識別

 洋画鑑賞を愉しむうちに、はばが広がって、日本画にも関心が向いてきた。中でも、水墨画や南画に興味がわいてきた。

 名品は心に伝わる。

 洋画は画廊でも多く見て、作家とも話をして、その作家の作品を購入する。作品の解釈を聞くこともできる。具象画ならば自分でもバックグラウンドを推察したりもできる。偽物も知らずに識別できるようになってきた。洋画を描くスタイルのようなものが推測できるようになったからかもしれない。何よりたくさん観るようにしたからだろう。

 水墨画は、現在ではあまり多く観る機会がない。近時、長谷川等伯を主人公にした小説がベストセラーになり、京都智積院の図屏風の観覧者が増えたということはきいた。それも数年前のことで、水墨画の人気も落ち着いているようだ。機会があれば、ゆっくりたくさん観たいものだ。

 気になっているのは、水墨画の取引価格が想像よりもひどく安いことだ。それには、長い間に市場にあらわれた偽作の多さが影響しているのだろう。自分としては、この安い価格で、良い作品を入手して鑑賞したいと思う。何より、日本画は自らのテリトリーで愛玩するものだと思う。そうではあるが、偽作を偽作と識別する力がない。

 これまで、自分は日本の明治初期のいわゆる手彫切手収集をさかんにしていたことがあった。手彫切手は一枚の取引価格が最低でも数千円以上なのに非常に小さな印刷物なので、世界中に偽作が多くある。そのおかげで国際市場では偽作のおそれがあるときは取引価格も非常に安価だ。現時点での水墨画の取引価格と同様だろう。手彫切手については、最初から専門家集団の中に入れてもらい、鑑識眼を養わせてもらったので、真贋を誤ることはない。

 水墨画でも、識別する力があれば、保存すべきものを偽作も真作も混交している中から救い上げることができるだろう。モネの睡蓮の大作がこともあろうにルーブル美術館の倉庫に放置されていたばかりか損傷してしまったということを聞く。日本の水墨画の優品が、偽作の混交する中に放置されて失われるようなことがないように、自分の眼力を養いたい。

 明日からまた、機会あるごとに水墨画のすぐれた作品を観て、自分に力をつけよう。



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