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まこもと水鳥たちの物語ー「マコモ菌」の発見ー第3話「真菰(まこも)の博士」

「真菰(まこも)の博士」
それから数年の月日が経ちました。
この日もまた「まずん」には、美しい水鳥たちが空から水面に降り立っては、
優雅に泳いでいます。しかし、その数は前より増えたように見えます。

おや、何やら遠くの山のほうから、賑やかな声が聞こえてきました。
例のごとく、“自然児”であるわんぱく小僧たちが、また山から駆け下りてきました。
―いえ、そう思いきや、山の中腹から、
わんぱく小僧たちがコロコロと転げ落ちてくるではありませんか。

近くで見ると、岩がゴロゴロ転がっていたり、切り株が出っぱっている斜面です。
子供たちはそこを、転げ落ちては、痛い痛いと叫び、また転げては笑っています。
膝やら腕やら、あちこちを擦りむいている様子。
子供たちは、大丈夫なのでしょうか。

けれど、意に介さない様子で、転んでもすっくと立ち上がり、
「まずん」めがけて、再び走り始めました。
山と「まずん」の間にある、平らな草原を駆けている子供たちの眼前に、
小さなボロボロの小屋が現れてきました。以前にはなかったものです。

子供たちは、こぞって小屋の中に消え、「バタン」と音をさせてドアを閉めてしまいました。いったいここで、何をしているのでしょうか。
どうやらここは、子供たちの秘密基地のようです。

しばらくして、「ギギー」と音がして、ゆっくりと小屋のドアが開きました。
そっと出てきたのは、誰でしょう。そうです、ひろしです。
その両手には、しっかりと真菰の葉や茎が握られています。

この小屋は水鳥たちを守るためと、真菰の実験研究のために、
ひろしが自分で建てたのでした。といっても、そのこと自体がひろしにとっては
楽しい遊びでしたので、ここはひろしの秘密の遊び場なのです。

とうとうひろしは、この小屋で寝泊まりするようになり、小学校にもろくに通わず、
仲間を集めては、真菰を石ですり潰したり、噛んだり、舐めたりして、
真菰の謎を解き明かす遊びに夢中になりました。

あれから、水鳥たちが真菰で傷を癒しているのを、
ひろしは何度も目の当たりにしました。
白鳥だけではなく、雁や鴨たちも同じ方法で傷を癒して飛び去って行きました。

水鳥たちは、真菰の治癒力を昔からよく知っていたのです。
銃で撃たれたような重症であっても、傷を癒し、その弾を吐き出させるほどの、
そんな強い癒しの力が真菰に備わっているのだと、ひろしは日に日に確信するのでした。
真菰が一面に自生している「まずん」は、本当に水鳥たちの療養所だったのです。

そして、水鳥だけでなく、動物や人間の傷も真菰で癒すことができるのではないかと、
ひろしが考えたのは、しごく当然の流れでした。

ひろしたちは、危ない山の斜面から、わざと転がってきては、どんどん生傷を作ってきます。そして、水鳥がやっていたのを真似して、小屋にこもり、真菰で自分たちの傷を治すのです。

ひろしはそうやって、傷ついた馬や牛などの動物、ケガをした子供たちに真菰を塗っては、まだ誰もやったことがない実験を繰り返していました。

今日も、「まずん」の岸辺に真菰を握りしめたひろしが、力強く立っています。
きらめく太陽の光が水面に反射して、
水鳥たちを嬉しそうに見守っているひろしの横顔を照らし出しました。
ひろしは、10歳になる前には、いっぱしの真菰の博士になっていたのです。

続く

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