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おかあさんゆび(11話と12話の間の話)④

前回の話はこちら



あれから1年後・・・。


ユミ「カトちゃん、グエン隊にさっき何かあげてなかった?」


加藤「あぁユミさん、グエンさんたち本当によく頑張ってくれたので、臨時ボーナスです。 はい、これはユミさん分。」

ユミ「お! いいねぇ。 じゃあ今日はパーっと行くかい? にしてもさ~、あたしもここまで売れると思わなかったよ。 あの店長も商売の才能あったんだな。」

加藤「いや、ほんとに。でもきっかけはユミさんですから。ありがとうございました。」


ユミ「いやいや、あたしもまさか店長が苦し紛れに海外に日本酒売るとは思ってなかったし。 正直闇営業で告発されて巻き添え食ったらやばいって思ってたしさ。」

加藤「(それは大丈夫って言ってたよな・・・)」

ユミ「たださ~、よく考えたらこの酒蔵で働いてるのってほとんどベトナム人じゃん?ほんとラッキーだったよな。」

加藤「ですね。アメリカから注文入っても言葉の問題は全然無いし。ほんとグエンさんたちには感謝の言葉しかありません。」

ユミ「まあみんなハッピーなのはいいことだ。じゃあ今日は早めに切り上げてパーッと・・・」

加藤「ユミさん、さすがにまだ9時30分ですから・・・」






それから半年後・・・



加藤「ユミさん、ちょっといいですか?」


ユミ「何?また臨時ボーナスくれんの?」


加藤「いや、そうではないんですけど。ちょっと事務所でいいですか?」


ユミ「何か嫌な予感しかしないけど。何の話?」


加藤「ちょっと事務所で・・・。」



・・・



加藤「すいません突然。実はユミさんにお願いがありまして・・・。」


ユミ「なんだい? もう『かかと落としで瓦が何枚割れるか選手権』に出るのは勘弁だよ。結構足上げるのに事前のストレッチがきついからさ~。」


加藤「その大会も初耳ですけどね。 いや・・・、真面目な話です。 実は・・・、ユミさんにこの酒蔵の蔵元をお願いしたいんです。」


ユミ「ん? 何であたし? あんたまだ若いじゃん。」


加藤「いや、50は全然若くないですよ。でも理由は年齢じゃないんです。」


ユミ「じゃあ何で?」


加藤「すいません、病気です。 不覚にもガンです。」


ユミ「そっか。死ぬの?」


加藤「いや、医者からは早期発見とは言えないけど、まだ間に合うレベルと言われています。自分としてもまだ目指す日本酒は作れてないし、生きてるうちは自分の中の究極の日本酒を目指すつもりなんで、この酒蔵を離れるつもりはないんですけど、いざ経営となるとやっぱり長期間酒蔵から離れるのは現実的に難しくて・・・。」


ユミ「死なないならまずはOKだな。でもカトちゃん以外に酒蔵継げる家族とかいないの? 今更だけど、あたしカトちゃんのプライベート全然知らないからさ~。」


加藤「(飲んでるとき毎回話してますけど・・・)」


加藤「妻が震災で無くなってから、祖母と息子は神奈川で生活してます。本当は2人ともこっちに戻ってきたいんでしょうけど、色々私も思うところがあって、安全な場所で家族は暮らした方がいいのかなって。そしたらあっという間に10年以上経ってしまいました。」


ユミ「ふーん、子供何歳?」


加藤「今18歳です。今年から大学に通い始めました。」


ユミ「そっか。じゃあうちの子と同い年だ。」


加藤「え!! ユミさん子供いるんですか???」


ユミ「いるよ。今海外。たぶんまだサッカーしてんじゃないかなぁ。」


加藤「へぇ・・・。海外でサッカーって凄いですね。」



ユミ「ん? あたしサッカー詳しくないから、凄いかどうか全然分かんないけど。 まあいいや、とりあえずやるよ。蔵元。」


加藤「え?いいんですか? ありがとうございます!!」


ユミ「ただし条件付きね。」


加藤「条件?」


ユミ「そう。まず1つ目は、あんたがガンを治すこと。2つ目は4年ぐらいの期間限定ならいいかな。ちょっと期間は伸びてもいいけど、息子に継がせるための準備期間だね。それならやってもいいよ。」


加藤「・・・・・。」


ユミ「あたしが口出すことじゃないけどさ、ばーちゃんも息子もほんとはこっちがいいんじゃない?違ったらしょうがないけど、カトちゃんの息子なら仕事も出来そうだし、出来なかったらあたしが鍛えるし。ここに呼んじゃえば逃がさないから大丈夫だよ。」


加藤「(確かにユミさんからは逃げられないだろうな・・・)」


ユミ「今まで色々思うところはあったのかもしれないけど、そろそろ一緒に暮らすタイミングなんじゃないの? 病気ってそういうきっかけにすれば、悪い事だけにはならないんじゃない?」


加藤「・・・ですかね。」


ユミ「その条件が飲めなければ、あたしはやらない。逆にそれを飲んでくれれば、全力でグエン隊を仕切るよ。」


加藤「(それは今も変わらないような・・・)」


加藤「わかりました。よろしくお願いします。」


ユミ「よし、そうと決まったら1ついいかな?」


加藤「何ですか?」


ユミ「あたしさ~、1つ日本酒に付けたい名前があるんだけど。」


加藤「新作の名前ってことですか?」


ユミ「まあそうだね。さっきカトちゃんが究極の日本酒っていってたじゃん?それが出来たらさ~『裏拳』って付けようよ。」


加藤「『裏拳』・・・ですか?」


ユミ「そう、あたしの現役時代の必殺技。」


加藤「(この人、現役ってキャバクラ勤めじゃなかったっけ?)」
※加藤はユミが格闘家だったことを知らない




こうしてユミは蔵元になり、相当な圧力とほんの少しの優しさで酒蔵を引き続き発展させることに。

加藤のガンは幸いなことに寛解し、杜氏として日本酒造りに専念。しばらくして、日本酒「裏拳」を世に送り出すことになる。





数年後・・・



加藤「ユミさん!! さっきスポーツニュースでやってましたけど、息子さんプロなんですか??? しかも大怪我したって言ってましたよ!!」


ユミ「ん? それヤバいの? あたし今日この後、グエン隊とせり鍋パーティーなんだけど。」


加藤「ひざの故障って言ってたけど、全治不明って・・・。」


ユミ「ふーん、じゃあ死なないでしょ。 ん? ってことはあきら暇になるってことか・・・。 カトちゃん、あきらどこの国にいるって言ってた?」


加藤「え? ブンデスリーガって言ってたからドイツですかね? 私もサッカー詳しくないですけど。でもドイツで怪我したら病院もきっとドイツですよね。」


ユミ「オッケー。 じゃあ今度連絡してみるよ。 ありがとね~。」





ユミがあきらに連絡したのはその数か月後だったのだが。



12話に続く(始まりが20年後になってますが、ここから飛ぶと10年後です)。





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