」
僕 「わかりました。。」
(下の名前で呼ばれるなんていつぶりやろ、、)
そう思いながら僕は、ちはると呼ばれる女の先輩のもとに行った。

僕  「あのー、今日からここで働くことになりましたSIMBAです。よろしくお願いします。」
ちはる「よろしくー。タバコ吸うなら持っていきな。用意出来たらホール行って準備しよ」
僕  「了解です」

僕は渡された制服に袖を通しながら人生初のインカムを付けた。
着替えつつ話して分かったが、ちはるさんはどうも僕の2歳上らしい。2歳差に見えない落ち着きがある一方で、これまで遊んできた風格というか、言い表しにくい色気を感じる人だった。綺麗な人だな、と思った。

ちはるさんは一通り僕にオープン作業を教えてくれた。
時折見せる笑顔が、綺麗めな見た目とのギャップで心惹かれる。
気づくと時計は22時前。オープンの時間だ。
「お願いしまーす!!!」
ブース向こうのDJにちはるさんが声をかけると曲が流れ始め、クラブがオープンされた。

オープンされたばかりのクラブのフロアは客がほとんどいない。
スタッフの方が多いくらいだ。

インカムをつけた右耳からは
「OO入りました!おはようございます!」
と大きな声が聞こえてくる。
(元気な声だな。これから俺の先輩になる人たちか。。仲良くなれるかな。。)

「SIMBA!こっちおいで」
ちはるさんから声がかかる。
ちはる「新しく入ったバイトの子!仲良くしてあげてな!」
僕       「よろしくお願いします!」
そう言って後から入ってくる先輩社員やバイトの人たちに紹介してくれた。
皆、見た目はイケイケだし正直怖かったが気さくに話してくれた。
初対面でも構わずイジってくる人もいる。
(人って見た目じゃ分からないもんだな。。)

そこから僕は、ちはるさんの後を追いながら淡々と教えてもらった業務をこなしていった。
気づくと24時前。インカムに社員からの指示が入る。

「シャンパンタイムきたから、ホールスタッフの皆準備して!」
(シャンパンタイム???)
そう思いながらも先輩たちの移動するあとについていった。

吹き抜け2階のバーカウンター前でホールスタッフの先輩たち数人がシャンパンタイムなるものの準備をしていた。
聞くとシャンパンをもってフロアを練り歩き、最後はお立ち台に上がってシャンパンを客に振る舞うイベントだそうだ。

フロアに目をやると、オープン前とは比べ物にならない客の数。
顔を上げると、その中でリーダーのような男の先輩から
「お、自分が新入りの子か!えらい黒いな!(笑)」
日サロで焼いている肌色をいじられた。少し嬉しかった。
その人が続ける。
「ほなそろそろシャンパンタイムや。次の曲からいくけど今日は新入りの子にシャンパン開けてもらうから!みんなサポートしたげてな!」

(まじ???聞いてないねんけど。。。)
僕「わかりました」
(やるしかないんや。。モテるためにはグダも楽しまな。。)
はやる気持ちをそうやっておさめた。

インカムから社員の声
「よっしゃ!この曲からスタートや!行って!」
ベルやLEDライトを持った先輩たちに囲まれ、僕はシャンパンを片手に階段を駆け下りた。

爆音のEDMがフロア中に響く中、それに負けじと先輩たちがベルを鳴らす。
僕は夢中で叫んでいた。
(なんやこの感覚。ちょっと楽しいかも。)

人ごみをかき分け、メインフロアに到着すると先輩たちに誘導され僕は人生で初めてお立ち台に上がった。
(これがお立ち台からの光景か。。!)
今までにないゾクゾクする感覚。初めての感覚だった。
耳覚えのある爆音EDMに合わせ体を揺らす。
DJからのカウントダウンの声。

「3・2・1、、、」
パーーーーーーーーーン!!!!!
お立ち台横のバズーカが発射され、気づけば僕はシャンパンの蓋を開けていた。めちゃくちゃ楽しかった。

シャンパンを求めグラスを差し出してくる客に、僕は叫びながら酒をふるまった。酒がなくなり、お立ち台を降りるとそこには、ちはるさんがいて
「SIMBA!いい仕事してたで。なんかかわいかったよ(笑)」
と労ってくれた。

「今日は一日お疲れさまでした!えー、、、、」
僕を面接してくれた副店長が終礼のあいさつをしている。
時刻は朝の5時。店が閉まりクローズの作業も一通り終わると残ったスタッフ全員で終礼をするのが決まりらしい。

(なんか今日は、初めての感覚が多かったな。。)
下の名前で呼ばれたのなんて小学生以来だったし、クラブで叫びながらシャンパンを開けたのも初めて。ちはるさんから声をかけてもらえたのもすごく嬉しかった。

そんなことを考えていると終礼が終わった。
「シャンパンタイム見てたよ。君入れてよかったわ(笑)」
副店長から声をかけてもらえた。
「。。。ありがとうございます!!!」

この日、一日だけでも僕はモテる男に大きく近づけた気がした。

つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?