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【column #19】私の映画体験 / shutoo grinramma

皆さん映画は見ていますか? 

最近ではネットフリックスやアマゾンプライムで見放題なので敷居は下がった分、どの映画体験も並列に収まってしまいがちなのがもったいないなぁと思う昨今。 

今回は自分の人生の中で影響を与えられた映画体験を3つほど紹介したいと思います。 

あくまで映画体験として読んでいただければと思いますので、文章は当時の感性に合わせて?書いてます。細かい情報は他のインターネットで!

① 小2の時にレイトショーで見た
「トータルリコール」

当時映画といえば「東映まんが祭り」や「平成ゴジラシリーズ」は映画館で見ていたものの、初めて映画で衝撃(トラウマ)を植え付けられた一本
当時全盛期のアーノルドシュワルツネッガー (以下シュワ)主演。

予告篇も味付けが激濃


今だったら確実にPG15指定であろうエログロバイオレンスSF大作も当時は8歳で見に行けていたのだから、つくづく時代は変わる。
 
12月の寒い夜、映画行くぞ! と父親に連れられて行ったセントラルシネマ延岡(現在の延岡シネマ)。

ストーリーの触りを簡単に説明すると、
近未来の地球、ムキムキの建設労働者シュワちゃ んが火星に行く夢ばっかり見るものだから、擬似体験装置(現在のVRの進化版みたいな装置)を使って組織のエージェントとして火星に行くのだけれど、実際は火星のエージェントの方が本当で、地球での記憶は偽の記憶だと判明して...

こっから先は、何が本当で何が偽物なのかわからないまま怒涛のバイオレンス(エスカレーターで打ち合いになり、流れ弾に当たった一般市民を盾にする悪役マイケルアイアンサイド!)と、SFスペクタクル(自動運転のタクシーにわざわざ喋る人型ロボットが付いていて、しかもなんか表情が怖い! そして最後シュワにもぎ取られる! でも後ろで喋ってる、そして爆発!) そしてエロ(地球での妻役、シャロンストーンとのナイフ格闘と、その後のエアロビクス姿の肩紐くるくる誘惑!)が繰り広げられる。


植民地化した火星ではある組織に空気を独占されている。それに反旗を翻すレジスタンスがいて、火星の環境のせいで彼らの一部は身体が変異している。その中に乳が3つの娼婦(レジスタンスの本拠地は娼館が隠れ蓑)が居て、小2の自分は驚いた。コソっと父親に「この人は本当におると!?」と思わず聞くと「これは本当におるな」というので、後々見返すまでは特殊メイクではなく本物だと思っていた。もはやこれも映画の一部。
 
  
大人になってみればポールバーホーベンという監督のダイナミック個性が色濃く反映された映画として理解できるものの、火星に侵入するシュワが渡航審査で何故か中年のオバちゃんに変装し、「滞在期間は?」の質問に、「2週間よ」と返事したところでバグってしまい、最終的にオバちゃんの顔が割れていってシュワ登場、オバちゃんの顔爆発!など書いていてもよくわからないやり過ぎでも最高な演出に、子供には、なななんかすげえ!
としか理解出来気なかった。

おばちゃんに変装する意味は不明ながら
この映画の代名詞的なシーン

  
小6の頃には、映画好きの友人いいちゃんとみつくん、3人で映画館に入り浸る日々を送るのだが、きっかけはこの1本だったのかもしれない。強烈なトラウマとアホほどスペクタクルな映画体験。

② 高校1年の時
深夜のケーブルテレビを録画して見た
「ソンビ(DAWN OF THE DED)」  

このジャケットの柄のTシャツを購入
恐らく親に捨てられたはず(哀)

宮崎市にあった「ZERO ZERO UFO」で買ったゾンビのTシャツがきっかけで、ちゃんと映画も見らんと! と思っていた矢先、深夜放送を録画して見た映画。

しかもこの時に見たのが3時間近くあるディレクターズカット版で、当時の3時間といえば途方もない長時間だと思っていたが、これが良かった。見たいとも言ってない友達に強引に見せたりしてた。

 大まかなストーリーは、  

世界中で謎の死体蘇生が起こり、蘇った死者が生きた人間を襲い始める。次第に崩壊を始める人間社会とゾンビから辛うじて生き延びる4人。たどり着いたショッピングモールに逃げ込むのだが...
 
という、のちのウォーキングデッドやゾンビもののマンガなどを見ている人には馴染みのある話かと思う。
  
赤い絨毯。主人公の女性がうなされて目を覚ますと、そこは放送局の一室。避難施設の情報が錯綜する放送ブースと、スタジオではその蘇った死者の扱いについて学者とジャーナリストが言い争う。ゲットーのアパートでは蘇った死者(家族)を匿う住民たちと機動隊の銃撃戦、そこに現れた片足の黒人牧師は「祈りは捧げた、あとは君たちの仕事をしてくれ。人間同士の殺し合いは無意味だ。」と行って立ち去る...let me pass...
 
この冒頭15分で高校生の自分はガッツリ釘付けにされてしまった

当時録画したビデオテープ。
背表紙までコラージュでそれっぽく製作する
気合の入り方!

