見出し画像

おかあさんゆび(11話と12話の間の話)③

前回の話はこちら


働き始めて1年、ユミは一通り仕事を覚えた。
強靭な肉体と不屈の精神力で過酷な朝4時起きにも耐え抜いた(途中から「寝ない(別名オール)」という技を覚え、同時に「寝る(昼寝)」と言う技も覚えた)。
正直何か事件を起こすかもと思っていた加藤も、ユミの働きぶりと従業員に与える良い影響(パートのおばちゃんに慕われ、研修生をさぼらせない圧力)に感心し、ようやくユミの仕事も軌道に乗ってきたところだった。

しかしそこから2年後、謎の疫病の流行で酒蔵の主力商品の売り上げが激減し、酒蔵存続の危機が訪れてしまう・・・。



グエン「ハァ・・・。」



ユミ「どうした? 腹でも減ったか?」


グエン「ユミサン・・・。チガウンデス。クニノハハガ、タベモノモナクテ、マスクモゼンゼンナイミタイデ・・・。」


ユミ「そっか。じゃああたしが良いマスク職人紹介してやるよ。あの獣神サンダーライガー様のマスクも作ったことがある人でさ。で、グエンのお母さんどんなデザインが好きかな?」

グエン「ユミサン、ソノマスクチガウヨ・・・。」


ユミ「だよな、ごめんごめん。 じゃあさ、これ送りなよ。この前カトちゃんからもらった30枚だけどさ、あたし仕事以外は使わないから。」

グエン「エ? イインデスカ?」


ユミ「いいよ。いつもグエンはあたしの炊事洗濯たばこの買い出しに部屋の掃除、肩もみにフェイシャルエステだろ、色々やってくれてるからな。」


グエン「ア、アリガトウゴザイマス!!」


ユミ「あとこれ(5,000円)。ついでに食べ物も送ってあげなよ。」


グエン「アリガトウゴザイマス!! アリガトウゴザイマス!!」


ユミ「いいって。その分また働いてもらうからさ♪」

グエン「ハ、ハイ・・・(イマ、ユミサンメガワラッテナカッタヨ・・・)。」





加藤「はぁ・・・。」



ユミ「ん?どうしたカトちゃん。カトちゃんもウルティモドラゴンのマスク欲しいのか?」


加藤「ユミさん・・・。それどころの話じゃ・・・。」


ユミ「ん?顔にありえない縦線入ってるな。仙台の母であるあたしでよかったら5,000円で相談に乗るよ?」


加藤「はぁ・・・。このままだと酒蔵、続けられないかもしれません・・・。」


ユミ「そりゃ大変だ。またあたし無職か~。まあでも何とかなるかな。いや、待てよ。 グエン1号から~グエン15号まで15人無職になるんだよな。パートのおばちゃんもか。そりゃまずい。」


加藤「コロナの影響で、今まで卸していた酒屋さんや居酒屋が軒並み休業で、今残ってるのは北海道の1店舗だけで。国の補助金の申請はしましたけど、いつ振り込まれるか分からないし・・・。」


ユミ「そっか・・・。 ん? あ、閃いた! ちょっと待って。」


加藤「え?」


ユミ「かとちゃん、半年ぐらいは持ち堪えられる?」



加藤「半年・・・、そうですね。何とか半年なら・・・。」


ユミ「オッケー。じゃあプロジェクトX発動。」


加藤「は? (大丈夫かな・・・)」



ユミはおもむろに携帯を掛け始める。




プルルルルル





ユミ「あ、もしもし、あたし。久しぶり~♪ 元気だった? それでさ、ちょっと頼みがあるんだけど聞いてくれる? うん、・・・・・・これから送るから・・・・、そうそう。 でさ、あいつに・・・・、うんうん、その後は・・・・、そうそう。 さすが理解が早いね~。 じゃあよろしく!! あ、あとさ、落ち着いたらこっちに遊びに来なよ。 美味いカキがあるからさ。 うん、じゃ~ね~。」




ユミ「オッケー。 話がついた。」


加藤「ユミさん、一体誰と話してたんですか?」


ユミ「エカテリーナ。あたしが前に働いてたキャバクラの店長の愛人だよ。」


加藤「キャバクラの店長の愛人って・・・。」


ユミ「直接店長に連絡しても良かったんだけどさ。半年ぐらいかかるプランだから、より安心できる確率の高い方に連絡した。店長途中でばっくれる可能性高いからね。」


加藤「はぁ。」


ユミ「まあ途中聞こえてたと思うけど、あたしのプランはこんな感じ。

①最初に一升瓶12本を店長に無料でプレゼント
②その後、毎月一升瓶24本を50万のお買い得価格で送りつける
③値段も高いし、自分の店で出すには限界があるので、知り合いの店に配ったり、ネットで売り始める
④ネットで転売は値段が吊り上がって酒蔵にもマイナスなので、エカテリーナに見張ってもらい、動きが出たらあたしが登場。渾身の喝を入れる。
⑤ネットで転売できなくなると、知り合いの高級店にしか卸せなくなって、そこから注文が入ればウチにとって新しい販路が出来上がる

って算段だね。」



加藤「でも今はどこの店も休業じゃ・・・。」


ユミ「金持ちは金を使わないと死んじゃうからね。闇営業は絶対無くならないよ。」


加藤「ただ、違法な店との取引は・・・。」


ユミ「そこは大丈夫。あたしが最終チェックするし、店長もその辺の嗅覚はしっかりしてるからさ。 だってさ、銀座の高級寿司屋の職人が政治家の家で握ったって何の違法にもならないだろ?」


加藤「まあ・・・、そうなのかな?」


ユミ「永遠にこのやり方が通用する訳じゃないけど、今は酒蔵を守らないと。多分注文がそこそこ安定して入るまでに半年ぐらい掛かるけど、上手くいけばうちの酒のブランドイメージも高級日本酒で定着させられるし、一石二鳥とはこのことだね。」


加藤「だといいんですが・・・。」


ユミ「上手くいったらエカテリーナこっち呼ぶからさ、接待してやってよ。むちゃくちゃ綺麗なロシア人でさ~、身長182cmだったかな?」


加藤「あ、それはまた改めて・・・(ほんと大丈夫かな?)」





つづく








この記事が参加している募集

サポートなんてとんでもない!!私の記事で少しでも笑ってもらえたら、それが充分サポートです!!