囀る…感想29 58話感想

(以前ふせったーに上げた記事の再掲です)


これまでの経験上、自分の最新話感想は、それがストーリー上重要な内容であればあるほど後日大きく覆されることが多いと分かっています。では書く意味などないかといえば、だからこそ残しておきたいといいますか……。

最初に読んだとき自分が感じたことというのはある意味自分そのものでもあり、人様にお見せするのは恥ずかしい面もありますが、もしかしたら共感して頂けたり、(自分でいうのもおこがましいですが)救われたと感じて頂けたりすることもたまにはあるかもしれないし……。

……と自分語りの前置きはこのくらいにして、58話初読後の感想です。


前回のあと一気に抗争モードに突入かと覚悟していましたがそれに関してはまだ前奏の段階で、カジノが襲撃を受けるなど不穏な兆候はありつつも大筋にはまだ大きな動きはなかった回ともいえます。しかし別の意味で奈落の底に突き落とされました(『囀る…』通常運転)。


ですがまずは三角vs 綱川です。

抗争に関する根回しと情報収集に来たのかと思いきや、シレッと百目鬼のことをバラしてしまう綱川氏(笑)。

これはどういうことだと速攻で矢代さんを問い詰める三角さんに言い訳する矢代さんが、まるで彼氏との無断外泊が父親にバレた女子高生のようで笑えました(笑える状況でよかった……)。

自分に火の粉が降りかかるのを察知しお茶を入れ替えるフリをして席を立つ天羽さんが娘に加担した母親そのものなのも、まるで昭和ファミリー劇場を観ているようでした。

ところで三角さんは、自分が何故百目鬼を矢代さんから遠ざけようとしたのか、自覚はないんですね…。意外と感覚で生きていらっしゃる方なのでしょうか?

個人的には、少し前に書いたSSで使用した文言が天羽さんのお口から出たことに萌えておりました。


そして久々に登場の影山先生と久我くん。

こざっぱりと髪を整え小綺麗になった影山先生と、夜職を辞め昼間のお仕事に就きますます光の中の人となった久我くん。お二人仲睦まじく順調に関係を育まれているようで、羨ましいかぎりです……。

矢代さんと影山先生の友情は変わらず続いていたことにホッとしたり、果たして百目鬼がこれを知ったらどう思うのか…と懸念したり。

とりあえず、内科医なのに頑張って傷の縫合お疲れさまですが、局所麻酔はしっかりしてあげてください影山先生。


さて、さて、さて。
百目鬼です。

「力さん。ちょっとあなたそこお座りなさい」

そう思わず口から出かかりました。

いったい彼はどういうつもりなのか。
またよく分からなくなりました。

「言葉もなく 何の意味もなく 本当にそれしかないと感じるくらいには」

矢代さんにこんな風に思わせるなんて。

もちろん、その矢代さんへの想いの深さ、重さについては疑ってはいません。ただ、どうにも
「喋りがうまくない」。

もともと子供の頃から感情を表に出すのが苦手だった、竹刀を握る時だけは心が開放されたと自分でも述懐している彼は、矢代さんと言葉でコミュニケーションをとることを諦めてしまったのだろうか。

「酷いの、好きでしたよね」の問いかけは、矢代さんから本音を引き出すための最後の賭けだったのだろうか……などと思ったり。

それとも何か思惑があってのことなのか。

……とりあえず、矢代さんが他の男に逃げ道を求めるのを阻止するという目的は達成できているといえますが……。

今はその本心は分からないので、ひとまず考えるのはやめようと思います。が、あなたのその行動は想い人に淋しい思いをさせているよ、とは伝えたくなります。抗おうとしても抗えず百目鬼に強引に抱かれる矢代さんはとてつもなく色っぽくて、そのことも含めて哀しく感じてしまいます。

どうしようもない恋愛オンチのくせに、相変わらず肝心なところでは核心を突いてくる影山の問いかけに、四年前の百目鬼と、その会話を思い出してしまう矢代さん。ここでもまた、投げつけたものは鋭利な刃物となって自分自身に跳ね返る。

「人を好きになるのって、お前はどんな感じだ?どんな風に好きになるんだ?」……

扉絵の、愛しそうに優しい目で雀を見つめる矢代さんは、もうここにはいない四年前の百目鬼を思い出していたのでしょうか……。

矢代さんの上に降る雨は、泣けない矢代さんの代わりに空が流す涙のようにも見えました。

ただし、考えてみればこれは矢代さんにとってまた一歩前進したといえるのかもしれず。

以前は酷くされるのが好きだと思い込んでいた(思い込もうとしていた)のが優しくされたいと望むようになり、次には行為だけでなく言葉や意味も欲しいと思えるようになった、またひとつ呪縛から解放されたといえます。

その過程には苦痛を伴うけれど、もしかしたらその痛みもまた、必要なものなのかもしれません。

(2024/6/2)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?