3時間モードで録画したビデオの粗さ、何故か赤いペンキで塗りたくった14インチのブラウン管テレビで見たのもまたこの世界観と合っていたのかもしれない。プログレバンドのゴブリンの手がける音楽のアナログシンセの質感がまた耳に残る。

さすがに今と比べたらゾンビの描写はチープでも、逆にあてもなく彷徨う青白いゾンビ達はとて も不気味だ。 

最初は楽しかった4人だけのショッピングモールでの籠城生活 (物質社会の楽園!)、次第に変化する見えない未来に対する価値観 (すれ違う男女! 虚しい食卓)、生前の習性でショッピングモールに集まるゾンビの哀愁 (ちょっと人間に恋している描写が可愛い!)と、ゾンビを恐れる一方で、おもちゃや獣のように扱う生き残った人間達の存在。
ゾンビ映画とは社会を描く映画だと声明しているような作品。
 
エンディングに流れるショッピングモールのテコテコ楽しげな音楽(以来たまに口ずさんでし まう)とそれを断ち切るように鳴り響くレクイエムのような鐘の音までが、セットで最高です。  



③ 20代後半に渋谷ユーロスペースで見た
「サウダーヂ」

当時1枚の映画チラシを見て、ビビっときた。
それは「国道20号線」という映画で、チラシには地方の国道沿いであろうドンキホーテとパチンコ屋の駐車場でヤンキー座りをしたベロアジャージを着た男女が、睨みつけるでもなく俯くでもなく、どこか定まらない視点で佇んでいる。  
ヤンキー映画や任侠映画のような視点(カッコ良さやスタイル)ではないその視点に、自分の知っている地方のリアリティーを感じて、これは見らねばと即断。

そして渋谷のアップリンクでやっていた「定例上映会」に行き、十数人の観客と監督、出演者と鑑賞。そして空族(くぞく) という映画製作集団を知ることとなった。
 
その空族が2011年に公開したのが「サウダーヂ」という映画。 この空族は監督の富田克也、脚本家の相澤虎之助を中心としたインディー映画製作集団で、「国道20号線」製作時には監督がトラック運転手をしながら山梨県で映画を製作し、「サウダーヂ」も 監督の地元、山梨県で製作された作品。
 
中心街の空洞化が進み、労働も非正規化、外国人労働者が流入する地方都市で、不器用な土方の男とフィリピンから出稼ぎに来た女、家族に問題を抱え鬱屈していくラッパーの男と東京から出戻った同級生の女、家族で移住してきたブラジル人労働者達が、それぞれの環境と社会の中、 理想と現実の狭間(行き違う視線=それぞれの望郷)でもがいていく群像劇。
 
ラッパーの男役として田我流(所属するスティルイチミヤも出演)が主演の一人。
劇中でのフリースタイルも、ハリボテのヒップホップ風味の映画とは違う、現役のラッパーとしての矜持を感じるものがあり、ブラジル人労働者との確執で右傾化していく内面と共に、ラップはあくまで楽しくやるスタンスのクルーとのすれ違い、そして悲劇的結末がまた切ない。  

ある種、ヒップホップ映画であり、ヤンキー世代のその後の生き方を描く映画でもあり、実際の社会背景に基づいた地方都市映画であり、国際(異文化)映画であり、男女のすれ違い映画であり、繋がりと孤独の映画であり、群像劇である、というとても多角的な見方の出来る映画だと思う。
 
そして、劇中に登場する人物にいちいち実感を感じる、というか「ここにいる」という実在感を感じさせる(セリフ、振る舞い)、地方の濃いキャラクター、様々な人種と価値観の人々がそのままスクリーンに立ち現われる、この生々しさがこの映画の魅力。キャラが濃すぎて笑えるかと思えば、「それって笑えない現実がそうさせてるよな」という怖さが混在する面白さ。 

「国道20号線」と「サウダーヂ」の
パンフレットなど。インディー映画ならではの
製作の裏側も面白い!


言い出したら切りがないあのシーン、このセリフなど多々あるが、またこの映画の凄いところは空族の方針で、劇場でしか見られないというところ。ディスクやサブスクでは鑑賞出来ないというこのスタンスも映画体験原理主義とでも言おうか、ハードコアなスタンスであり、今の時代には珍しい。ある意味で映画を映画館で見るしか無かった昭和のVHS登場以前の映画体験にも近いかもしれない。
 
 友人の五十嵐とユーロスペースで「サウダーヂ」を見た帰りに、うどん屋でまだ消化しきれない映画の話をしながら語り合った。
そしてその後3回ほど上映映画館を追いかけて鑑賞。次第にこの映画の世界にハマってしまい、ついには甲府市のロケ地繁華街巡りもしてしまった。そんな生涯ベストに出会った映画体験

現在も定期的に全国の劇場で上映会が開催されているので、気になった人は観てみて欲しい。


こんな感じでザッとした私の映画体験になります。色んな出会い方をすることで、また映画の面白さは奥行きが深くなると思うので、皆さんとりあえず映画館とか大切にしよう! (たまには行こう)

shutoo grinramma(シュトウアキヒロ)

ペインター、シルクスクリーン愛好家。
映画好きが高じて地元映画館の自主制作グッズを手掛ける。

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