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第⑨作 ムーミン谷の十一月を読んだら、これまでの悩みに終止符が打たれました

こんにちは!


9つの物語の本質的なメッセージを、

トーベヤンソンの生涯・想いと、 

キャラクターの性格を深堀して読み解く、

新しいムーミンの楽しみ方。


というテーマで

第九作【ムーミン谷の十一月】を読んで
ストーリーにどんなメッセージが秘められているのか
私なりに綴ってみました^^*


※この作品のすべての内容は

一個人である私の見解であり、

公式のキャラクター・実在の人物とは

一切関係ありません。


ご了承の上、お楽しみくださいませ!


※ネタバレ注意です※

第九作

原作の最後ともなるこの作品は、

まるで美しい絵画そのもの。


トーベの魂からあふれだした言葉たちが、

フィンランドの豊かな自然を

鮮やかに浮かびあがらせます。


こんなに心地の良い本が

他にあるのかと、疑うほどです。


この物語には、いつものムーミン一家は

いっさい登場しません。


なぜなら、前作で

ムーミン一家はムーミン谷を捨て、

灯台の島へ移り住んでしまったからです。


そうとは知らず、

どこかなつかしくて

記憶のなかにやさしく漂うムーミン谷を求め、

5人の客たちが集まってきます。


けれど、ムーミン屋敷はからっぽ。


途方にくれた他人どうしが、

「自分さがし」をするために

望みもしない共同生活をスタートさせるのです。

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この物語をつくりあげていく登場人物は、

『義務感から解放され、別の誰かになりたい』

フィリフヨンカとヘムレン


『空想という力を使い、
 現実逃避をする甘えん坊』

ホムサ・トフト


『すべてを忘れて、新しい世界を求める』

自称100歳のスクルッタおじさん。


『自分というものにつま先まで満足している』

あっけらかんとした性格のミムラ


そしてムーミン谷の住人でもある、

自由と孤独を愛する

スナフキン


ムーミン谷の十一月 挿絵

≪講談社文庫の挿絵 玄関先に座る5人≫


**********

ひとりめの人物、ホムサ・トフトは

感受性豊かで、

ひとつのものごとを深く思案する気質です。

トフト2

トフト

≪講談社文庫の挿絵≫


お話を作るのがだいすきなホムサは

美しいムーミン谷への道を、

空想のなかで毎日たゆたっています。


ムーミン屋敷の扉を開ける前に

彼はいつも眠りに落ちてしまい、

ママに逢うことは叶いません・・・。


けれど、どうしてもママに会いたくなって

いい香りのするお気に入りの住処を残し、


本物のムーミン谷へ行く道を辿って

ママに自分のことを知ってもらおうと決心し、

旅立つことにしました。


ホムサ・トフトは

トーベの分身だとも言われています。


ママを想って、

空想のなかを漂うホムサ。


トーベが「ムーミン谷の十一月」の

原稿を書きあげたとき、

母シグネはこの世を去りました。


母シグネは、トーベにとっての

「ムーミンママ」だったといいます。


母との別れを予感するように、

いつだってあたたかいはずのムーミン屋敷は

この作品の中では、ひどく冷え切っています。


*********


ふたりめの登場人物

「フィリフヨンカ」はある日、

屋根から落ちそうになり死に直面します。

フィリフヨンカ

≪講談社文庫の挿絵≫


危機から脱出した彼女が見た世界は、

今までの景色とはまるで違うものでした。


死を間近に感じたことで、

今まで当たり前のものとして

気にもかけていなかった物事が、

違う角度から見えはじめたのです。


「わたし、もう、
 フィリフヨンカになっているのなんて、
 いやになっちゃったわ。
 なにか他のものになろうっと…」


そう思った彼女は、

一番逢いたい人物である

ムーミンママとお話しをするため

いつだって楽しげなその屋敷へと向かうことに。


からっぽのムーミン屋敷を見て、

一番大騒ぎをしたのは、彼女でした。


しばらくのあいだ途方にくれ、

いつものお掃除も、得意な料理も

まるでする気が起きません。


けれどある晩、パーティーのあとに

スナフキンが置き去りにした

ハーモニカを手に取り、


一心不乱に、

心からあふれ出てくるメロディーを

奏でたことによって

彼女の人生は変化していきます。


自分という曖昧な存在を

音として具現化した彼女は、

これ以上ないほどの充足感を得たのです。


その翌日には、

いつものフィリフヨンカであることを

とても楽しめるようになりました。


********


3人目の登場人物である

「ヘムレンさん」は

変化のない日々に無意味さを感じ、

うんざりしていました。

ヘムレンさん

≪講談社文庫の挿絵≫


もうずっと前に手に入れた、

冒険を象徴するヨットに

乗ってみようかとも思いを馳せますが


自分の忙しい身を思い、

ヨットなんかにかまけていられないとも考えます。


けれどふと考えます。


そんな生活を放り投げ、

自分が何もしなくなったら世界はどうなる?


