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まこもと水鳥たちの物語➖「マコモ菌」の発見➖ 第4話「母の病気」

「母の病気」

ひろしが10歳になった頃でした。

母親がひどい頭痛を訴えるようになり、

ひろしは毎日、一生懸命に看病しておりました。


しかし、母の病はなかなかよくならず、大変往生しておりました。

その日も、ひろしは、いつものように母のために、お医者に薬をもらいにいきました。


しかしその日に限ってお医者は、

「お前の母さんには薬はやれない」
と、いうのです。



それを聞いて、
すっかり頭に血がのぼったひろしは、

「今まで薬を飲ませておいて、病も治らぬうちに、
もう薬はやれないとは、なんてお医者なんだ」と、くってかかりました。


しかし、お医者はこういうのです。

「お前の母さんの病状はあまりにも重症なため、
この薬は強すぎて、これ以上飲ませられねえ」と。

ひろしは、治療途中にしてお医者に匙を投げられ、あんまり腹が立ったので、


「強すぎてだめなら、弱い薬さ出してけろ」

「弱い薬がないなら、今すぐそれを作ってけろ、薬を作るのが医者の仕事だ」

「それもできんなら、弱いの強いのと言っとらんで、もともと病気にならん薬さ作ってけろや」

と、さんざんわめき散らしました。


しかしお医者は、

「そんな都合のええ薬は、どこ探してもねえ。お前の相手さしている暇はねえで、
とっととけーれ」


と、ひろしを追い返しました。

ひろしは、小さな体で力の限り、
わめき訴えたので、力が尽きました。

そして、あんなに苦しんでいる母に、
もう何もしてやることができないのか思うと、

自分の非力さに打ちのめされて、
頭が真っ白になってしまいました。


意気消沈して、
ふらふらと歩き続けていると、

いつの間にか、
あの「まずん」の小屋に足が向いていていました。
気づくと、擦り傷を治すのに使っていた、

真菰を擦り潰して作った粉を
手ににぎりしめていました。

ひろしは、この粉を「マコモ粉(こ)」と呼んで、
時々手当のために求めてくる人に、
配っていました。

ひろしは、この「マコモ粉」を袋いっぱいに詰め込んで、

急ぎ足で家に戻ると、その粉を水で溶き、大きな茶碗に入れて、

何もいわずに母に差し出しました。

ひろしの母は、

「今度の薬は、苦くも辛くもないなあ」

「今までの薬とは、随分違うなあ」
と、あれこれいいながらも全部飲みました。

そして、2杯目を飲み終わると同時に眠くなったのか、
コテっと横になり、すやすやと眠り込んでしまったのです。

あんまり突然に母が眠ってしまったので、ひろしは大変心配になりました。

不安そうな顔で、ひろしは母の寝顔を見守っていましたが、

ぐっすり眠っているようなので、障子を閉め、部屋の外で様子を伺っていました。

3時間ほど経った頃でしょうか。

部屋の中から、ひろしを呼ぶ母の声がしました。

母はひろしに、「近所のおばさんを呼びにいくように」と、いいつけました。

おばさんは急いでやってきて、母の部屋に入っていきましたが、

ひろしは中に入れてもらえませんでした。

部屋の中からは、二人の話し声がガヤガヤ聞こえてきます。

ひろしは外で、その声を心配そうに聞いていましたが、
何を話しているかは、よく聞こえません。


しかし「大変な、オリモノが出た」

という大きな声が部屋の中から聞こえてきたので、

天井から蛇でも降りてきたのかとびっくりして、慌てて部屋に入ろうとして、

またも母たちに追い出されてしまいました。



後でわかったのですが、

どうやら、ひろしの母はお産の時の後産のものが、まだ体内に残っていて、

そのことが災いして、ひどい頭痛を起こしていたようです。


ところが「マコモ粉」を飲んで眠った後、しばらくしたら、

大変な量のオリモノとともに、その残留物が一気に排泄されたのです。


それっきり、母の頭痛は、すっかり良くなりました。

それどころか、まるで生まれ変わったかのように体は丈夫になり、

元気に働けるようになりました。

続く

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