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【準創作】Fear of closing eyes #2000字のホラー

田辺「お薬をお持ちしました。」


暁「ありがとう。ところで今日は何日だ?」


田辺「9月9日です。ちょうど旦那様がお亡くなりになって10年ですね。」


暁「やっぱりそうか。いつもより気配を感じたんだよ。」


田辺「そうでしたか・・・。時が経つのは早いものですね。」


暁「いや、普通に過ごせば10年かもしれないが、俺にとっては眠らずに過ごしているせいか、決して早くはなかったな・・・。」


田辺「そうですね、失礼しました。しかしそれが光明家の血筋でもありますので・・・。」


暁「ああ、分かっているよ。でも田辺、深い眠りに就くと逆に覚醒するって何なんだろうな。そのせいで深層心理やら残留念やら、見えなくていいものまで見えてしまうんだし。」


暁「ただ、この年まで生きてくると、親父が何故自殺したのかも何となく理解は出来る。時間軸がずれ過ぎて、自分がどこにいるか分からなくなるからな。」


田辺「はい、旦那様も苦しんでおられたのは事実です。ただ自ら命を絶つ事は断じて認められませんが・・・。」


暁「まあいい、今更この話をしたところで・・・。」


暁「今日は何か予定は入っているのか?」


田辺「はい、一件訪問の依頼があります。」


暁「重そうか?」


田辺「ええ。山田警部からの依頼なので、通常のカウンセリングではないでしょう。」


暁「仕方ない。警部の依頼を断れば東海林さんが目の敵にされそうだしな。」


田辺「そうですね。東海林警部補にはお世話になってますから。」


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予定時刻の少し前に到着すると、カーテンの隙間から強烈な念を感じた。こちらがベルを鳴らす前に母親らしき人物が異様な表情でドアを開ける。


母親「クリニックの方ですか???」


田辺「はい、ROLクリニックの光明先生と、私は臨床心理士の田辺と申します。」


母親「早く、早くお願いします。」


母親が慌てているのは事実だが、瞳の奥に得体の知れない何かを感じた。


母親「ここが美樹の部屋なんですが、2週間前に姉が突然亡くなりまして・・・。その日からだんだん様子がおかしくなって・・・。」


田辺「今はどのような状況ですか?」


母親「おそらく今は寝ていると思うんですが、起きると手が付けられなくなるぐらい暴れだしたり・・・。もう私怖くて・・・。」


暁「田辺、お母様からここ2週間の詳しい話を聞いてもらえるか?私は未来さんの様子を見てみよう。」


田辺「分かりました。ではお母様、あちらでよろしいですか?」


母親「あ、先生?気を付けて下さいね。未来は突然・・・」


暁「お気遣いありがとうございます。」


「気を付けて下さい」と言いながら、母親の瞳の奥の黒い何かは蠢きを増していた


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暁が未来の部屋に入ると、未来の瞳がこちらを凝視しているのが分かった。しかし、瞬き一つせず瞳孔が開いているようにも見え、未来がこちらの世界にいるかどうかも理解出来なかった。暁は椅子に腰かけ、瞳を閉じる。一般的に言う眠りに就く動作は、暁にとって覚醒を意味する。暁が眠り就き始めると、未来のものと想える、深く、暗く、強烈な何かが暁に重くのしかかってくる。



暁「やはり扉があるのか・・・」


暁の目の前には、分厚く頑丈で重い中世ゴシック期のヨーロッパでつくられていたような扉が現れた。決まって何か黒いものが蠢く人間の深層心理に近づくと、扉が現れるのだ。重い扉は少しずつ開き、音とも声とも言えない何かが聞こえてくる



グアア・・ァァ・・


ア、アイツ・・・



暁「あいつ?」




アイツ・・ダ・・・



暁「誰のことだ?」



アイツガコロシタンダ!!!!!!!!




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目覚めた暁は部屋を出て、田辺を呼んだ


暁「田辺、終わったよ。東海林さんに連絡を取ってくれるか?」


田辺「わかりました。では連絡しておきます。」


母親「先生、未来は?未来は?」


暁「お嬢様はちょうど眠ったところです。今後の診療についてはまた後日。」


母親「は、はい・・・」



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数時間後、母親は逮捕され未来は警察に保護された。もともと姉の美樹は病弱だったのだが、介護に疲れた母親が美樹を自殺に見せかけて殺害したらしい。ずさんな手口だったが、確証を得られなかったために暁に依頼が入ったのだった。ただ、殺害の動機は未だ分からないのだが・・・。


田辺「暁様、お疲れ様でした。」


暁「いや、割と早く対処できたから問題ない。妹も回復すれば証言出来るだろう。」


田辺「やはり目撃していたんですか?」


暁「ああ。ただ、一つ解せない事がある。あの母親の精神状態で娘を自殺に見せかけて殺すことなど出来るだろうか?」


田辺「母親の直接の逮捕容疑は覚せい剤使用だったようです。」


暁「そうか。だとすれば尚更難しいはずだ。まずは妹が無事回復することを願うしかないか・・・。」





・・・


・・・


パ・・・・パ・・・・・・
















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