そう思いを巡らせると、

「たぶん、ちっとも変わりやしないさ。

 ほかのやつが、また、だれか、

 世話を焼きはじめるだけさ」

という答えが導き出されました。


そして自分の呟いた内容にぎょっとします。


恐ろしくなったヘムレンさんは、

遠い夏の日のムーミン谷での

楽しかったひとときを思い出し、


そしてあのなつかしい

おだやかな世界を求め、

いままでの生活に縁を切り、旅立つことにします。

ヘムレンさん 旅立ち

≪講談社文庫の挿絵≫

↑このヘムレンさんが雨に濡れながらも、

 楽しそうに歩くシーンが私は大好きです。


ヘムレンさんは実は、一度も

ヨットに乗ったことがありません。


物語の後半でスナフキンにうながされ、

ヨットを漕ぎ出すという体験を

生まれて初めてします。


彼のヨットに対するこれまでの固執は消え去り、

ボートを本当に必要な人にプレゼントしようと

考え直すことに。


強がりも、

見栄をはるための所有物もいらないのだと

気がついたのです。


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4人目の登場人物である

「スクルッタおじさん」

スクルッタおじさん

≪講談社文庫の挿絵≫


次の瞬間にはすべてのことを忘れるけれど、

みんなが自分を

老人扱いしているのを知っていて、

それが気にいりません。


しずかに夜の更けゆくなかで、

「いったい自分は、

 なにをしたいと思っているだろう」

と心の声に耳をすます。


そうすると、きれいに澄んだ

サラサラと音のする小川が

脳裏に思い浮かんできました。


そこは、どこよりも美しい谷でした。


なにもかも強要されることのない

自由な世界。


それこそがスクルッタおじさんの

求めているものだとわかりました。


しばらくその想いをあたため、

彼はムーミン谷へと出かけていきます。


********

ミムラ

≪講談社文庫の挿絵≫


5人目の登場人物である「ミムラ」は

妹のミイに会うため、ムーミン谷を訪れます。


ミムラという種族は、

ミィがそうあるように

「自分であることに満足している人物像」です。


彼女たちは、不安や反省という

「感傷」を持ち合わせていません。


お気楽で、

いつも自分の本能の赴くままに生きています。


ほかの人たちが抱えているであろう

「自己嫌悪」や、

「自分とはどんな存在?」

などの自分探しにはまるで興味がなく、


というより理解しようという気もないし、

その必要を感じることもありません。


第8作「ムーミンパパ海へいく」の

ミイとおなじく、

この物語の救世主となるのもミムラでした。


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そして、物語を動かす陰の主役は

やはりスナフキンです。

スナフキンとハーモニカ

ホムサが

「ママに今すぐ会いたい。

〝いま″帰ってこないとだめなんだ」

と叫んだとき、スナフキンは彼に言いました。


「〝ママが″会いたいのは

 だれなんだろうね?」と。


ここにやってきた

フィリフヨンカとヘムレン、そしてホムサは

「一方的に」

ムーミン一家に何かしらを求めています。


ムーミンママは誰かのために

いつも忙しなく駆け回っていますが、

けれど、誰にだって休みたいときはあるはず。


『ママが本当に求めているものって

 なんだろう??』


ホムサは自分の一方的な感情に気がつき、

今度は自分が

ムーミンママに何をしてあげられるのか

考えるように成長します。


**********

スナフキン 散歩

スナフキンが一度旅立ったのに、

途中で戻ってきたのは

「五つの音色」をムーミン谷に

おいてけぼりになったと感じたから。


ムーミン一家は不在だったけれど、

スナフキンもこれまでない人間関係の中で

色々なことを体験しました。


物語の最後に戻ってきた

想像していたものよりもずっと

美しくなった五つの音色は、


もしかしたら

この物語で寄り集まった

個性あふれる5人が奏でた

協奏曲なのかもしれません。


それぞれのキャラクターが

強いメッセージ性をもって紡がれていく

この『ムーミン谷の十一月』。


まるで人間のさまざまな葛藤を浮き彫りして

トーベ・ヤンソン自身が

それに答えていくかのように感じられました。


そういった意味で、

本当にこの作品が最後なんだなあ、

しみじみ実感できます。


********

最後に


家族との幸せな

夏の日の思い出がなければ、

MOOMINは生まれなかったと

トーベは語っていたそうです。


自分の「子ども時代」に

幕を下ろすためもあったのでしょうか、

彼女はこの9作品目を最後に

MOOMINの世界に別れを告げることを決めました。


物語の最後には、ムーミン一家が

谷に帰ってくるような情景で幕を閉じます。


家族を迎えるのは、最後まで谷に残った

トーベの分身、ホムサ・トフトです。


物語は戻ってきた家族に

「成長したホムサ」という、

新しい出逢いをもたらすことになります。


トーベは家族と、

自分が守り続けてきた世界に

永遠に続く新しい希望を

託したのかもしれません^^

この9つの原作に秘められたメッセージを

トーベヤンソンの生涯・想いと、

キャラクターの性格を深堀りして読み解いていく

新しいムーミンの楽しみ方。シリーズも

今回でおわりです。


楽しんでいただけたでしょうか?


この記事たちを読んで


ムーミンをもう一度見てみようかなあ、

読んでみようかなあ、なんて思ってもらえたら

嬉しいです😊✨


私が毎日、

ムーミン物語をまるで本を読むかのように、

ワンストーリーずつ

原作の素敵な箇所だけを抜きとって呟いてる

Twitterもありますので

よかったらフォローして

こちらでも楽しんでみてくださいね🌱

それでは!








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森のリス
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